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14.入隊

 入隊式から一週間。この期間は正式な部隊編成される前の研修期間のようなものらしいが、今までのぬるい生活が嘘のように規律が重んじられた生活となった。食事、入浴、自由時間その他すべてが教官に管理され、あの優しかった藤原教官でさえ「整列が遅い!」と怒鳴る始末だ。

 

 ほぼすべての時間を体力錬成に充てられ、魔物についての授業をしている時間が幸せに思えてくる。次の身体強化についての授業の準備をしているとカラカラという音とともに扉が開かれた。


「おまたせー」


 緩い感じの挨拶とともに現れたのはスキンヘッドで身長が2メートル近くあり、制服の上からでもわかるほどに隆起した筋肉を持つ教官だった。


不破ふわ 剛鉄ごうてつですよろしくー。では今日はね、身体強化について教えていきたいと思います」


 厳つい見た目とはうらはらにふんわりとした丁寧なしゃべり方に強烈なギャップを感じる。


「身体強化と言いますが、何をどのように強化していると思いますか?わかれば挙手を」

「はい。筋肉だと思います」


 眼鏡キャラなだけあってすかさずに霧生君が答える。


「正解です。身体強化とは筋線維を魔力で包み込む、又は魔力で疑似筋線維作り出し、強化することで自分の能力以上の動きができるというわけです。ですがそう言われてもどうすればいいかわからないと思いますので、こちらをご覧ください」


 プロジェクターには解剖学で使われるような筋線維が剝き出しの人間が写っており、指さし棒で肩側の筋線維の先と前腕側の筋線維の先を指す。


「起始部と停止部に注目して下さい。上腕二頭筋で言うと肩側が起始部きしぶで前腕部が停止部ていしぶです。この筋線維流れをよく覚えて。そしてここに魔力を流します。まずは大雑把に、上腕二頭筋の全体を覆うように魔力を流してみましょう」


 魔術紋を作る際に魔力の流れを感じ取ることはできている。あとはそれを筋繊維に流す事を意識すれば良いだけだ。


「…?」


 流し込んでいる感覚はあるが如何せん実感がわかない。


「皆さんできているかわからないという顔をしていますね。ここで確認のために私と腕相撲で勝負してみましょう!まずは何もしない状態で腕相撲をした後、魔力を流してもう一度することで実感できると思います」


 前の席の者から順番に腕相撲を行っていく。その間不破教官は「うんうん、できていますねー」と笑顔で相手をしていた。


 俺の番になり普通の状態で腕相撲を行うが、いくら力んでも不破教官の腕は1ミリも動かなかった。続いて筋線維に魔力を流し、再度腕相撲を行う。


 こぶしを握り、筋肉を意識しながら力を込めた。明らかにさっきよりも力が籠っているのが実感できた。


「おぉっ、君は魔力の操作が上手なようだね。素晴らしい」


 1ミリほど動いたが、相変わらず笑顔のまま数瞬後には元の位置に戻される。


 この調子で全員の腕相撲対決が終わったが、少しも疲れた様子を見せない教官に対し全員がドン引きしているのが手に取るようにわかる。


「皆さんなかなか上手ですね。でもまだ上を目指せますからね、一日のうち一時間はこの筋線維と睨めっこして魔力を流し込んでみてくださいね」


 教官がちらりと時計を確認し「もうこんな時間か」というと衝撃の事実を告げる。


「最後に、一番大切なことをお伝えします。それは筋トレです。筋線維を太くすることでより身体強化の効率が良くなりますからね。細い繊維に魔力をまとわせるよりも太い繊維に魔力をまとわせたほうが圧倒的に強化されますし、私のように鍛えぬけば素人の身体強化くらいなら素の筋肉で対応可能になります」

「……?」


 風間君が沈黙を破る。


「じゃあ本日教官は、身体強化を…」

「はは、もちろんしていませんよ。では今日はこれで終わります」


 何事もないかのように出ていくが、榊原教官といい不破教官といい、とんでもない化け物揃いだということを思い知らされた。


 授業と授業の間の十分休憩中、教室では多くの人が腕相撲で勝負している姿が見える。おそらく先ほど習った復習でもしているのだろう。


 ただ、これは「強くなりたい」という思いや勤勉さというよりは未知の事象に対しての興味本位といった感じで楽しそう身体強化を行っている。近くにいた赤城君や霧生君でさえも腕相撲をしていた。


「いやぁまさか教官が何もしてない状態であんなに強いとは思わなかったね」

「心が折れちまいそうだ…」


 肉他派の真嶋君が明らかに落ち込んでしまっている。


「でも教官の発言的には魔力操作よりも筋肉が大事みたいな雰囲気だったし、この中では真嶋君が一番伸びしろあるんじゃない?」

「あー、まぁそうか。そいえば赤城とお前褒められてたよな。コツとかあるのか?」

「んー、俺の感覚なんだけど、心臓から血管を通って血が流れるように魔力を流すみたいな感じかな?」

「心臓から……」


 真嶋君が目をつむり集中する。すると真嶋君の二頭筋が心臓の鼓動と同期するようにドックンドックンと脈打ち始める。

 

「おぉぉ出来たぞ天ケ瀬ぇ!お前すごいなぁ!」

「ぶふぉっ…!!」


 その異様な様子に思わず吹き出してしまうが、喜んでるし良しとしよう。


 いまだ脈動する二頭筋に喜びを露わにする真嶋君を横目に次の授業の準備をする。次は魔法基礎だ。魔法の適正はないみたいだが、俺でも使える魔法が紹介されることを信じてちゃんと聞いておこう。


 通常の学校のようなチャイムが響き、開かれた扉にいたのは初日から恐ろしい印象を植え付けた榊原教官だった。


 教室の空気は張り詰め、あの時同様自然と背筋が伸びあがる。


「楽にしろ。あの時は恒例の儀式みたいなものだ。命の危険がある場面以外でむやみやたらと怒鳴り散らすなんて野蛮なこと、俺はしない」


 そんなこと言われても植え付けられた恐怖は簡単にはぬぐえない。赤城以外はいまだ緊張感あふれる面持ちで教官に対面している。


「そのままでも良いが、背筋を伸ばすのに必死で俺の言うことを覚えていない、なんてことないようにしろよ」


 ため息をつき、プロジェクターを操作し始める。スクリーンには一般的な魔方陣が映し出されていた。


「中高でも習うと思うがこれが一般的な魔方陣だ。俺たちはこの形を覚え魔方陣を展開、そこに魔力を流し込んで魔法を発動する。今まではこれだけだったが、古い文献から「詠唱」の存在が確認された」


 召喚術を発動する際の祝詞みたいなものか?


「かつて転生した日本人は異世界の法則にのっとり詠唱後に魔法を発動していたが、無詠唱で魔法を発動できるものが現れたことにより徐々に廃れていき、無詠唱がスタンダードになってしまったようだ。しかし詠唱を行ったほうが確実に威力が高い魔法が使える研究結果が出ている」


 プロジェクターの映像が変わり、そこには一つの機械がおかれていた。


「この機械には特定の魔法を発動するための魔力と魔法陣を投射するプロジェクターが埋め込まれており、ボタンで詠唱を開始するようプログラムされている。最初が無詠唱だ」


 機械から魔方陣が浮かび上がり、小規模の火炎が生み出され、的の中心をを少し焦がした。


「次が詠唱有り」


 同様に機械から魔方陣が浮かび上がり次は音声も流れる。そして小規模の火炎が生み出され、的の全てを破壊した。


「見ての通り詠唱が有るほうが威力が格段に上がる上に魔方陣の安定感もあがる。この魔法基礎を通じて俺たちが見つけだした詠唱をすべて暗記。それと魔物との戦い方を学んでもらう。わかったな?」

「「はい!」」


 恐怖感から統率の取れた軍隊のように全員の声が重なる。


「いい返事だ。では詠唱が書かれた紙を配る」


 配られた紙には五大魔法ごとに十種類ほどの魔法名と詠唱が書かれていた。魔法にも等級があるようで第○等士魔法、第○等曹魔法、第○等尉魔法に分けられるようだ。


 詠唱は、短いものは十文字程度、長いものは五十字ほどの文章が記載されていた。


「来週までに覚えるように」


 榊原教官の無理難題にざわざわしていると「文句があるやつは前に出ろ」という一言に一蹴された。

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