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10.真実を誰も知ろうとしない

 魔物の襲来から1か月後。沙羅は八雲さんに引き取られ、別れ際にまた泣かせてしまったが最後には一枚写真を撮り、それを携帯の待ち受けに設定すると「きもい」と言われてしまったが許してくれた。


 俺は児童相談所に相談後、児童養護施設に入所し、何とかまた学校に通えるようになった。非常にありがたいことだが問題があるとすれば、クラスメイトやその他生徒が俺を敵視しているということだ。


 俺が単眼の巨人を引き連れて体育館を離れた後もまだ魔物の群れが攻め込んで来ていたらしい。今度は魔法が通じる相手だったようで残りの先生や生徒全員が死に物狂いでなんとか対処できたと先生から聞かされた。


 そして俺は何やらわけわからんことを叫んだ挙句、敵前逃亡した軟弱者のレッテルを張られているということも教えられ「気をつけろ」と言われたがいったい何に気を付ければいいというんだ。


 久しぶりに登校し、教室に入った瞬間、空気が一変したのがわかった。


 俺の前まで肩で風を切って歩いてきたのは、大槻龍二。校内で三番目に魔法の扱いに長けていて、ツンツンと逆立てた髪型がその性格を象徴していた。


「おいおいぃ、弱虫が登校してきたぞ?よく戻ってこれたなぁお前」


 大槻の言葉に取り巻きも態度を大きくする。


「私だったら恥ずかしくて絶対これなーい」

「みんな見てたぞ。お前が戦いから逃げるところ」


 それが本当に俺を指しているとは思えなかった。誤解だと言いたかったけれど、誤解を解く術も、味方してくれる友人もいない。


 背中に感じる無言の圧力。隣の席のクラスメイトがちらっとこちらを見て、すぐに顔を背ける。


「言い訳があるなら聞いてやるよ」


 怒り、軽蔑、嫌悪。それらが入り混じった無言の圧力が、皮膚を通して直接心臓を締めつける。誰も何も言わない。だが、その沈黙こそが、叫び声よりも残酷だった。


「どの面下げてきたんだおめぇ?あ?男として恥ずかしくねえのかよ」


 冷たい言葉が繰り返されるたびに身体が小さくなるのを感じた。本当のことを言えればよかった。でもあいつらを倒した証拠なんてなにもないし、実際魔法が使えない俺があいつを倒したといっても余計馬鹿にされる様な気がして何も言い返すことができなかった。


 何も言えずにただその場に立ちすくむ俺に、再び冷たい視線が突き刺さる。


「なんとか言いやがれ!!!」


 胸倉をつかまれそのままの勢いで顔面を殴られる。脳が揺れ、顔の骨が砕けたんじゃないかと錯覚するほどの激痛。


「お前がちったぁ役に立つ魔法を覚えていれば!!あいつらは…あいつらはぁ!」


 誰かが死んだのだろう。教室には空席が多く、大槻の周りをうろちょろしてたやつも数人いないことに気づく。大事な友達が死んだらそりゃ悲しくもなる。行き場のない怒りをぶつけたくもなるんだろう。


 でもそれって俺に関係あるのか?


「俺が魔法使えてたら、なんか変わったのかよ」

「…は?」

「お前らの魔法、あの魔物にくそほども効いてなかったよな?」

「だからなんだよ。お前が逃げたことに変わりはねえだろうが―」

「お前らの弱さを棚に上げて!!」


 大槻の言葉を遮るように大声を出す。


「俺のせいにしてんじゃねえよ」

「てんめぇっ…!」


 唸るような声とともに、拳が一直線に飛んできた。


 咄嗟に体を捻る。拳の先端が頬のすぐ横をかすめ、わずかに皮膚が焼けるような感覚が走る。速い。でもクラッグ・オーガ程の威圧感はない。


 大槻は苛立ちを隠さず振り抜いた拳をそのまま次の攻撃へと繋げる。勢いのついた回し蹴りが、横から迫る。頭を腕で守るが、衝撃で体がよろめく。


 その先にいたのは伊藤と矢吹。大槻の取り巻きだ。口を三日月型に歪ませると二人で俺を羽交い絞めにする。


「お前らしっかり押さえてろ…」


 あとは想像通り。こいつらが満足するまで俺はサンドバックにされ、クラスメイトの誰もが見て見ぬふりをした。HRの時間になってやってきた先生も、一応保健室に連れて行ってはくれたが「喧嘩両成敗だ」と言い、俺と大槻に反省文を書かせたっきりなんの対応もない。


 事を大きくするのを恐れた醜い大人だ。


 そして俺の、毎日授業を受けて即帰宅の代わり映えのない日々にサンドバックの行事が追加された。


 それともう一つ。施設の子供達と常駐の職員が寝静まった頃。燈華さんとの秘密の授業が始まった。俺の魔力切れ以降呼び出す暇がなかったが、聞きたいことがあったのたので試しに「燈華さーん」と呼んでみると、地面に俺が最初に石で書いた拙い魔方陣が浮かび上がり、そこから燈華さんが現れた。


「どうかわたくしに敬称をつけて呼ぶのはおやめください、主殿」


 現れた瞬間胸に手を当て頭を下げる。


「どうして?」

「わたくしはあなた様を主と認め、付き従うことを誓いました故、そのような態度を取られることが非常に悲しくございます。なにとぞ、もっと砕けたしゃべり方をしてはいただけないでしょうか」

「まぁそういうなら…。ていうかそれが結構謎だったんだよね。俺のご先祖様は「召喚術というのはただ欲しい存在を自分の者にできる術すべではありません。召喚した者にも自我があり、感情があります。」って言ってたんだ。なのに燈華さ、燈華は召喚した途端、俺のことを最初から主って呼んでたし」


 あの時は必死でなぜなのかと疑問に思うことすらなかったけど、よくよく考えればおかしいことに気づく。ご先祖様の話を聞いた感じ、召喚後、召喚対象に対して何かをすることで俺を主と認めさせる必要があるんじゃないかと思っていた分肩透かしを食らった気分だ。


「流石はリュミエラ・ヴァルティス様でございます。言うことが人間を超越しておられますね」

「ご先祖様を知ってるの?」

「ええ。わたくしが幼き頃、二度も命を助けていただいたのです。そしてどうしてもあなた様の力になりたいと懇願したのですがたしなめられてしまいまして。それでもとぐずるわたくしを見たリュミエラ様がこうおっしゃいました「いつの日か私の子孫が君を必要とする日が来るだろう。その時彼らの力になってくれ」と」


 なるほど、ご先祖様のその一言のおかげで俺の命は救われたわけか。理解はできないが、異世界から人間を召喚するような超常的なことをやってのけるやつが言うことだと考えれば納得はできる。


「じゃああの単眼に見られても魔法が使えたのはどうして?」

「わたくしが使うのが「魔法」ではなく「魔術」だからでございます」

「魔術?」

「えぇ。魔法と魔術は似て非なるもの故、問題ないだろうと判断した次第でございます」

「そうだったんだ。その二つは何が違うの?」


「良い質問でございます」というと二つの違いを説明してくれた。


 まず「魔法」とは、自然の法則を超えた力を使って現実を変える、いわゆる超自然的な力を指し、物を浮かせる、火を出す、あるいは時間を操るといった現象を引き起こすことができる神秘的な力。


 一方「魔術」は、特定の知識や儀式を使い、物事を意図的に変化させる技法であり、魔術師は呪文や符号、儀式を通じて自然界の力を引き出したり、操ったりする技術を身につける必要がある。魔術は魔法よりも知識や訓練が必要だそうだ。


「簡単に申し上げますと、魔法は神秘的で直感的な力を指し、魔術はその力を技術的に引き出す方法に焦点を当てた概念であると言えるでしょう」

「…?」

「魔法使いたちは技を行使する際、魔方陣を用いられます。その魔法陣はおおよその形が決まっておりそこに流し込む魔力量や想像力、適正により発動する魔法が異なります」

「なるほど?」


 燈華の言うことを全く理解できないでいると、より簡単にかみ砕いて説明をしてくれた。


「一方魔術師は技の行使に魔術紋を使用いたします。この魔術紋は行使する技毎に違う紋様が使用され、その紋様の意味を深く知ることでより強力な術の行使が可能になります。共通点としましては魔法陣も魔術紋も己の魔力により作り出すもの、くらいでしょうか」


 そしてうれしそうな声音でこう続ける。


「主殿の適正は魔術寄りにあります故、魔法の発動が苦手なのはあたりまえかと」

「じゃあ魔術なら俺にもできるってこと?」

「さようでございます。しかし先ほども言いました通り魔術を行使するには正しい知識と訓練が必要となりますが、主殿の通う学び舎では詳しいことは教えてくれそうもありませんので、差し支えなければわたくしがお教えいたしますが、いかがいたしましょう?」

「お願い。俺に魔術を教えて。もう家族を失いたくないんだ…」


 こうして俺の鍛錬の日々が幕を開けた。

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