57 秩序という名のチート
かなり厄介そうだな、【新世界秩序】ってやつは。
ゴルゴロスがあのスキルを使った瞬間、空間の歪みが俺を襲った。
視界はぐにゃりと歪み、上下左右の区別がつかなくなる。さらに嫌な感じの気配――光と闇がせめぎ合ってる、そんな雰囲気だ。
まずは一発――試してやるか。
俺は【神速】で一気に間合いを詰めると、防御貫通100%の【ワールドブレイク】を発動。棍棒の両手二連撃をぶちかました。
その手ごたえは――あった。確かにヒットしたはずなのに、ダメージが出ない。
光の幻影か?いや、違う――もっと嫌な感じがする。
ゴルゴロスの薄い笑みが、遠くに見えた。
攻撃はヒットしたが、無効化された感覚……対戦ゲームで経験したことあるあの違和感に似ている。
……仕方ない、次の攻撃で見極める。
するとゴルゴロスが魔剣――ソウルイーターを構えてきた。その赤黒い光、どう見ても厄介なやつだろ。
俺は一気に間合いを詰める。
次の瞬間、光と闇が入り乱れる世界で、ゴルゴロスの剣撃が俺に迫ってきた。
――ガキィン!
俺はそれに合わせて0.01秒のタイミングで【パリィ】することで発動可能になる【燕返】の倍返しカウンターを決めて見せた――通常はヒット確定のだが結果はノーダメージ。
ゴルゴロスは涼しい顔で俺を見つめた。
※【燕返】0.01秒のタイミングで【パリィ】を決めると発動しダメージを倍で跳ね返すカウンター技。【時を統べる者】を持つ拓海ならではのハイリスクハイリターンなスキル
さっきと同じだ。光の幻影でも殴らされたのかと思ったがそんな単純な話じゃない。無傷のゴルゴロスが悠然と笑ってやがる。
すると今度はゴルゴロスの方から攻撃を仕掛けて来た。あの構えは16連撃がくる!
【時を統べる者】——俺は集中力を最大限に高めた。
視界がスローモーションになり、ゴルゴロスの動きがじっくり見える。俺はここで、俺の持つ最強のカウンタースキル【虎穴】を発動。
※【虎穴】成功する度にタイミングが狭くなる&失敗時に受けるダメージが倍化するのを条件に連続【パリィ】を可能にする超ハイリスクなカウンター技。締めに【燕返】を合わせることで、蓄積した攻撃力を倍返しする。
俺は魔王の超高速な連続攻撃を連続【パリィ】で弾きながら、最後の16撃目が当たる瞬間0.002秒のタイミングで【燕返】を成功させた。
これにより強力な16連撃x2倍のカウンター攻撃が、ゴルゴロスのど真ん中に、防御無視の【ワールドブレイク】でもって突き刺さった。
ズババババババババババババババババンッ!
今度こそ確実にヒットした……と思ったんだけど、またしてもゴルゴロスにはダメージが無い。
おいおい、この世界のバランスだかルールだかで、俺の棍棒攻撃【ワールドブレイク】は無効化出来ないはずだろ。
ん?まてよ、ルール……新しい秩序……!?
「おい魔王!もしかして……結果を書き換えたか?」
するとゴルゴロスは不敵な笑みを浮かべた。
「【新世界秩序】は私の管理する領域。ここでの秩序は私が決める。つまり結果を変えるのも、秩序の一環だ」
やはりそういうことか。
ゴルゴロスがどんな速さで動こうと今のカウンターは回避不可能。つまり発動した時点で結果が確定する技なんだが、奴は結果そのものを変えてしまったのだ。
「貴様の攻撃が通じたか、有効かどうかは私の判断次第ということだな」
こいつは本当に面倒だな。要するに「自分に都合の悪い結果は全部なし」ってか。ゴルゴロスのこの能力、例えるなら……じゃんけんで負けた後に「その手は勝ちになる」って後付けで変更するようなもんだ。
つまりゴルゴロスは自分に関わるルールを結果を見てから「改変」してるってこと。奴は一度攻撃を受けても、それを無効だったという結果に変更している。
どこまでデタラメなチート能力だよ!クソゲーか?ありえんだろそれ。
「審判が買収されてるってレベルじゃねえぞ!このチーターめ……まあそれくらいのハンデがないと俺には勝てないってことだよな」
軽口を叩いてみたが、正直、どう攻略するか悩みどころだ。
俺の持つ【時を統べる者】はあらゆる行動を集中によってスローモーションにしてしまう超戦闘向けの異能力だ。
さらに【時を超える者】に至っては自分以外の時間を数秒止めたり、少し過去に巻き戻したりも出来る優れモノっていうか完全にチートな能力。
しかしそれをもってしても【新世界秩序】には太刀打ち出来ない。
こっちが確実に攻撃を当てたとて、この魔王は最終結果を変更できるんだからどうしようもないのだ。
そりゃ歴代勇者が何人挑んでも勝てないわけだよ。相手が勝利条件を都合よく変更してるんだからな。
——ただ、救いは魔王も生物ってところだ。
AIならどもかく、集中力や体力も含めて、こんな大技をリスクなしで無限に使えるとは思えない。
一見無敵に思える【新世界秩序】にも、どこかつけいる隙があるはずなんだ。
それから俺たちは、お互いのチート能力の隙を探るべく、幾度となく技をぶつけ合ったが埒があかないとはまさにこの事だ。
「時間操作」と「結果改変」がぶつかり合うこの戦い――俺たちの感覚の中では、もう2日間くらいやり合ってる気がする。
実際にはまだ2~3分しか経ってないんだが、お互いに確実に疲労が溜まっている。
「さて、次はどうする?」
やや汗を滲ませながらもゴルゴロスは悠然と構えている。
俺も息を整えつつ棍棒を肩に担ぎ、にやりと笑う。
俺はチート野郎を見つけると、どうやって懲らしめてやろうかと燃えるタイプだ。
そして、不正ツールでとことん秩序を破壊するチーター達を笑いながら屠ってきた。
「あんたみたいなチート野郎には(ゲームで)何度も遭遇した事がある……」
「ほう、それで……結果はどうなったんだ?」
「誰かがつけた、俺の別名教えてやろうか?———『チーター・キラー』だ」
チート野郎は、それ以上の戦略とテクニックで徹底的にハメ殺す!ゲームオーバーを知らない天才縛りゲーマーの恐ろしさ、たっぷり教えてやるよ。




