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56 魔王の正義〜新世界秩序〜

 灰色の空が戦場を覆い、冷たい風が乾いた大地を撫でていた。その中心には二人の男が睨み合っい立っている。


 一方は黒い鎧に包まれ、赤い瞳が暗闇を貫くように光る魔王ゴルゴロス。


 もう一方は、両手に棍棒を構える勇者拓海。


 魔剣ソールイーターを構える魔王ゴルゴロスの低い声が静寂を切り裂いた。


「勇者拓海よ、貴様はこの戦いの意味を理解しているのか?」


「意味?」拓海は片眉を上げ、棍棒をくるりと回しながら応じる。


「アンタの破壊を止める以外、何も考えてないが?」


 ゴルゴロスの瞳に微かな怒りが宿る。


「単純な男だ……この戦いは、歪んだ世界を破壊し、新たな秩序を創造するために、創造神ユグドラが創った枠組みを正す為にやっている」


「世界の枠組みを壊すだ?」拓海は首をかしげる。


「あんたがユグドラよりまともだって理屈はどこからくるんだ?」


「私が創るのは真の理想郷だ。人族も魔族もない、誰もが自らの意思で生きる。だがその秩序を実現するためには、均衡を保つという名の欺瞞を続けるユグドラを滅ぼさねばならない」


 魔王ゴルゴロスの声には狂気と理性が混ざり合っていた。しかし、拓海は棍棒を握り直し、軽く肩をすくめるだけだった。


 魔王は静かに問いかける。


「今までの勇者にも問うてきたことを、お前にも念のため聞いておく。……召喚勇者は、あの創造神の尻拭いのためにこの世界に強制的に招かれ、命のやりとりをさせられている……それを理不尽だとは思わないか?」


「そうだな、それには同意する」


「では私とともに、創造神を倒し、新しい秩序を創る気はないか?」


 すると拓海は笑う。


「おいおい、どっかで聞いた魔王のセリフみたいだな。あんたに仕えたら、世界の半分でもくれるのか?」


「世界の半分だと?……面白い、お前が望むなら叶えてやっても良い」


「イエスを押したらゲームオーバーじゃねえか!」


 拓海は棍棒を握り直し、静かに答えた。


「当然答えはノーだ。誰かのテンプレに乗っかる気はない、俺は自由にやるぜ」


「縛られるのが嫌い……か」


「いや、自分を『縛る』のはむしろ大好きだ」


「わけのわからぬ男だ……ならば見せてやろう。私の力でお前を完全に制御することが可能だということを」


 拓海は棍棒を両手で握り、軽く振り上げる。


「元最強勇者オーリューン様の、お手並み拝見といこうじゃねえか」


「その減らず口がいつまで続くか見ものだ」


 ゴルゴロスが魔剣を振りかざすと、空間が歪み、一瞬で拓海の眼前に現れた。そして次の瞬間、必殺技【瞑神剣舞】が放たれ、16回連続となる斬撃が、まるで暴風のように拓海を襲った。


 しかし、拓海は一歩も動じることなく、それぞれの斬撃を紙一重でかわしていく。さらに棍棒を回転させ、絶妙なタイミングで剣の軌道を逸らす。


「ほう……!」ゴルゴロスの口元が僅かに歪む。


「これをすべて避けた人間は……はじめてだ」


「おいおい、16連射とかファミ○ンじゃあるまいし、今時こんなもんが必殺技か?」


拓海はニヤリと笑う。


「次はこっちのターンだ!……コマンド”こうげき”ってな!」


 拓海はゴルゴロスの背後に一瞬で回り込むと、棍棒を叩きつけた。その一撃がゴルゴロスの肩を捉え、【ワールドブレイク】による防御貫通の重い衝撃音が響く。


「ぐっ……!いま、時間を操作したのか?!」


「どうした?俺はチートで勝ちたくないから、今のは手加減してたんだがー?」


 ゴルゴロスは肩を押さえながら後退し、険しい目つきで拓海を睨んだ。

 その赤い瞳が怪しく光り、魔剣ソウルイーターを肩越しに水平に構え直す。


 同時に、戦場の空気が震え、黒い瘴気が地面を這い回る。瘴気の中から、無数の人影が浮かび上がった。


「この剣には歴代の勇者たちの魂が封じられている。同じ勇者の力で、お前を葬ってやろう」


「はは、そっちもチート魔王らしくなってきたな!」


「愚か者が……ユグドラが与えたユニークスキルで、勇者自らも苦しむがいい!」


 ゴルゴロスの魔剣ソウルイーターが輝きを放ち、歴代勇者たちのスキルが次々に解放される。


 勇者スキル【神速】――ゴルゴロスが瞬間移動のような速さで拓海に迫る。


 その動きは猫よりも速い拓海の反射神経をもってしても視認するのが限界だがその時。


【時を統べるもの】――限界まで集中力を高めた拓海の瞳が光を帯びる。


 周囲の空気が粘性を持つかのように動きが鈍化する。さらに拓海の視界にゴルゴロスの高速移動が緩やかな光の軌跡として浮かび上がる。それを見切り、最小限の動きでゴルゴロスの剣をかわしつつ、逆にパリィで剣を弾き返した。


「速さだけじゃオレは捉えられないぜ!」


 勇者スキル【時空断層】――次の瞬間、ゴルゴロスの周囲の空間が歪む。


 時間そのものが重くなり、拓海の体が鉛のように動かなくなる。しかし、彼の集中力がさらに極限に達する。


「そっちが時空を操作するなら、根底から変えてやるよ」


【時を超えるもの】――時を操る拓海の異能が再び輝きを放つ。


 時間の流れを引き戻し、自分だけを「加速」させる。その結果、周囲の遅延効果が完全に無効化され、通常の動きに戻る。それどころかゴルゴロスより速い軌道で動き、彼の懐に潜り込む。


「未来を進むだけじゃ俺を止められないぜ」

「きさま、どこまでデララメな能力だ!」


 勇者スキル【絶対防御】――ゴルゴロスの体を光のバリアが覆う。


 どんな物理攻撃も弾き返されるその守り。しかし、拓海は冷静だった。


「この絶対防御を貫けるものならやってみるがいい!」


 ゴルゴロスが嘲笑するように叫ぶ。


 しかし、拓海は冷静だった。その目が不敵な光を放ち、彼の手に握られた棍棒で【乱撃】を見舞う。


 棍棒しばりを条件に与えられた――【ワールドブレイク】が炸裂。


 ――ズガアアアアアアン!


 その名の通り、世界の理や法則すら貫通するデタラメな破壊力。


 激しい衝撃が戦場を包み込み、光の壁に大きな亀裂が入る。ゴルゴロスの瞳が驚愕に見開かれる。


「ば、馬鹿な!【絶対防御】が…割れるだと!?」


 さらにもう一撃、拓海は容赦なく棍棒を振り下ろす。防壁はまるで砕ける氷のように崩壊し、光が消滅した。


「絶対?この世に絶対なんて存在しない」


 ゴルゴロスが後退する。今までの余裕は完全に消え、その表情に動揺がみられた。拓海は棍棒を肩に構えながらにやりと笑う。


「俺は最強勇者らしいぜ?つまり俺より弱い勇者スキルじゃ無理ってもんだろ」


「では、これならどうかな!」


 勇者スキル【天の裁き】——雷雲が空を覆い、無数の雷が降り注ぐ。


 しかし、拓海は微動だにしない。


「なるほど…俺の弱点、広範囲攻撃か。しかしこれも、もはや意味がないんだよなあ」


 拓海が極限集中すると、時間そのものが静止する。雷撃が空中で止まり、戦場に静寂が訪れる。拓海はその中を悠然と歩き、ゴルゴロスに向かっていく。


「つまり『時を超えるもの』で、雷が落ちる時間をなかったことにすればいいだけの話だ」


 動けなくなったゴルゴロスの目の前で、拓海が勝利を確信した笑みを浮かべる。


「さぁ、歴代勇者の力ってやつをもっと見せてくれよ。それとも、もう売り切れか?」


「これも抗うのか……おどろいた、こんな男がいたとはな」


 ゴルゴロスは驚愕し、後退しながら呻く。


「たしかに、貴様には勇者スキル程度では、無意味なようだな」


「所詮は過去の遺産だろ……あんたも含めて」


 拓海は肩をすくめる。


「俺は常に、新しい刺激を求めるタイプなんでね」


 ゴルゴロスはその言葉に少し考え込んだ様子で落ち着きを取り戻すと、再び魔剣ソールイーターを構え直す。


「認めよう……お前はたしかに()()()では最強の勇者だ。それを超える最強のスキルで終わらせてやろう」


 魔王ゴルゴロスが魔剣を掲げた瞬間、空間が裂けるような音が響き渡った。


 そしてユニークスキル【新世界秩序ニューワールドオーダー】が発動する。


 戦場全体が光と闇に包まれ、空間そのものが魔王の意志によって歪む。

 黒と白の格子模様が現実の上に重なるように広がり、地平線はねじれ、空は割れ目から崩れ落ちるかのようだった。


「この空間では私が、光と闇を支配する神となる。お前の動きも、時間も、全て私の掌の上にある!」


 次の瞬間、重力が逆転したかのように足元の感覚が消え、体が宙に浮かび上がった。上下の区別がつかない中、周囲の物体が宙を漂い始めた。

 耳をつんざく金属音がどこからともなく響き、次の瞬間には全ての音が吸い込まれたように消えた。無音の中、心臓の鼓動だけが異様に大きく聞こえる。


「【新世界秩序ニューワールドオーダー】の影響下に入ったお前は、あらゆる能力、行動、欲求が制限される。さあどうする、勇者拓海!」


 しかし、闇の中で拓海の声が響く。


 「へえ……また面白い『縛り』が増えたな」


 ゴルゴロス:「面白い……だと?」


「言ったろ、俺は『縛り』が多いほど燃えるんだよ」


 ——さて、この【新世界秩序】(無理ゲー設定)。どう遊んでやろうか?


 闇の中で棍棒を構え直す拓海の姿が、かすかに光を放つ。


 ——ここから創造神に匹敵するという魔王ゴルゴロスの【新世界秩序】ニューワールドオーダーの恐怖が、始まろうとしていた。

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