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54 魔王討伐〜美月との別れ

 ムスターファの背に乗り、地上に舞い降りると、目の前には美月が立っていた。


 疲労の色が浮かんでいるが、その眼差しは凛々しく、勝利を掴んだ者の輝きを放っている。彼女の背後には、多くの冒険者や兵士たちが集まり、勝利の喜びを分かち合う輪ができていた。


 俺はムスターファの鱗に手をついて飛び降り、美月のもとへ駆け寄る。


「やったな、美月!絶対にやってくれるって信じてたぜ!」

 

 自然と笑みがこぼれる。

 

 一瞬驚いたように目を丸くした美月だったが、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。


「ありがとう、拓海。……でも、これは私一人の力じゃない。みんなが支えてくれたから……」


 彼女の視線は周囲に向けられ、感謝の念がにじんでいる。その言葉に俺は頷きながら、ふと周囲を見回した。


「……アルティナは?」


「アルティナは……」

 

 少し迷ったが、正直に伝えることにした。

 

「彼女が大神官になって、【センチネル】を発動したんだ。今は大神殿から離れられない」


 美月の表情が一瞬曇る。


 だが、すぐに何かを納得したように、静かに頷いた。その時、背後から近づいてくる重厚な足音が聞こえる。


「やはり、アルティナはその選択をしたのか……」


 聖王スルバーンだ。黄金の鎧を纏い、戦場の埃を浴びたその姿は、まるで伝説の英雄そのものだった。


「拓海、彼女の決断を受け入れるのか? 大神官は婚姻が許されぬ職だぞ」


 その言葉は重く、確かに胸に響いた。しかし、俺たちの関係に、この世界の規則や理など関係あるはずがない。


 俺は迷うことなく答えた。


「関係ないです、職がどうであれ、俺はアルティナのことが大切だし、好きだから」


 スルバーンの表情が一気にほころび、大きく頷いた。


「おお、それでこそ我が義息だ!……お父さんとしても頼む、この先もアルティナを守ってやってくれ!」


 その言葉に、美月が思わず吹き出す。


「本当に面白い人だよね……聖王様って」


 俺も苦笑いしながら、美月に向き直った。


「なあ、美月。俺はこれから魔王ゴルゴロスに一騎打ちを挑むつもりだ。おまえも行くだろ?」


 だが、美月は首を横に振る。その仕草には確かな決意が宿っていた。


「いいえ、私は行かない。他にやるべきことがあるから」


「何言ってんだよ! おまえの兄さんを、日々人を助ける以外に大事なことなんてないだろ?!」


 美月は静かに目を伏せ、そして俺の目を真っ直ぐに見据えた。


「そうだよ……だから私がやるべきことをやるの。……拓海、どうか私を信じて」


 その言葉には、俺が何も言い返せないほどの強い意志があった。俺はしばらく彼女の瞳を見つめ、そして静かに頷いた。


「……なるほど。わかった、じゃあいったんここでお別れだな」



 俺たちの間に一陣の風が吹き、これまでの過ごした時間を振り返るかのような一時の静寂が流れた。


「拓海……必ず勝って」


「ああ、必ず勝つ」


 その時、スルバーンが一歩前に進み出た。


「拓海よ……色々と背負わせてすまない。この世界は、君という若者を、重い責任で縛りすぎていると思う」


 俺はその言葉に一瞬息を呑んだが、すぐに笑みを浮かべた。


「……いや、むしろそれでいい」


 スルバーンが眉をひそめる。


「良い……のか?」


「ああ。俺は世界最強の『縛りゲーマー』だから」


 そう答えると、スルバーンは目を見開いた後、大きな声で笑った。


 ムスターファの背に再び乗り込み、俺たちは魔王軍の本陣を目指して空を飛んだ。


 下には無数の兵士が陣を敷き、黒い絨毯のように大地を覆っている。空を駆ける風が肌を切るように冷たかったが、その冷たさが逆に俺の意識を研ぎ澄ませた。


「なあムスターファ……俺は魔王軍中央の本陣に直接着陸するつもりだ。」


「ほう、それは剛気だな」

 

「そして魔王ゴルゴロスに一騎打ちを挑む!だが、もし俺が失敗すれば、おまえは敵陣のど真ん中で集中砲火を浴びる可能性がある……」


 俺の懸念を聞いたムスターファは、大きく笑った。


「フハハ! 面白いではないか!……こんな愉快なことに、主役と共に参加できるのだ。これ以上の興があると思うか?」


「ムスターファ……」


「拓海よ、さっき『生きる意味』を語ったな。であれば、お主と共に困難に挑むこの瞬間こそ、我が千年生きてきた意味だ」


 その言葉に胸が熱くなる。こんなにも頼もしい相棒がいる。俺は棍棒を強く握り締め、視界に広がる魔王軍の黒い大地を見据えた。


「よし……じゃあ行くぞ、ムスターファ!」


 彼は大きく吼え、俺たちは魔王ゴルゴロスの待つ中央本陣へ向けて、一直線に飛び込んでいった。


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