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53 王都決戦〜不死王と勇者の決着

 聖王スルバーンと王国軍の兵士たちが広がる戦場で息を呑む中、王都大神殿から発動された浄化の光が、不死王カーロンの軍勢にも降り注いだ。


 その光は、まるで命そのものを吹き込むように暖かで、王都の空が黄金に染まっていく。

 それは聖なる力の浄化の波、アルティナが覚悟を持って発動させた【センチネル】の力である。


 光が地上へ降り注ぐとともに、アンデッドたちの大軍が苦悶の表情を浮かべる。

 前線の冒険者部隊は倒したアンデット兵が復活しなくなったことに気づき「いけるぞ!」と声を上げる。

 その様子に王国軍の兵士たちも活気づき、歓声が上がる。絶望的だった戦場に差し込んだ希望の光が、全員の士気を大きく高めていた。

 

 突如、大地から吸い上げていた魔力の供給を失った不死王カーロンは驚愕に目を見開き、周囲のアンデット部隊に復活を命じようとするが、幾度も倒れては立ち上がっていたアンデッドたちが次々と消滅していく様子に驚いていた。


「……何だと!? この不死の軍勢が……冥界との契約が絶たれたというのか……?」


 カーロンの目に焦燥が宿り、不死の力を操る彼の自信と信念が一瞬揺らぐ。


「今だ!不死王の軍を追い詰めろ!」


 ディオーネが叫び、弓隊が一斉に矢を放つ。バタバタと倒れたまま復活しないアンデット兵を見た王国の兵士たちは一気に前進を開始した。


 その瞬間、聖王スルバーンが美月を呼び寄せ、言葉をかけた。


「美月、君の聖剣に我が四精霊の力を全てを付与する。精霊の力であれば不死王の無垢の界域(イノセントワールド)の防壁を突破できるはずだ。」


 スルバーンの手に光が集まり、四精霊——火のイフリート、風のジン、地のベヒモス、そして水のリヴァイアサンの力が、美月の聖剣に一体化して宿る。その剣はまるで黄金の炎に包まれるかのように輝き、さらに鋭い切れ味と力強さを持つように見えた。


「しかし、この四精霊の加護を与えられるのは残りの魔力からもこの一度きりだ。すべてを新時代の勇者に……君に託そう。」


 美月は力強く頷き、輝く聖剣を握りしめた。


 その時、隣に控えていた白龍王フレイが目を閉じ、静かに語りかけた。


「美月よ、私もお前に力を貸したい……私の霊力を剣に変えることで君に託そう。」


 フレイの身体が青い光に包まれ、霊力が放出されると、氷と光が融合し、美月の手元に『氷王剣』となって収まった。その冷気に包まれた剣は、まさに美月のために生まれた神秘的な武器となっていた。


「ありがとう、白龍王フレイ、聖王スルバーン……私が、必ず……カーロンを討ちます!」


 美月は聖剣と氷王剣の二刀流で構え、全身に戦意を漲らせてカーロンの元へ向かった。


「カーロン……ここで終わらせる!」

 

 美月は叫びながら黄金と青白に輝く二刀流を振りかざし、力強く突き進む。

 

 「お前の剣は我に通じぬことをまだ分らぬのか!」


 不死王カーロンが声を震わせ、怒りに満ちた表情で両手を上げる。黒い闇の波動がカーロンから放たれる。


聖剣の大威光ディヴァイン・グローリー

 

 すると美月の周囲に聖王の加護とフレイの霊力が拡散し、その一撃は美月に届かずに消え去る。


「勇者をなめるな!カーロン!」


 ふたつの剣撃がカーロンの体に突き刺さると、不死王カーロンが苦しげに叫びを上げた。


「ぬぉぉ……精霊の力か!おのれぇぇ!冥界に魂を売った我の怨念と覚悟をなめるな!」


 彼はその場から後退し、美月と一進一退の攻防を繰り広げる。

 カーロンは暗黒の魔力を操り、美月に黒い槍を放つ。しかし、美月は身のこなしでその攻撃をかわし、再び反撃に転じる。


 その戦いの様子を、上空で火龍王ムスターファと共に見下ろしていた拓海。ムスターファが問う。


「……美月を助けぬのか、拓海?」


 拓海は目を細め、戦場で奮闘する美月を見つめながら、静かに首を横に振った。


「いや……今の美月なら、俺が手を貸す必要はない。あいつは必ずやり遂げるよ……そういう奴だ」

 

 拓海の言葉には、仲間への深い信頼が込められていた。彼の中で美月は、自分に負けない信念と力を持つ戦友であり、その意志が伝わっていることに疑いはない。

 拓海は、今ここで美月が自分自身の力で勝利を掴む瞬間を信じ、静かに見守る覚悟を固めていた。


 戦場では、美月がカーロンの猛攻を一歩一歩確実に押し返していた。だが、カーロンの魔力も依然として強大で、美月もまた苦戦を強いられている。

 

 【復讐の黒炎】


 ここにきて、蓄積ダメージを相手に返すカーロンの大技が発動する。

 その瞬間を待っていたかのように大地の守護獣ニコルが美月の前に現れ【深淵のファランクス】を展開、彼女を護るように立ちはだかった。そして美月へのダメージを完全に防ぎ切った。


「わちきがいることを忘れとったなバカ骸骨め!」と、ニコルが高らかに叫ぶ。


 さらに鋭い棘のような防護壁が立ちはだかり、カーロンの動きを制限していく。


「ニコル、ありがと!」と美月は叫び、その感謝を込めてニコルの防護の元で力を練り上げ、再びカーロンに向けて突進する。聖剣と氷王剣からほど走る光が闇の壁を貫き、カーロンの肉体を切り裂いていく。


「くっ……回復が出来ぬ……【屍の糧】も使えぬのか?まさか冥界との眷属を切られたのか?!」


 カーロンの声には、これまで見せなかった焦りが滲んでいた。


 一瞬、カーロンが後退を試みる。だが、美月は一歩も引かず、剣を構え直してさらに強烈な一撃を放つ。


「あなたの恨みがどれほどか知らない。ただ、私怨の信念ごときに、私たちは絶対に負けない!」


 美月の剣がカーロンに直撃し、不死王はついに膝をつく。決して折れることのなかった彼の威厳は揺らぎ、カーロンの瞳に恐怖が宿る。彼にとって「不死」という絶対の力が、初めて揺らいだ瞬間だった。


 その戦いを見つめながら、聖王は心の中で静かに呟いた。


「もう我らの時代ではないのだカーロンよ。新しい世代こそが未来を掴み取るのだ……静かに眠れ」

  

 しかしカーロンは残った全魔力を込めた隠しスキル【絶滅の波動(デスストランディング)】を準備していた。

 

(皮肉なものよ【魔力脈動】を絶たれたことで、魔力限界で発動する【絶滅の波動(デスストランディング)】が使用できるようになったとは。全ての防御属性を貫通し生物の心臓を停止させる即死魔法、これで確実に仕留めてやる)

 

 カーロンはあえて体勢を崩すそぶりを見せて美月の隙を伺う。すると美月がいったん距離をとり、最後の一撃を決めるかのように両手の剣を構え直した。


(ここだ!)不死王カーロンは魔力を解放し、突撃してくる美月の進路に合わせて【絶滅の波動(デスストランディング)】を放った。


「我の勝ちだ!」そう叫んだ瞬間、目の前に美月の姿は無かった。「なに?何処へ!」そして気がついた時には、視界が下がり地面にむかっていく。


(ひかり)を喰らう者】


 美月が姿を現した時、不死王カーロンの首は大地に転がっていた。


 続いて不死王カーロンが体が崩れ落ちると、アンデット兵達も一斉に動きを止め、その場に瓦礫のように崩れていった。


 そして戦場に不意に静寂が訪れた。


 それまで渦巻いていた怒号や剣戟の音、戦いの咆哮が、まるで嘘のように消え去り、ただ風が砂塵を巻き上げて吹き抜ける音だけが響く。


 戦場を覆っていた不気味な闇も晴れ渡り、わずかな朝陽が差し込んで周囲を照らしていた。


 美月は二つの剣をゆっくりと下ろし、荒い息をつきながら周囲を見渡した。彼女の背後で、戦士たちは誰もがその場に立ち尽くしていた。先ほどまで命を賭して戦っていた兵士たちも、呆然とした表情で、勝利の象徴である美月の勇姿をただ黙って見つめていた。


 やがて、一人の兵士が剣を地面に突き立て、その膝を地につける。続いて二人、三人と彼に続き、やがてその場にいる全ての兵士たちが、美月に対して敬意を表すように膝をついた。


 その静寂の中で、風が舞い、散り散りに崩れ去ったアンデッドの残骸が土へと還っていく。戦場は、再び自然の静けさに包まれ、遠くで鳥のさえずりが聞こえ始めた。


 聖王スルバーンが静かに歩み寄り、美月の肩に手を置くと、彼女の目に一筋の涙がこぼれた。戦いを生き抜いた証として、スルバーンはただ一言、微笑みを浮かべて呟いた。


「見事な勝利だ……勇者美月よ」


 そして、王国の兵士たちの間に次第に拍手が湧き上がり、彼らの歓声が静かな戦場に響き渡った。


 拓海は上空からその様子を見つめ、彼もまた、美月を称えるように小さく微笑んだ。


 ——次回、ついに魔王ゴルゴロスとの決戦が始まる。


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