50 王都決戦〜魔道の頂点へ挑む
前半の部分が落ちてました!
大神官メーディアは、冷徹な眼差しで拓海とアルティナを見据えていた。彼女の持つ【心眼】は、未来を読む力を持つ。メーディアの脳裏には、今まさに繰り広げられる戦いの展開が何手先まで見えていた。
オビオンは元々、メーディアを守護するべく勇者オーリューンが自分の能力を転写したゴーレム。当時のオーリューンの7割程度の力が出せる上に、メーディアの【心眼】によって強化されていて、それ一体だけでも、相当な実力をもっている。
——すでにコロシアムの戦いで勇者拓海の能力は把握済み。あれから彼が成長してることを加味して更に強化してある。仮に一体では厳しいとしても、三体ならば100%勝てるはず。
「私に挑むというの? 無駄よ。あなたたちの全ては、既にこの目で見通している」
メーディアの声が静かに響いた瞬間、三体の黒い鎧を纏った騎士——オビオンたちが動き出した。
拓海は、オビオンたちが放つ連携攻撃を冷静に見極め、あっさりとすべてを回避していた。刃が閃き、拳が振るわれるたびに、拓海は滑らかにその動きを無視するかのようにかわしつつ【ワールドブレイク】の貫通攻撃をカウンターで叩き込んだ。
「未来の予測と動きが違う……なぜ?!」
メーディアの眉がわずかに動く。彼女は確かに【心眼】を通じて、オビオンたちの攻撃が拓海に届くはずの未来を見ていた。
しかし、現実は異なっていた。拓海は、未来予測を無視して自在に動き、誰も彼の動きを追いきれない。しかも、その動きは反射による無意識的なものではなく、意図的に組み立てられた戦術に基づいていることが、メーディアには、はっきりと分かった。
「どうして……?こんなことありえない」
その違和感に、メーディアは動揺していた。どれだけ【心眼】を通して未来を読もうとしても、拓海の動きが予測を覆す。
彼女の中で、恐怖に似た感情が芽生え始める。これまでの数々の戦いで、【心眼】が外れたことなど一度もなかった。それは彼女にとって揺るぎない自信と、揺るぎない勝利の保証だったはず。しかし今、その絶対的な力が意味をなさない。未来を見通すはずの目が、目前の拓海に対して無力になっていることが、メーディアの内なる平静を崩壊させていた。
「私が……私が見通せない……?そんなはずはない……!」
内心の焦燥がメーディアを苛む。これまで冷徹に未来を予測し、あらゆる相手を支配してきた力が揺らいでいる。その事実を受け入れることができない。なぜ、自分がここまでの強化を施したオビオンたちが、たった一人の少年によって倒されるのか。理解が追いつかない。
オビオンたちの猛攻は、次第に鈍くなっていった。拓海はその隙を逃さず、流れるような動きで一体ずつを無力化されていく。そして気が付けば、オビオンたちは全員が地面に倒れ、もはや一体も動けなかった。
「そんな……強化された三体のオビオンが……一人に倒されるなんて」
メーディアは信じられないという表情を浮かべた。そして彼女はすぐに悟った——拓海が持つユニークスキル【時を超える者】の力を。
「時間を操り、自由に動ける……それがあなたの能力?あなたは一体何者なの?!」
そのスキルは、まさに世界の理を無視した力。神にすら許されない、禁忌の力だ。
「神の領域を超えた力……まさか、そんなもの存在するはずが……許されるはずが」
メーディアの声には、確かな驚愕が混じっていた。しかし、彼女はすぐにその動揺を押し殺し、鋭い目でアルティナを見据えた。魔力の異様な気配に気がついたからだ。
「拓海、時間を稼いでくれてありがとう!」
ちょうどそのタイミングでアルティナが、自分の持つ最強魔法の詠唱を終えていた。彼女の魔力が最高潮に高まり、周囲の空気が張り詰めていく。拓海はその意図を瞬時に理解し、メーディアから距離をとる。
アルティナの周囲が振動し空気がピリピリと震え始めた。彼女が放つ魔力の圧により、周囲の温度がわずかに上昇し、石畳が微かに歪む。
「これで終わりよ、メーディア!」
アルティナの叫びと共に、放たれたのは第八界領域の最大出力魔法――それは通常の魔導士では到達できない、魔法才に愛れし者の領域だ。稲妻が眩い光の奔流となり、直線的にメーディアへと突き進む。
だが、メーディアは驚きもしなかった。すでに【心眼】を通じて、アルティナの動きを見透かしていたからだ。
「そんな攻撃、最初から見えているわ」
冷ややかな声と共に、メーディアは指先をわずかに動かし、瞬時に巨大な魔法防壁を生成した。黄金に輝くバリアは、アルティナの放った魔法の光を受け止め、その力を弾き返す。激突の衝撃が大気を揺らし、閃光が戦場を一瞬、眩いばかりに照らし出す。
やはり、メーディアの防壁には傷一つついていない。
「そしてもう一撃、来るのでしょう?……」
そう呟いた瞬間、メーディアの目が再び閃く。
彼女の想定通り、二重詠唱による第八界領域の連続攻撃がアルティナより放たれた。メーディアは即座により強力な防壁を重ね張り、万全の防御を整える。
「ふふ……」
再び光が爆発し、アルティナの二度目の魔法が襲いかかったが、今度はさメーディアは動じることなくそれを受け止め、魔法防壁で無力化した。
「これがあなたの限界かしら、アルティナ?」
メーディアは笑みを浮かべた。防壁を完全に機能させることでアルティナの最強魔法も通用しないことを見せつけた。
だが、その直後、彼女は足元に走る影に気がつく。
「勇者拓海……!」
アルティナの攻撃の裏に隠れて、拓海がすでに彼女に肉薄していた。だが、その動きもすべて読んでいたメーディアは、即座に反応し、進行を妨害する強力な物理防御壁を拓海との間に展開した。
「予測通りよ……近寄らせなければ、棍棒のみのあなたは怖くない」
だが、言葉を言い終わる前に、メーディアは再び目を見開いた。拓海が物理防御壁の直前で唐突に動きを止め、すばやく横にステップアウトして距離を取ったのだ。
「……何を?」
その奇妙な動きに、メーディアの【心眼】がかすかな違和感を覚えた。そして、同時に気がつく——アルティナの気配だ。彼女の存在がただならぬ圧力を伴って広がっている。
「まだ……詠唱が続いている?」
メーディアは驚愕する。通常なら二重詠唱のあとには、かなりのクールタイムが必要なはずだ。それが世の常識。しかし、アルティナは今もなお、詠唱を続けていた。
「まさか、三重詠唱……!」
メーディアの瞳が見開かれる。人類にとっては到達不可能とされた、禁断の詠唱技術。アルティナが放つ三重目の攻撃魔法は、すべての常識を超え、今まさに彼女を狙っていた。
アルティナは鼻と耳から血を流し、震える手でなおも詠唱を続けている。おそらくその身体にかかる負荷は計り知れない。だが、その凄まじい苦痛に耐え抜き、彼女は意志の力だけで魔法を完成させようとしていた。想像を絶する精神力——その光景に、メーディアは思わず息を呑んだ。
「まさかここまで……到達するなんて……」
心の奥底に、わずかな尊敬が芽生える。アルティナは、誰もが踏み込むことができなかった未踏の領域に達した。その事実は、メーディアが幾度となく未来を見通してきた【心眼】を超える存在がいることを証明していた。
(さすが聖王の娘……私が選んだ後継者……)
次の瞬間、三発目の魔法が炸裂する。
だが、メーディアはひとつの選択肢を持っていた。【法皇の防壁】それは一日に一度だけ致命傷を防ぐ大神官スキル。それを発動させれば、この攻撃も防げるはずだ。だが、彼女の心は、その防御スキルに向かわなかった。
広間全体が光に包まれ、空気が震える。その圧倒的な破壊力がメーディアを直撃し、物理防御に集中していた彼女には、それを防ぐすべはなかった。轟音と共に、魔力の波が彼女を飲み込み、すべてを焼き尽くすように流れ込む。
「もう……いいよね……オーリューン」
メーディアは静かに目を閉じた。呪われたような自分の人生に、ようやく終わりが見えたのだ。
かすかに微笑を浮かべ、メーディアはゆっくりと倒れ込んだ。アルティナの攻撃は致命的で、もうメーディアに動ける力は残っていない。
想定と違った結果に慌てたアルティナが、メーディアの元へと駆け寄る。
「メーディア!なぜレジストしなかったの!大神官のスキルで一度だけ致命傷を避けられたはなのに!なぜ!」
「これでいいのよ、……これで、やっと…..…終われるから」
彼女の言葉は、ほとんど聞こえないほどに弱々しかった。拓海とアルティナはその場に立ち尽くし、互いに無言のまま、彼女の倒れた姿を見つめていた。
「ねえ……最後に……聞いて欲しいことが……あるの」
静寂の中、広間に漂うのは消え入りそうなメーディアの声と、重々しい空気だけだった。




