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49 王都決戦〜選ばれし者

 大神殿の中に足を踏み入れた拓海とアルティナは、神聖な空間に相応しくない、冷たい緊張感を感じながら、大理石の階段を駆け抜け、大魔法陣がある広間へ出た。


 すると静寂の中、前方に一人の女性、大神官メーディアが立っていた。


 長い白いローブを纏い、いつもの目を瞑っている様な表情でこちらを見つめる彼女の眼差しは、まるで全てを見透かすかのような冷徹さが漂っていた。アルティナはその【心眼】の視線に一瞬たじろぎながらも、毅然とした態度で彼女に言葉を投げかけた。


「大神官メーディア様!早急に【センチネル】を発動してください。不死王カーロンを倒すには、今すぐセンチネルの発動が必要です!」


 メーディアは目を細めると、静かに首を振った。


「無駄よ、アルティナ。それは意味のない行為だわ」


「無駄?何を言っているの?不死王を倒す手段はそれしかないのに、あなたが拒む理由は何なの?」


 アルティナの焦りをよそに、メーディアは変わらぬ冷静な声で続ける。


「確かに、【センチネル】を発動すれば不死王カーロンを討つことは可能でしょう。しかし、それに伴う犠牲があまりにも大きい。今、私がこの場所にいることで、王都を守るための『冥府の誓約』が維持されているのですよ」


 (冥府の誓約?)アルティナの顔に疑念が浮かぶ。


「もう知ってるのでしょう?現魔王と勇者オーリューンのつながりを……」


 その問いに対してアルティナは表情を変えず、毅然とした態度で答える。


「ええ、聖地で聞いてきたわ……あなたが当代魔王ゴルゴロスと関わりがある事もね」


 それを聞いたメーディアは、一瞬考えた後、改まったように表情を引き締め、しずかに話し始めた。


「そう——ならば話は早い。魔王ゴルゴロスは、私が生きている限り、王都を蹂躙することが出来ない誓約に縛られているのよ」


 アルティナは驚き、次いで不信感を露わにした。


「つまり、あなたと魔王との口約束を信じろと?国の存亡がかっかっているのよ!あなたまさか人類を滅ぼす気なの?!」


 メーディアは静かに首を振り、ため息をつくように言葉を継ぐ。


「『冥府の誓い』はあなたが勇者拓海と婚約した『龍言の誓い』と同様の強力な制約です。オーリューンは不測の事態に備え、魔王ゴルゴロスへと覚醒する際に『冥府の誓約』で魔族が人族を蹂躙出来ないよう図ったのです。私が生きてるという条件でね」


 メーディアの話は具体的で、すべてが虚言とも思えなかったが、それで納得出来る状況ではない。


「ならば勇者、いいえ、魔王オーリューンをあなたが説得して退かせればいいじゃない!」


「無理です。今の魔王はあくまで魔王ゴルゴロスなの。オーリューンの魂は既に寿命を迎えていて、今や意志の疎通もできない……魔王ゴルゴロスは……あれはもう、私の愛したオーリューンではないのです!」


 その告白に、アルティナはますます疑念を深めた。彼女の言葉が事実なら、なぜそれを今まで隠し続けてきたのか?


「そんなこと、信じられない……じゃあ、今すぐ【センチネル】を発動して証明しなさい。あなたが言っていることが本当なら、それで全てが解決するはずよ!」


 アルティナの言葉は鋭く響いた。だが、メーディアは微動だにせず、再び首を横に振った。


「もし【センチネル】を発動すれば、王都とその周辺が浄化され不死王が冥府と結んだ誓約は解除される。でもねオーリューンが結んだ『冥府の誓約』も同様に解除されてしまうのです」


「……そんな」


「魔王ゴルゴロスが、御し難い不死王カーロンを敢えてけしかけたのは、王都に【センチネル】を発動させるためです。それがわかっていながら、あなた達は破滅へ突き進むつもりかしら?」


 アルティナは言葉に詰まった。彼女の中で、メーディアの言うことが完全に嘘ではないという感覚がわずかに芽生え始めていた。しかし、心の奥底で何かがそれを拒絶していた。真実がわからないという恐怖が彼女を苛む。


 その時、隣にいた拓海が静かに一歩前に進んだ。


「どうであろうと関係ない」


 その一言に、アルティナとメーディアが驚いた表情で彼を見つめた。


「【センチネル】を発動し、魔王軍も殲滅する。それだけだ」


 拓海の言葉は簡潔でありながら、その中に揺るぎない決意が込められていた。メーディアは困惑したように彼を見つめ、次いでその瞳に異変を感じた。


「……あなた、その目……なぜそんな目を……!」


 メーディアの声が震える。その瞬間、拓海の片方の瞳が金色に輝き、まるで創造神ユグドラのような神々しい光を放っていた。メーディアはそれを見て、はっと息を飲んだ。


「まさか……ユグドラが……!」


 メーディアは急に警戒を強め、すぐさま両手を天に掲げて古代語の呪文を唱え始めた。彼女の周りに黒い魔法陣が現れ、そこから3体の黒い鎧を纏った騎士が召喚された。


「オビオン……!」


 拓海が睨みつける。その姿は、かつてX級冒険者オビオンと瓜二つの騎士たちだった。


「やはり、こいつもアンタの差し金だったんだな……!」


 メーディアは無言のまま、魔力を高めていく。アルティナはすかさず拓海の横に立ち、臨戦態勢に入る。


「メーディア、やはりあなたを信じることはできない……私たちがここであなたを止める!」


「もし私が死ねば、魔王が城壁の内側を蹂躙し、壊滅的な被害を王都にもたらすことを意味するわ。それがあなた達の選択なの?!」


「殺さず、ねじ伏せて【センチネル】を発動させるさ」


 それを聞いたメーディアは閉じていた目を開眼し、緑色の瞳を輝かせた。そのまま大きく深呼吸をして天を見つめると、ゆっくりと冷静に二人を見据え、淡々と告げる。


「そんな事をしても何も変わらないわ……拓海、アルティナ、あなたたちは、この世界を背負う覚悟があるの?」


 その言葉に応えるように、拓海は静かに頷き、両手に棍棒を構えた。アルティナもまた、決意を固めた表情でメーディアを見つめる。


 「行くぞ、アルティナ」


 その言葉と共に、拓海とアルティナは同時に動き出した。目の前には、3人のX級冒険者オビオン立ちはだかる。ひとりでも厄介だった強敵、しかも今回は大神官メーディアまで。火龍王ムスターファは上空に待機したままだ。状況は圧倒的に不利。


 その時、メーディアが低く呟いた。


「創造神ユグドラ。あなたが手を貸しているのならば、私は……この命をかけて戦います」


 彼女の呪文がさらに高まる。黒い魔力が強烈な力となって周囲に渦巻き始めた。それを合図に3人のオビオン達が動き出す。


「気をつけて……メーディアはただ者じゃない!」


 アルティナが焦りの声を上げた瞬間、拓海は静かに口元に微笑を浮かべた。


「心配するな。俺がすべてを——ぶち壊してやる」


 その瞳に宿る光が、まるで全てを見通すかのように輝いていた。


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