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47 王都決戦〜聖王で英雄で父

 俺たちは白龍王フレイと火龍王ムスターファの背に乗って、王都テーベスの戦場を飛んでいた。


 そこには、まるで無限に続くかのようなアンデッドの大軍が、波のように王都の城壁へと押し寄せていた。城壁の上では兵士たちが必死に戦っているが、アンデッドの数に圧倒され、あと幾許かで城壁を突破されそうになっている。


 さらにその後方には、赤く目を輝かせた一際邪悪なオーラを放つアンデットのボスが見えた。その周囲には冒険者達が集まっていて、そいつと戦闘中のようだ。


 ムスターファの背中に乗る俺の隣にはアルティナがいる。その様子を見つめる彼女の表情は張り詰めている。


「あれは、リッチなの?このアンデットの数……とんでもない魔力量よ」


 アルティナの問いにムスターファが答える。


「いや、アルティナ嬢よ、あれはかつての魔道王が悪魔に魂を売った姿よ……今は不死王カーロンと名乗るバケモノだ」


「魔道王カーロンのリッチってこと?最悪ね……」


 帯びた足しい数のアンデット兵で黒く染まるまる大地は、空気そのものが重圧となって俺たちを押しつぶそうとしているかのようだった。


「拓海よ!」


 聖王の低い声が響く。


「あの不死王カーロンを止めるには、大地から供給され続ける魔力の根源を断つ必要がある」


 聖王は、彼は白龍王フレイの背に立ち、黄金の鎧をまとっていた。その姿にはどこか既視感があるが、今はそれどころではない。


「ムスターファ、フレイ!まずは壁に迫るアンデッドを片付けるぞ」


 聖王が静かに命じると、白龍王フレイが大きく翼を広げ、火龍王ムスターファも力強く空気を切り裂いていく。


 二頭のドラゴンが壁際のアンデットの大群に目標を定め、同時に大きく口を開いた。

 そして咆哮と共に、両者が赤と白のドラゴンブレスを吐き出した。


 フレイの冷気のブレスと、ムスターファの灼熱の炎が、怒涛の勢いで下へ向かって放たれる。王都の城壁に迫っていたアンデッドたちは一瞬でその攻撃に包まれ、吹き飛ばされる。冷気のブレスが彼らを凍てつかせ、続けてムスターファの炎がその凍りついたアンデッドたちを灰に変えた。


「おお!ドラゴンだ!棍棒勇者が帰ってきたぞ!」


 城壁から、そして下からも兵士たちの歓声が聞こえてくる。絶望的な状況から一転、士気が一気に上がっていくのがわかった。


「おお…! あれは火龍王と白龍王!? 世界最強のドランゴンの王達だ!」


 戦場の兵士たちの伝搬するよに、声が次々と響き渡る。


 龍王の放つドラゴンブレスの威力は、今まで絶望に染まっていた戦場に、新たな活力が生みだすに十分のパフォーマンスがあった、冒険者や兵士らの士気は一気に高まっていく。


「さすがだな…フレイ、ムスターファ」


 俺はつぶやきながら、聖王に目を向けた。


「聖王、その鎧、どこかで見覚えがある気がするんだが…」


 俺はふと疑問を口にした。


「そういえば、聖王って……名前はなんていうの?」


 聖王はしばらく沈黙し、俺の疑問に応えるように、低い声で答えた。


「私の名か?久しく聞かれなかったな……スルバーンだ。」


「スルバーン…? え?もしかして…」


 俺はその名を聞いた瞬間、頭の中にある人物の名前が浮かんだ。


「300年前の英雄スルバの正体って……まさかあなたなのか?」


 俺の問いに対して、聖王スルバーンは穏やかな微笑を浮かべた。


「そうだ。300年前、王国の危機に、私はこの鎧を纏って駆けつけた。従者として大地の守護獣ニコルを連れてな。」


 アルティナが驚いた顔をして、聖王を見つめた。


「そんな話、初めて聞くわよ!」


「そりゃまあ、聞かれなかったのでな」


「じゃあ、ニコルも知ってたのか!あいつなんで言わないんだよ」


 すると聖王は遠くを見るような表情をしながら語り始めた。


「あの戦争が終わった後、私は次なる危機に備え、ニコルをスルバスの青の洞窟に封じたのだよ。あいつは私から離れたくないと散々駄々をこねておった。まあ結果として、ニコルは私を深く恨むようになったのだろう。察してやれ。」


「そんなことが…」


 アルティナが困惑した表情を浮かべ、父親に向かって言葉を探している。


「そして今、再びカーロンとの因縁が蘇った。この事態は、あの時に奴を完全に滅しなかった私の責任でもある。奴との戦いは私に任せてくれないか。」


 俺は聖王スルバーンの真剣な瞳を見つめた。


「分かった。じゃあ、俺たちはどうすれば?」


「不死王カーロンは大地から魔力を吸い上げている。まずそれを止めなければ、奴を倒すことはできん。そのためには、大神官メーディアに【センチネル】を発動させる必要がある。君たちは大神殿へ行き、彼女を説得してくれ」


 大神官メーディアか……大英雄オーリューンの従者であり娘、それはすなわち魔王の味方でもあるってことだ。説得は一筋縄ではいかないだろう、おそらく実力行使になる可能性が高い。


「分かった!アルティナ、行くぞ!」

「うん、でもちょっとまって」


 するとアルティナは聖王を見つめながら言った。


「頑張って、お父様」


 その言葉に、冷静沈着な聖王は今まで見せたことのない驚いた表情を見せた。


「アルティナよ、今……我をお父様と呼んだのか?!」


「……だって事実でしょ」

「もういっかい言っておくれ!」


「……いやよ」

「言ってやれよ、アルティナ」


「……お、お父様」


「アルティナちゃん……お父さん、すぐ帰ってくるからね」


 アルティナは恥ずかしそうに静かに頷き、火龍王ムスターファの背にしっかりとつかまった。俺たちはムスターファの広大な翼の上に身を預け、聖王スルバーンを後にして大神官メーディアの元へと急いだ。


 一方で、聖王スルバーンと白龍王フレイが不死王カーロンの上空に到達すると、静かに降下を始めた。地面に近づくにつれて、聖王スルバーンは周囲の空気を支配するかのような威圧感を放ち始める。


 その黄金の鎧に包まれた姿は、まさに300年前の英雄スルバの再来そのものだった。冒険者や兵士たちはその圧倒的なオーラに目を奪われ、彼がまさに伝説の人物だと確信する。


「見ろ!英雄スルバだ!伝説の戦士が再び蘇ったのか!」

「おお!英雄スルバ様が、我らを助けに来られたぞ!」


 兵士たちは歓喜に包まれ、その士気が一気に高まった。しかし、その中で唯一、豪快に邪悪な笑い声を上げたのが不死王カーロンだった。


「おお!貴様はかの英雄スルバではないか!ワッハハハハ!まさか、王都と共に貴様を葬れるとは、僥倖よ!」


 カーロンの邪悪な笑い声が、荒廃した大地にこだました。彼の赤い瞳が鋭く光り、不気味な黒いオーラが周囲に広がっていく。


「カーロンよ、300年前に封じたはずだったが……まさかこうして再び相まみえることになるとはな」


 スルバーンは静かに語りかけながら、カーロンをゆっくりと指差した。


「その鎧、そして見た目も当時と変わっておらんな英雄スルバよ。しかし我は大きく変わっておるぞ、もはや貴様ごときではどうにもならないほどにな……」


 不死王カーロンは、嬉しそうに不敵に笑っている。


「姿は変われど、醜悪な性格は変わらぬようだな……カーロンよ。だがこの地で貴様を完全に滅するのは、英雄ではなく、この時代の勇者達だと言っておこう」


 その時、美月の肩に乗る大地の守護獣ニコルは聖王スルバーンの姿を見つめ、顔をしかめながらも口を開く。


「ふん、まったく!どの面下げて現れたんじゃ、スルバ。いや、聖王になってからはスルバーンじゃったの!」


 ニコルの言葉には、ツンとした態度がありつつも、どこか懐かしさも滲んでいた。ニコルはプイッと顔をそらすが、その頬がわずかに赤みを帯びているのを見逃すことはできなかった。


「ニコルよ、よくぞここまで持ち堪えてくれた、おまえはやはり聖地の誇る守護獣だ」


 ニコルを見つめる聖王スルバーンにニコルが応える。


「ふーんだ!来たからには、こやつを何とかせい!おまいなら、できるじゃろ!」


 ニコルはぷりぷりと文句を言いながら、明らかに嬉しそうだ。そんな態度に美月はすこし心がすこし和んでいた。


 その一方で、不死王カーロンは二人のやりとりに飽きたように、苛立った様子で口を開く。


「貴様らの茶番は終わりだ!英雄スルバ、今度こそ貴様をこの手で葬り去る!」


 カーロンの両手が大地に向かって広げられた瞬間、地面が不気味に震え始めた。暗黒の魔力が大地から吸い上げられ、周囲の空気が歪み始める。


「貴様のその力、300年前とは比べ物にならぬほど強大だ。だが……」


 聖王スルバーン一歩前に踏み出した。


「カーロンよ、今日は、かつてなく本気やらせてもらうから覚悟せよ……()()()()の強さを知るが良い」


 彼の言葉には揺るぎない決意が込められており、まさに父として、そして王として、守るべきもののために戦う覚悟が伝わってきた。


 不死王カーロンとかつての英雄スルバ・聖王スルバーンの戦いが、ついに幕を開ける——。









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