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38 真の勇者の使命

 聖王の執務室に入ると、中は驚くほど簡素で、装飾も控えめだった。玉座の間で見た威厳とは対照的に、ここには王としての権威を誇示するものは何もなかった。


 しかし、その静謐さには一種の威圧感があり、背筋が自然と伸びる。


 聖王は窓際に立っていた。窓の外には大神樹が、まるで世界を支えているかのようにそびえている。彼は振り返らず、しばらく沈黙していたが、やがて静かな声で話し始めた。


「勇者拓海……君は、アルティナを本当に幸せにする覚悟があるのか?」


 突然の質問に俺は驚き、思わず背筋を伸ばした。


「もちろん、最善を尽くします……」


「余が聞きたいのは、そのような飾った言葉ではない……君の本音だ」


 そう言うと聖王は俺の方に向き、じっと目を見つめてきた。その緑色の瞳には、まるで俺の心の深淵を覗き込むようなゾッとするオーラがあった。


「命をかけて、彼女を護って見せます」


 その言葉を聞いた聖王は表情を緩ませ、俺に小走りで近寄ってきた。そして、まるで誰かに聞かれるのを恐れるかのように、小声で切実に話しかけてきた。


「なあ、拓海よ。アルティナちゃんを、彼女を絶対に幸せにしてくれるよな。」


「アルティナちゃん?」


「あの子は無茶をするから、そう言う時には必ず守ってやってくれ、最優先で!」


「あー、たしかに無茶しますが、けっこう考えてやってるかと……(むしろ常に冷静沈着だと思うが」


「だろ?そうなんだよ、もうね、何回言っててるんだが、長めの反抗期なのかな」


 なんだこの人、めちゃくちゃな親バカじゃないか。もしかして本性ってこれ?アルティナが話したがらない理由が分かってきた気がする。


「あと……結婚しても、たまには里帰りさせてくれ。いや、むしろ頻繁に!」


 聖王のあまりの真剣な懇願ぶりに、俺は思わず後ずさりした。


「え、ええ、もちろん。でも、アルティナが望んだときには……ということですよね?」


「いや、できれば君からも誘導してくれないか? 例えば『お父様に会いに行かないか?』とか、さりげなく声をかけて……」


「さ、さりげなく……ですか?」


「そうだとも! あの子は強がっているが、心の中ではきっと余を、いや家族を恋しがっているに違いない。だから、君がそこをサポートしてやってくれれば、私も安心できるんだ……」


 聖王は、まるで大事な秘密を打ち明けるかのように真剣な目で俺を見つめた。

 その様子に、俺はどんどん引いていくのを感じた。どうやら、ただの威厳ある王ではなく、究極の親バカでもあるらしい。


「わ、わかりました……できる限り努力します」


 俺が仕方なく答えると、聖王は満面の笑みを浮かべ、「ありがとう、ありがとう! 君が婿殿で本当によかった!」と手を握りしめてきた。その熱烈な反応に、俺はますます混乱した。


 だが、次の瞬間、聖王は急に真剣な表情に戻り、まるで先ほどのやり取りがなかったかのように背筋を伸ばして立ち上がった。その表情には、王としての威厳が再び戻っていた。


「——さて、君に話さねばならないことがある。世界全体の運命に関わる話だ」


 その声のトーンの変化に、俺は一気に緊張感を取り戻した。


「君は、『勇者』の本当の役割を理解しているか?」


 再び真剣な問いかけが俺に投げかけられた。先ほどの親バカぶりが嘘のように、聖王は厳しい眼差しで俺を見つめていた。そのギャップに俺は戸惑いながらも、再び意識を集中させた。


「正直に言えば、完全には理解していません。ただ、『勇者』は『魔王』を倒すための存在。それが俺の役目だと思ってますが。」


 聖王はゆっくりと頷いた後、さらに深い話を始めた。


「君がこの地に招かれたのは、単に『魔王』を倒すためではない……いや、むしろそれは表面的な理由に過ぎないのだ」


 俺は眉をひそめた。何かが引っかかる。聖王が言いたいことは、きっともっと深い意味があるはずだ。


「では、俺がここにいる本当の理由とは何ですか?」


「君には、魔王が何故存在するのか、その本質を理解してもらわねばならない。魔王は単なる悪の化身ではなく、我々の世界における均衡を保つ存在だ。」


「必要 悪……とでも?」


「それは、人類から見た場合だ。エルフも含めた人間族と魔族は、かつてはひとつの種族だったが、いまから1000年前に、創造神ユグドラによって、聖地、王国、魔族という三つの勢力に分けられ、以降この世界を成り立たせている。」


「創造神によって、今の世界の勢力図が作られたと?」


「そうだ……もうひとつ言うと、『勇者』と『魔王』も創造神によって創られた存在なのだよ」


「勇者と魔王が、創られた?』

(俺は創られた存在じゃないんだが、職業的な定義の話をしているのかこれは)


「そうだ。しかし当代魔王ゴルゴロスがその均衡を崩そうとしている。それが何故かわかるか?」


 俺は黙り込んだ。均衡? 魔王がそれを崩す? 一体何を意味しているのか。


「君がここにいる理由は、魔王を倒すだけでなく、その均衡を再び取り戻すことにあるのだ。そして、そのためには創造神ユグドラに会い、真実を知る必要がある」


 俺は驚きのあまり言葉を失った。おいおい、俺はただの高校生で縛りゲーマーだぞ、世界の均衡だの摂理だの、もっともどうでも良いタイプの人間だ。ただの勇者プレイヤーとしての役目を超えて、果たすべき使命がある?なんで俺みたいなのが、そんな重要で小難しい役目に選ばれたんだ。この世界の神はバカなのか。


  その時、聖王が再び一歩前に進み、俺に向かって語りかけた。


「だが、気をつけろ……創造神に会うということは、君のすべてを曝け出すということだ。彼女は君の内面を見通し、その真実を知るだろう。君の心に潜む闇さえも、すべて暴かれ、利用しようとするだろう」


「闇……?」


「そうだ。どんな人間にも、心の奥底には闇が存在する。君がそれに向き合う覚悟がなければ、創造神との対話は破滅を招くだろう」


 俺はその言葉に震えを覚えた。聖王が言う「闇」とは何なのか? 俺の中にそんなものがあるのか? 自分でも知らない何かがあるかもしれないという恐怖が、じわじわと心を蝕んでいく。


 聖王は、心の深淵を覗き込むような目線で俺を見つめた。その緑の瞳は、どこまでも深く遠くまで見通すような光を放っている。


「拓海よ……君は、心に闇を抱えているな。」


 その時、俺の脳裏には、子供の頃、手を離したことで失った妹との記憶がフラッシュバックしていた。——そう、もう二度と、俺は。


「あらためて聞こう、君はどうしてアルティナを護る。」


 聖王は深く、静かなトーンで、俺に再び問いかけた。


「俺には、愛とかそういうのは良くわかりません。だけど……」


「…聞こう」


「この世界で初めて触れたのが、アルティナの手でした。それは優しく温かかった。」


「……ほう」


「俺は、もう二度と……その温もり離したくない、その命を守るためなら……

 ——死んでも後悔はない。」


 聖王は一度、息をつき、少し柔らかい表情に戻った。


「——過去を恐れるな。君は選ばれた存在だ。アルティナもそう信じている。彼女が君を選んだのは、君がこの使命を果たす力を持っているからだ」


 正直、使命だとか難しいことは分からないが、俺が選ばれた意味を、

 魂が理解しはじめているのを感じ、覚悟を決めた。


「……わかりました。創造神ユグドラに会い、この世界の真実を、俺の役割を知ります。」


「これでも私は聖王……人を見る目は確かだ。君は、間違いなく歴史上最強の勇者になる。つまり、かの最強勇者オーリューンを超えるだろう。」


 そう言いながら聖王は満足げに頷いた。


「では、準備を整えたら、大神樹の中へ向かうがよい。そこが創造神ユグドラの祠だ。だが、そこに至る道は平坦ではない。最後の試練が君を待っている」


 俺は頷き、聖王の前から下がった。背中に感じる彼の視線が、これからの試練の厳しさを物語っているようだった。


 部屋を出ると、廊下でアルティナが待っていた。彼女の瞳には、俺に対する信頼と期待が込められている。


「アルティナ、大丈夫だ、すべて俺にまかせろ。」


「ええ、知ってる……。共に行きましょう、創造神ユグドラ様のもとへ」


 こうして、俺たちは大神樹に入るゲートを目指すことになった。創造神ユグドラとの対話で、当代魔王に隠された謎を、世界の真実を知るため。


 そして、俺の心の奥底にある「闇」と向き合うために。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界で縛りプレイ、とても面白いです! チートを拒否する主人公が新鮮ですね。 棍棒のみでどうやって進んでいくのかわくわくしました。 バトルも戦略的で迫力もあって良かったです。 [一言]…
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