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34 聖地の旅路

「聖王様!申し訳ございません....一行の位置を見失いました」


 黒いフードの男は跪き深々と頭を下げた。

 目の前の、精細な古代文字の装飾が施された御影石の玉座に男が座り、鋭い緑の瞳でフードの男を見下ろしている。


 玉座に相応しく優雅かつ威厳に満ちた風貌、長い銀髪は光を反射して輝き、肌は白く滑らかであり、耳はエルフ特有の鋭い形をしている。

 身にまとっているのは、白と金を基調とした豪華なローブで、裾には神聖な模様が刺繍されている。肩には金色の装飾が施されたマントを羽織り、胸元には聖なる宝石が輝く。その独特のオーラは見る者全てに畏怖の念を抱かせるだろう。


「それが貴様の報告か?」


 聖王の声は低く、しかしその響きは部屋全体に広がり、重みを持って響いた。黒いフードの男はさらに頭を垂れた。


「はい、聖王様……」


「私は報告を聞いているのだ」


「どうか、私どもの無能をお許しください。」


 エルフの聖王はしばらく黙って男を見つめ、やがて口元に微かな笑みを浮かべた。


「——まあ、貴様の部下を使うなと言ったのは私だ、それで無能な人間共に任せたのであれば仕方もあるまい、もう下がれ」


 フードの男は深々と頭を下げ、玉座の間から退出した。

 それを確認しあと、再び口を聖王は開く。


「聞いていたな……あとはお前が首尾よくやれ」


 すると壁際に並ぶ柱の陰から1人のエルフの男が半身を現した。


「承りました……父上」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ——その頃、俺たちは森林地帯を進んでいた。

 聖地入ってからは道らしきものは無かったが、雑草が生い茂るという雰囲気でもなく、どちらかといえば整備された公園のようで緩衝地帯より遥かに歩きやすかった。


 聖地の中央には聖樹と呼ばれる神聖な巨木が円形の広い範囲に12本あって、その中央に大聖樹というさらに大きく神聖な巨木があるらしい。その高さは天に届くと言われ、上の方は雲に隠れて見えないのだとか。


 俺たちは、その大聖樹の麓にあるという聖王都を目指している。


「なるほどね……美月が見たもう一つの聖剣を魔王が持っていたのね…やっぱり聖地に来て正解だった」


 先頭を歩くアルティナは振り返らずに話を続けた。


「聖剣を創ったのは聖地の大神樹に宿る、創造神ユグドラ様……そして聖剣を扱えるのはユグドラ様が認めた人物か、その眷属のみよ」


「ってことはつまり…創造神と魔王は、会ったことがあるってことか?しかも聖剣の使用者と認めたわけか?」


「そうなるわね……」


 アルティナの声のトーンが落ちる。


「じゃあ、勇者オーリューンも創造神に会ったの?」


 美月が尋ねる、その口調には独特の含みを感じる。


「そうね……美月、あなたの感じてる違和感は、私も理解してる。その真相もユグドラ様に会えばハッキリすると思う」


 なんだ、なんだ、アルティナと美月は重要な何かに既に気がつき始めてるってこと?俺にはさっぱりわからないんだが。

 バカだと思われるのも嫌だから適当に合わせておこう。


「なるほど、そうだとしたら世界の正義がひっくり返るかもな……」


 俺は思いついたカッコ良さげな感じの台詞を、さも意味深そうに言ってみた。するとアルティナが立ち止まって振り返り、俺の顔をじっと見る。やばい、テキトーこいたのバレたかも。超恥ずかしい。


「アナタ……本当にスゴいわね。さすが私の婚約者(フィアンセ)…まったく同意見よ」


 アルティナは俺に感心しながら、婚約者(フィアンセ)って言葉で少し顔を赤らめた。


「拓海、やっぱり頼りになる」


 美月も俺の顔を見て嬉しそうだ。やばいなんか、すごく罪悪感が。


「おまいやるのぉ!無駄び、いやアルティナと、ささっと結婚してしまえば良いぞよ、きゃはは」


 最近美月にくっついてるニコルは聖地に来てから元気だ。ここでは睡眠がほとんど必要ないらしい。ていうか寝てろよ。


 うん、大丈夫だ、その創造神に会えばどうせ分かるんだし、今は話を合わせておこう。俺がゲーム以外のことには超ポンコツだってバレたらパーティ内での立ち位置が危うい。


 それから俺たちはキャンプしながら聖地を奥へと進んで行った。途中、無害な精霊や妖精には遭遇したが、さすが聖地だけあって敵対する魔物類に会うことなく5日目の昼には外周にある神樹の一つに辿り着くことが出来た。


 神樹の麓にはエルフ達が暮らす小さな集落があって、アルティナの手引きで集落の中へ案内された。


 神樹の麓にあるエルフの集落は、自然と調和した美しい場所だった。集落の中心には巨大な神樹がそびえ立ち、その根元には清らかな泉が湧き出している。泉の周りには様々な花が咲き乱れ、その香りが風に乗って漂ってくる。


 エルフたちの住居は、木の幹や枝を巧みに利用した木造の家々で、各家の壁には美しい彫刻が施されている。家々の間をつなぐ道は柔らかな苔で覆われ、足元を優しく包み込むような感触だ。高い木の枝には吊り橋が架かっており、エルフたちは軽やかに行き交っている。


 気になったのは、集落の規模のわりに老人や子供の数が少ない事だ。見た目ほとんどが成人で、年齢的な差をあまり感じない。現実世界の大学キャンパスみたいな感じかもしれない。


 エルフたちはアルティナを見て、尊敬の念を込めて挨拶を交わし、温かく迎え入れてくれた。彼らは人間族である俺たちが集落の中を歩いていても特に警戒する様子もなかった。


「聖地にいるのは聖王の許可を得た人間だから、誰も心配してないのよ」


 アルティナは懐かしそうに街を眺めながら歩いている。


「え?でも俺たち、許可もらってないよね……」


「……わざわざ許可とらなくても、どうせもう気づいてるでしょ」


 えーー!やっぱ無許可やん!アルティナっていつもそういうことにクソ真面目なのに、聖地に関してはテキトー過ぎません?俺はとても不安な気持ちになってきた。


 それから俺たちは、宿とは言えない質素な小屋に案内され、宿泊することになった。まあキャンプ続きだったから、これでも十分だ。


 アルティナと美月が食材や旅の備品を買いに市場へ出かけたので、俺は森に獣を探しに来た。

 やや鬱蒼とした雰囲気の森だが、魔物がいないことは分かっているので特に警戒する必要はないはずだったが、さっきから妙な気配を感じていた。


 奥へと進み少し森が開けた場所までくると、俺はその気配に向かって話しかけた。


「さっきから何の用だ?」


 すると背後の木陰から男がひとり姿を現した。


「ほう、まさか気取られるとはな」


 それは長身のエルフだった。銀髪に近い長い髪に、細身ながらもしっかりとした体幹と骨格。軽装だが高価そうな魔法武具。腰には等身の短い剣。何より見た目がゲームに出てきそうなスーパーイケメンだ。アルティナと同じ種のハイエルフか?雰囲気もどことなく近い。


「何を目的に聖地に来たのか、まず教えてもらおう」


 エルフの男が氷のように冷たく無感情な声で聞いてきた。

 目的と言われてもアルティナに言われて付いてきただけで全く意図も分かってない俺が、創造神に会いたいとか無邪気に言えばややこしくなりそうだ。そもそも無許可だし!


「それを言う必要はない」


 ていうか分からないから答えようがない。


「そうか、では、直接体に聞くとしよう。」


 エルフの男は腰から剣を抜き、身構えた。


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