30 コロシアム廃墟の決戦③
——その頃、地上では大喧嘩作戦が続行されていた。
俺は、一手先が見えてるオビオンの攻撃を交わしつつ、面白いほど反撃を当てている。さっきまでは、俺が攻撃するより先に回避の動きを見せていたオビオンだったが、うまくいかず困惑している様子だ。
オビオンは、正確な動きで黒い両手剣を振り回し、隙を見せないように攻撃を繰り出してくる。その一撃一撃は重く、鋭い。しかし、俺はその全てを見切り、巧みに回避しながら次々と反撃を当てていく。
「どうした、オビオン!もう一手先が見えないのか?」
挑発的に問いかけると、オビオンは足元を狙って低く構え鋭い突きを繰り出す。俺はそれを直前で回転しながら回避し、そのまま背中に棍棒の二連撃を見舞う。オビオンは回避を諦め剣で受け流す。
「【乱撃】!」
着地と同時に詰まった間合いから、4連打×2連続攻撃を叩き込む。オビオンは防御に徹しようとするが、俺の攻撃の速さと交互にくる【ワールドブレイク】の貫通攻撃に圧倒され、防ぎきれない。彼の鎧に次々と打撃が加わり、金属音が響く。
「グ…!」
オビオンが呻く。俺は、まるで踊るかのようにステップを踏みながら、彼の側面に回り込む。
「おやおや?俺の思考が見えてるんじゃないのか?」
「……オマエ、何モ考えてナイだろう」
あら大正解。そう、思考を読まれるなら考えなければいい。俺は今、条件反射だけで奴に対応している。
「ナゼだ……ヒトの反応速度とはオモエン」
「ああ、それね」
俺は以前、ゲーム仲間があまりにチートを疑うので、ゲーム反応速度を測る公開テストをやらされたことがある。通常の人間は0.25秒、一流アスリートで0.10秒。蛇が0.04秒、猫が0.02秒らしく、超高速な蛇の攻撃が、猫に全く当たらないのは猫の反応速度が蛇の2倍以上あるからなんだそうだ。俺のテスト結果は……
「俺の反応速度は、猫より速いらしいぜ」
「……バケモノめ」
そう、俺は動物最速の反応速度を持つ猫より速い。つまり、俺の条件反射を予測したところで、俺以上に速く反応できる相手以外はどうにもならないってことだ。
——その頃、火龍王ムスターファは【竜人化】で人型に変化し、ディオーネに接近戦を仕掛けている。
「くっ、近い…!」
ディオーネは弓を放つが、ムスターファの素早い動きに対応しきれず、矢は空を切ることが多くなっていた。彼女は時折、腰のレイピアを抜いて反撃するが、ムスターファの猛攻は止まらない。
【龍王灼熱ブレス】
ムスターファの喉元が閃光し、人型のままドラゴンブレスを放つ。彼の口から炎が噴き出し、ディオーネに迫る。彼女は咄嗟に避けるが、熱風が彼女の肌を焦がしながらも【縮地】を使い距離を取ろうとする。
【龍王の暴風】
灼熱の熱風と共に放たれる暴風は、まるで竜巻のようにディオーネの周囲を包み込み、彼女の行動を阻害する。ムスターファはニヤニヤと笑みを浮かべているが、その攻撃は詰将棋のようで一瞬の隙も与えない。ディオーネは序盤と違い、明らかに圧倒されている。
「わっはっは!我は美しいレディには何事も手を抜かん主義でな。そろそろ降参したらどうだ」
ムスターファって人型でもドラゴンブレスを使用できるんだな。あのチャラいイケメン面で火を噴くとか、人外の化け物にしか見えん。なんであれが女にモテるのかわからない。
「……はあ、もうちょっと対抗できるかと思ったが、ここまでだな」
ディオーネは諦めたように両手をあげた。
「ところで、おぬし、我はともかく拓海への攻撃は致命傷になりかねない威力だったが、まさか殺す気だったか?もしや裏切り者ではなかろうな?」
ムスターファは急に真顔になってディオーネに尋ねた。何か思う所があるのか降参した相手にまだ戦闘体制を保っている。
「ん?貴様の加護で、あの勇者は致命傷から守られていると聞いているが。」
「はて、我の炎の影響を回避する加護はあるが、命を守る加護などないぞ。一体誰からそれを聞いた——」
その時だ、俺たちの戦っているコロシアムの闘技場の周囲を取り囲む観覧席に、ぞろぞろと人影が現れた。それは『アゼザル』の魔王崇拝者たちだった。最初から地上に潜んでいた彼らは、俺たちが消耗したタイミングを見計らい、一斉に包囲し攻撃を仕掛ける罠だった。
「一人か二人、死んでからと思っていたが、まあ頃合いだろう!」
群れのリーダーらしき男が野太い声で俺たちに叫んだ。その冷たい眼差しが俺たちに注がれている。彼らの手には武器が握られ、明らかに準備万端の様子だった。俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。冒険者A級、B級クラスとはいえ、1000人近くに囲まれるのはかなりヤバい状況だ。
「おいおい、罠だったってことか?冒険者ギルドの機密体制はザルかよ……」
俺はうんざりした顔でオビオンに文句を言ったつもりだったが、目の前にいたはずの奴の姿はどこかに消えていた。まさかオビオンが内通者だったのか?いや、正確には奴を操作している本体がか。
「まさか!あの秘密主義者が裏切った?!火龍王の加護があるなどと、くそ!あの嘘つきめ!」
ディオーネが地面を叩いて悔しがっている。
「なるほど、あのオビオンという男が裏切り者か」
それを聞いてムスターファは何故かホッとした顔をしている。え?ディオーネさんじゃなかったから良かったってこと?どんだけ女好きなんだよオッサン……
ていうかどうするこれ、まだ地下から美月達が戻ってないからムスターファと飛んで逃げるわけにもいかないし、そもそも敵はこっちに出てきてるのに、未だ地下から戻ってないのはどういうことだ?何が起こってるんだ。
「美月に何かあったのかもしれんぞ。地下から強大な魔素の気配を感じる。おそらくは、鬼神の類だろうな」
ムスターファは腕組みしながら、地下の出入り口を睨んでいる。その近くにいたアルティナが俺の方を見て頷くと、地下へと降りていった。
「鬼神か……ニコルが居たとしても、あれはかなり危険だ、頼むぞアルティナ……」
いや、美月だって対魔族に特化した勇者だ、一度は魔王を追い詰めた彼女の力を信じよう。
「ムスターファ、美月が戻ってくるまで、こいつら押し留められるか?」
「……押し留める?バカをいうでないわ、こやつら全員に我の、火龍王への畏怖を教育してやろうではないか」
まったく、こいつが味方で良かった。とはいえ、美月……早く戻ってこい。
——地下では、美月と鬼神との壮絶な戦いがクライマックスを迎えつつあった。




