26 大神官との約束
翌日、俺とアルティナの二人で大神官メーディアのもとを訪れた。美月が「メーディアには会いたくない」と言ってニコルを連れて何処かに行ってしまったからだ。聖剣の件があるので複雑な心境なのかもしれない。
大神殿は思ったとおり俺が異世界で最初に転移させられた場所だった。魔法陣が描かれた広間のさらに奥へ進むと、大階段がありその先に白い巨大な像が立っている。見覚えがある、おそらくあの時の神だ。
その階段の裏側に入る通路があってそこからさらに奥へ進んだ場所に大きな扉があり、その両側を2人の神官兵が警備している。
「アルティナ様、中で大神官様がお待ちです」
そう言うと神兵はドアを開けて中へと俺たちを誘導する。
部屋に入ると、部屋の中央に大理石で作られた白く大きな円卓があって、その右側の大窓から陽光が降り注ぎ、円卓を神秘的に照らしている。
見ると奥の窓際で外を眺めている人影が見える。
俺たちが入室すると振り返り、こちらへ歩み出てきた。近づくにつれてその人物に陽光がかかりその風貌が鮮明になる。
「勇者拓海よ、よく来てくれました。」
おそらくこの人が大神官メーディアだろう。
聖職者らしい白いローブに朱色の羽織、ブラウンに近い濃い金髪。アルティナほどでないがやや耳先が長く、誰が見ても美しい女性だ。年齢は30歳前後に見える。特徴的なのが眠っているように目を細めているか閉じているような表情だ。もしかして盲目なのだろうか。
「メーディア様、色々報告が遅れて申し訳ございません。明日再び遠征しますのでその前にご挨拶に伺いました。」
そう言ってアルティナが深々とお辞儀する。
「勇者拓海です。お初にお目にかかります」
俺も頭を下げる。なんというかアルティナとは違う美しさと神聖なカリスマを感じる不思議な女性だ。流石は100年以上も大神官を務めている人物だけある。
ていうか120歳超えたお婆さんにはとても見えないな。
「あら、あなた達はもうリトグラスに向かうのかしらね?」
「え?何故それを知っているのですか……」
おいおい、ゼロスさん、王家にも秘密裏に進めてる作戦じゃなかったのかよ!もうバレてるじゃん。
「メーディア様は、心眼のユニークスキルをお持ちだから、下手な隠し事は無意味よ。質問には正直に応えるようにして。」
アルティナが小声で俺にそう伝えてきた。そういうことはもっと早く教えてくれよ!もしかして俺の心の声もバレてるの?やばいやん、あ!
「心配せずとも心の声までは分かりませんよ。少し先の未来が見える……そういう能力ですから」
本当に?って今読まれてなかった?にしても少し前の未来が見えるって予知能力やん!カッコイイ。俺にそのスキルがあったらほぼ無敵になれるな。
「あ、はい、ご存知なのであれば、その通りです。私をX級冒険者に推されたのも、その、心眼で予知を?」
「いえ、それは貴方の才能を認めた上での判断です。ただゼロス殿が何をされようとしているかは、私もある程度把握してます。それなりに情報網を持ってますので。もちろん王家側には伏せてますが。」
うーん、目を閉じてるから真意がイマイチ見えないが、この人からは心眼で見えてるってことか。なんかマジックミラーの前で尋問されてる気分だな。
というか隠し事が無駄なら下手な駆け引きは無意味だな、もう単刀直入に質問をぶつけよう。
「あの、お聞きしたいのですが、勇者美月が無くした聖剣がここに戻ってきたのは何故です?」
メーディアは少し考えたあと、話し始めた。
「それは私が聖剣帰還スキルを使用したからですよ。もう勇者美月は帰ってこないと思いましたので。知っているとは思いますが、私は元勇者……オーリューンの従者であり、娘でした。彼から聖剣に纏わる様々なスキルを受け継いでいるのです。」
なるほど、まあ納得はいく説明か。しかし勇者オーリューンの娘なのにエルフって変だよな。
「色々聞いて申し訳ないのですが、メーディア様は、ここにいるアルティナと同じハイエルフなのでしょうか?オーリューンは人間族だったと聞いてますが」
「いいえ、私はハイエルフではありません、人間との混血児ハーフエルフです。アルティナのようなエルフ純血種ではないのですよ。あと、オーリューンは親ではありますが、血の繋がりは無いのです。」
え?なんか不躾なこと聞いちゃったかも。にしてもこの人は体裁繕ったり誤魔化したりしないんだな。誠実なのか、大胆なのか。
「メーディア様、実は報告がありまして……」
するとアルティナが口を開く。
まさかまたアレを言うの?やめてぇ!
「勇者拓海と婚約をしたそうですね、アルティナ。」
メーディアに先に言われても冷静なままのアルティナ
「はい、龍言の誓いによって、婚約者として神域に刻まれております。」
それを聞きしばらく考えた後、メーディアは少し強い口調で話し始めた。
「アルティナよ、今回の冒険者ギルドの特務『魔王崇拝者』討伐の件は神殿勢力としては事実を知りながらも、黙認する事を決めています。」
「ありがとうございます、大神官様のご配慮を心強く思います」
そう言うとアルティナは、方膝を付き感謝の意を示した。
「ですから、もし、この計画が失敗し、魔族軍が動く、全面戦争のような事態となれば、黙認した神官勢力は誰かが責任をとる必要があります。」
「と、申されますと……」
「その場合、私は——大神官の職を辞します。その代わりとして、アルティナ、貴方を次期大神官として推します。」
え?アルティナが次期大神官?どういうことだ。
アルティナって魔導士でしょ。
「メーディア様!私に大神官など務まりません!神官の職も既に辞しておりますし——」
「いいえ、アルティナ、あなたは大神官の資格となる上級神官士レベル60直前で、あえて魔導士にクラスチェンジしただけでしょう。クラスを戻せばいつでも大神官になれる資格を持ってますよね。私を誤魔化す事は出来ませんよ。」
あらアルティナって元々上級神官士だったの?どうりでスルバスの戦いの時、あんな祝福大回復を使えたんだね。なんか変だと思ったんだ。
「そうですが……メーディア様がお辞めになる必要は——」
「これは決定事項です。もし私が辞職し貴方が大神官となった場合は『神に身を捧げる者』として神域に刻まれ上書きされます。龍言があったとしても、その婚約は無効になると言うことです。」
え?大神官って神域で結婚出来ない縛りの職業なんだ。でも、アルティナにとっては龍言で無理矢理に婚約者設定になっただけだし、別に気にしなくていいんじゃないの?
「メーディアさま……お言葉ですが、私は勇者拓海を本気で愛しています。ですからこの任務を必ず成功させて私たちは結婚します。つまり私が大神官になるような事態にはなりません!ご心配無用です。」
そうアルティナは言って立ち上がり、やや挑戦的にも見える真剣な目でメーディアを見つめた。
すると閉じていたメーディアの目が薄らと開き、美しい緑色の瞳が露になる。わあやっぱすごい美人だった。
「あら、あなたが異性に大してそんな情熱を持つなんて意外ね。てっきり人に興味が無いのかと思っていましたよ。」
なんか美女と美女の因縁対決みたいに見えるけど、なんなのこのお二人のピリピリとした空気は一体……。お子ちゃまの俺にはサッパリわからないんですが。
「では、準備もありますので、そろそろ失礼します。」
「無事任務に成功する事を祈ってますよ。約束は、守りましょうね、お互いに。」
そんな感じで見送るメーディアに軽くお辞儀をしてツカツカと部屋を出るアルティナを、オロオロしながら追いかけていく情けない俺。
神殿を後にしてからもプンスカと歩くアルティナ。
「アナタ……絶対に、確実に、この任務、成功させてね!」
なんなのこれ!よく分かんないけど!やらないと殺されそうな気迫を感じますけど!
「も、もちろんだ!すべて俺に任せろ」




