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25 魔王の崇拝者達

 俺たちが居るエイム王国は、南北に長い半島の北部を領土としているが、半島の南部は魔族領、北部は聖地クエルクスに接しているので陸路で北部大陸側に入るには、聖地を越境する必要がある。ある意味で南北を塞がれた陸の孤島というわけだが、防衛にはかなり有利な地理と言えるだろう。


 国民の多くはアポスト神を信仰し、伝統的に首都テーベスのアポスト大神殿を管理する大神官を頂点とする神殿勢力と、軍事・国政の頂点であるエイム王率いる王家勢力による二元代表制度を採用しているが、実質的にはエイム王、つまり王家によって統治されていて、神殿勢力が政治に口を出すことはほとんどない。


 国境を接する魔族とは古くから因縁があり、過去に何度も大きな争いが起きたと歴史に記されている。特に300年前の大戦では、南部の魔族国境近くにあった旧防衛都市リトグラスが陥落し、現在の防衛都市スルバスまで前線の後退を余儀なくされたが、北部から派遣された英雄スルバの活躍によって耐え凌ぎ、魔族の北上を食い止めた。そして120年前に勇者オーリューンが登場、彼の圧倒的戦力により破竹の勢いで南進した王国は、魔族軍に壊滅的被害を与え続け、最後は勇者オーリューンによって魔王が討伐されたことで、魔族領土の大半を収奪した。


 勇者オーリューンは先代魔王を討伐した後、残党狩りをしながら魔族領にしばらく駐留して目を光らせていたが、やがて聖地クエルクスの先へ行くと言い、聖剣を王国に託して旅立ったが、その後の消息は不明となっている。オーリューンが王国から消えて数年後、封印したはずの魔王の眷属、つまり当代魔王ゴルゴロスが登場したため、オーリューンの聖剣とその能力を継承した勇者を延べ九人派遣するもすべて魔王に撃退され、現在の国境線まで再び魔族に押し返されている。


 ちなみに300年前の大戦で陥落した旧防衛都市リトグラスは、魔族国境付近の紛争地帯に近すぎるために、復興されることなく今も廃墟となったままだ。


 ——この国家情勢を把握してもらった上で、ギルドマスター・ゼロスとの会話に戻ろう。


 マスター・ゼロスの話は驚く内容だった。


 王国内に根を張っている組織の名前は『アザゼル』。その目的は『魔王による国家統治』。王国に暮らす人類種にもかかわらず、強大な力を持つ当代魔王に統治を委ねれば、永遠に争いのない真の安寧がもたらされると本気で考えてる『魔王崇拝者』の集団らしい。


 当初は頭のおかしな連中が集まった泡沫組織で警戒にも値しない存在だったが、当代魔王に勇者が撃退される度に、賛同者が増え続け、現状では数千〜数万人に及ぶ巨大組織へと肥大化、裏社会とのつながりも深く、下部組織まで含めるともはや実態を把握しきれないほど問題が深刻化しているらしい。


「そんなやばい連中が、国家転覆を企んでるとなると、この国はかなり危険な状態ってことですよね」


 ていうかやばいだろ……俺の手に負える内容じゃ無い。そもそも政治とか思想とかの類は苦手なんだよ。


「ああ、国家存亡の危機……といっても過言じゃない。ただ策が無いわけじゃないんだ。ディオーネ、話してくれ」


 するとマスター・ゼロスに話を振られたディオーネ女史が口を開く。


「300年前の大戦で陥落し廃墟になった旧防衛都市リトグラス……。旧市街のコロシアム遺跡が狂信者どもの拠点で間違いないところまでは調べがついた」


「そこを俺たちで叩くってことです?」


「いや、そんな単純な話じゃないんだ」


 ディオーネによると、コロシアムの地下は三層のダンジョンになっていて、その拠点にはA級、B級冒険者クラスの私兵が1000人近くも集結しているらしく、さらに南部の魔族国境付近に魔族の一個師団が待機している情報も確認しているという。


「諜報の結果、アザゼルと魔族師団は繋がってるとみて間違いない。拠点は1000人の手練に守られ、襲撃に時間がかかれば魔族師団が反応して北上してくる可能性が高い。つまり現時点では手の出しようがないって状況だ」


「じゃあ王国軍を動かすとかはダメなんですかね?」


「王国軍と魔族軍がぶつかるとなれば全面戦争だ。今の王国の内情を鑑みれば、相当に厳しい。というか、魔王による統治がむしろ早まる可能性が高いだろうな」


 ディオーネはそう言うと腕組みして黙ってしまったので、マスター・ゼロスが話を続ける。


「現状で、魔族軍と全面戦争になる行動は、さすがに神殿勢力が反対するだろう。正直言って、今のエイム王に神殿勢力、つまりは大神官メーディア様を抑え込むほどの求心力はないと思う」


 大神官メーディアか、聖剣の件も含めかなりのキーマンだな、早いうちに会っておいたほうが良さそうだ。にしてもこの案件、すでに詰んでるだろ……俺が参加したところでどうにもならないと思うんだが、一体何を期待されてるんだ。


「それで、俺は何をすればいいです?」


 そう言うと、マスター・ゼロスは二名のX級冒険者を見た後、再び俺と目を合わせて言った。


「喧嘩を手伝って欲しいのだ」


 急に何を言ってるのこの人?意味がわからない。


「えっと……誰と誰が喧嘩するんです?」


「ここにいる我々がコロシアムで喧嘩するのだよ」


 ますます意図がわからない、喧嘩自慢イベントみたいな興業でもやるんでしょうか?敵の本拠地の真上で?頭大丈夫かよ。


「あの、もうちょっと分かるように説明して頂ければ……」


 それから俺たちはマスター・ゼロスの考えを聞いた。最初はかなり大胆で無謀な作戦のように思えたが、仔細を聞くと確かに納得出来る内容でもあった。少なくとも魔族軍に動く理由を与えない戦略としてはかなり考えられている。

 出発は明後日と決まり、それぞれギルドを後にした。


「アルティナ、ゼロスさんの言ってた作戦内容どう思う?」


「うーん、かなり強引な作戦だけど、悪くはないと思う。どっちにしてもあそこを放置して勢力を拡大されると、全面戦争に近づくだけだしね」


「でもさあ、なんで魔族軍は一気に攻めてこないんだ?戦力的には余裕なんだろ?」


「当代魔王ゴルゴロスは、力づくではなく、王国の気持ちが折れて自ら魔族側に屈するように、じわじわと真綿で首を絞めるような戦略をとっている。強さだけでなく統治者としてもかなり頭の切れる魔王よ。」


 なるほど、政治のことはよくわかんないけど、蹂躙して瓦礫になった国より、降伏させて無傷で頂いて統治する方がたしかに美味しいよな。魔王は強い上に頭も良いのか、なんかアルティナみたいな完璧主義者かもしれん。ただ、魔王崇拝者がこれだけ増加してるってことはカリスマ性も高いんだろう。うーむ、本当に倒すべき敵なんか?


 いやいやいや、チート野郎はクソしかいないと相場決まっている。


「ところで、旧防衛都市リトグラスへ向かう前に大神官メーディアに会っておこうと思うんだが」


 するとアルティナがやや複雑そうな表情を浮かべ


「アナタはまだ知らないでしょうけど、大神官メーディア様は……勇者オーリューンの娘よ」


「えーー?ってことは120年以上生きてるのか?」


「そう、エルフの血を引いてるから見た目は若いけどね。オーリューンと共に旅した仲間で唯一の生き残りと言われてるわ」


 それって歴史の生き証人だよな、色々気になってる事も聞けるかもしれない。やっぱり会っておくべきだ。


「すぐにでも会えるのか?」


「明日、謁見を頼んでみる。たぶん大丈夫だと思うけど……いいえ、なんでもない」


 ん?アルティナさん、なんか言い含んでる感じがする。何か心配事か?もしかして仲が悪いとか?さっぱり分からん。


「アルティナ、俺もそこは分かってる。任せてくれ」


 本当は分かってないけど、こういう時は共感性ってやつが大事だと何かで見た気がするからな。まあ出たとこ勝負で何とかしよう。


「拓海……アナタって本当にスゴイ人ね。じゃあ明日、メーディア様に会いに行きましょう」


 そして翌日、俺たちは大神官メーディアを訪ねた。それが、まさか、あんな事態に発展するとは、この時の俺は想像すらしていなかった。


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