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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
85/313

その八十四(姉)

 私は磐神いわがみ美鈴みすず


 とうとう大学四年生になる。


 就職難のこの時代、これから先どうなる事かと不安でいっぱいだ。


 家庭の事情で夜間の大学に通学している私は、昼間は工事現場で働くガテン系でもある。


 そんな私の愚弟の武彦が、驚いた事に大学に合格した。


 しかも、奴の幼馴染の都坂みやこざか亜希あきちゃんと同じ大学に、だ。

 

 つい一年前までは、大学なんて行けないと思っていたのに。


 武彦の成長を知って、嬉しい反面、寂しい気持ちもある。


 だからこの前、


「じゃあさ、二人でお祝いしようよ、姉ちゃん」


と言われ、つい、


「それはやだ」


なんて、心にもない事を言ってしまった。


 あいつ、後で母に訊いたら、落ち込んでいたらしい。


 悪い事を言ってしまったと後悔したが、姉としてのプライドが「謝罪」を拒んでしまう。


 ダメな私。謝らないと。


 相手を傷つけたら、必ず謝罪する。


 小さい頃から、武彦にそう教えて来た私がこれでは、示しがつかない。




 そんな時、リッキーから久々に飲みのお誘い。それも、二人っきりで。


 きゃああ! 二人きりだなんて、リッキーったら、エッチね。ムフ。


 私はウキウキして出かける支度をした。


 そこへ愚弟たけひこが帰って来た。


「お帰り、武。留守番頼む」


 テンションが上がっている私は声が弾んでいたのだろう。


 武彦が怪訝そうな顔で、


「あれ、どうしたの?」


 ご機嫌な私はニヘラッとしながら、 


「リッキーと飲むの。じゃあねん」


 手を振りながら、玄関を出る。


「行ってらっしゃい」


 武彦の気の抜けた声が後ろでした。


 ああ、しまった、つい謝り損ねた。


 ま、いっか。またの機会にしよう。


 私は鼻歌を歌いながら、駅へと向かう。


 待ち合わせは、取り敢えず駅前の居酒屋。で、その次は……。ムフフ。


 お店は五階にあるのだが、私は全然苦にならず、軽やかに階段を駆け上がる。


 五階以下はエレベーターは使用しない。


 格闘家の基本だ(個人的な意見です)。


「ここだよ、美鈴」


 一番奥の座敷の衝立の陰から顔を出したリッキーが爽やかな笑顔で手を振る。


 周囲の女子達は、そのハンサム君の相手がどんな女かと思い、一斉に私の方を見た。


 ような気がしただけだけど。


 私もリッキーに手を振り返し、座敷に近づく。


 あれ?


 座敷の前に靴が二足。しかも、女性の靴。白。しろーっ!?


 ま、さ、か!?


「時間に正確ね、美鈴さん」


 私はフリーズしそうになった。


 リッキーの向かいには、リッキーのお姉さんの沙久弥さんが座っていたのだ。

 

 今日もまた、武彦が言う「ザ・美少女モード」全開だ。年上なのに可愛いのだ。


 ふとリッキーを見ると、嬉しそうに私を見ている。


 って事は、嵌められたの、私?


 だとしても、この状況で怒る事も逃げ出す事もできない。


「お、お久しぶりです、沙久弥さん」


 私はようやくそれだけ言った。


「さ、座って」


 リッキーが座をずらして、私は隣に腰を下ろした。


 足が下に下ろせるテーブルで良かった。


 正座しなくちゃならなかったら、大変だった。


 げ! でも沙久弥さんは正座してる。


「姉貴は下に足が届かないから、正座してるんだよ。気にしなくていいから」


 リッキーがとんでもない事を言い出す。


「まあ、酷い事言うのね、憲太郎は」


 でも沙久弥さんはニコニコしたままだ。


 私も武彦に対してこのくらい余裕を持った方がいいのだろうか?


 あいつは多分、深読みして来るだろうけど。


 そして、飲み会が始まった。


 二人っきりじゃないのはちょっとだけ不満だったけど、これもリッキーなりの気遣いだとわかった。


 いつもより沙久弥さんが私に話しかけて来る。


「そんなに私って怖いの、美鈴さん?」


と尋ねられた時は、幽体離脱しそうだったけど。


 リッキーめ。後でお説教よ。


 私は武彦の話題とリッキーのいつも以上のジョークのおかげで、沙久弥さんと普通に会話できた。


 ありがとう、リッキー。そして、お心遣い感謝致します、沙久弥さん。


 それから、間接的に力を貸してくれてありがとう、武。


 二人で合格祝い、しような。

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