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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
70/313

その六十九

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。高校三年。


 とうとう、来るところまで来てしまった。


 明日明後日はセンター試験。


 ここまで来たら、ジタバタしても仕方がないけど、不安な気持ちは抑え切れない。


 ここ何日か、試験に間に合わない夢を続けて見ている。


 二年の時まで、遅刻常習犯だった僕は、余計そのプレッシャーが大きい。


「そんなに心配しないで、武彦。母さんがきちんと起こすから」


 そう言いながらも、母がソワソワしているのがわかる。


「それでもダメなら、姉ちゃんが叩き起こすから、心配するな」


 姉は何故か嬉しそうだ。嫌な予感がする。


「姉ちゃんのやり方だと、僕、気絶しそうだよ」


 心配なので釘を刺しておく。


「失礼な奴だな! そんな事、する訳ないだろ!」


 姉はムッとしてそう言ったが、僕と母は不審そうな目を向けたままだ。


 でも姉はそんな事には気づかず、


「大丈夫だよ、武。母さんと姉ちゃんが起こせなくても、亜希ちゃんが起こしてくれるよ」


「ああ、そうね」


 母は途端に安心したようだ。姉は何故かニヤリとして、


「特別な方法でね」


「特別な方法?」


 母がキョトンとする。すると姉が母に耳打ち。


 母までニヤリとした。何なの?


「何だ、だったら、最初から亜希ちゃんに起こしてもらえばいいかもよ、武彦」


 二人の女が僕を見て笑う。何だか嫌な構図だ。


 


 そして夜。


 僕はちょっとだけ参考書と過去問に目を通し、九時には寝た。


 試験会場まではそれほど遠くないが、余裕を持って着きたいので、早めに出ようと決めたのだ。


 もちろん、亜希ちゃんと。


 須佐君と櫛名田さんは、会場が違うので、落ち合う事はできないが、試験終了後にお疲れ会をする事になっている。


 お互い、笑顔で会えるといいけど。


 ああ、何だか、不安になって来た。


「不安になったら、こうすればいいわ」


 姉の婚約者の力丸憲太郎さんのお姉さんで、僕と亜希ちゃんの特別講師をしてくれた沙久弥さんが、気持ちを落ち着かせる呼吸法を教えてくれた。


 やっぱり、沙久弥さん、優しいし、頼りになるなあ。


 この感想は、姉にも亜希ちゃんにも内緒だけど。


 そんな事を考えているうちに、僕は眠りについた。


 


「武君、起きて。朝よ。ねえ、早く」


 今、ほっぺに何かが当たった気がする。

 

 うん? 亜希ちゃん? もうそんな時間?


 何、今の?


 僕は眠い目を擦りながら、ベッドから起き上がった。


「武君、やっと起きたわね」


 そこにいたのは、亜希ちゃんではなく、姉だった。


「どうだ、亜希ちゃんの物真似。似てただろ?」


「え?」


 僕は完全に目が覚めた。て事は、さっきのほっぺの感触はまさか……?


「ムフフ、姉ちゃんのお目覚めのチューはどうだ? すっきり目が覚めただろ?」


「ええええ!?」


 僕は仰天してベッドから飛び出した。


 すると姉は大笑いして、


「嘘に決まっているじゃん。何が悲しくて、自分の弟を起こすのに、チューしなくちゃならないのよ」


「そ、そう……」


 僕はホッとした。


「何だ、武、残念そうだな、変態め」


 姉は嬉しそうに僕をからかう。


「ざ、残念なんかじゃないよ!」


 僕は慌てて否定した。姉は笑いながら部屋を出て行く。


 僕は何とも納得しがたい思いに駆られながら、階下したに降り、洗面所に行った。


「え?」


 ふと顔を見ると、ほっぺに口紅の痕がある。まさか!


 妄想を振り払い、顔を洗ってキッチンに行く。


 今日は珍しく、三人で朝食だ。


「頑張ってね、武彦」


 母が言ってくれた。


「うん」


 二人で玄関まで見送ってくれた。


「武、大丈夫だ。お前ならやれる」


 姉が玄関のドアを開きかけた僕の背中を抱きしめた。


「ありがとう、姉ちゃん。行って来るよ」


 僕は微笑んで外に出た。


「武君、おはよう」


 玄関の前には、亜希ちゃんがいた。


「おはよう、亜希ちゃん」


「頑張ろうね」


「うん」


 僕は亜希ちゃんと微笑み合い、歩き出した。


 今日と明日。気合入れて、行くぞ!

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