その六十二(亜希)
私は都坂亜希。高校三年生です。
現在、幼馴染で同級生の磐神武彦君と真剣交際してます。
私は将来武君と結婚したいのですが、武君がどう思っているのか、まだよくわかりません。
中学に入学してしばらくの間、あまり話さなくなって、高校に入ってからも、何だか怖がられていたし……。
だから、今年の二月、武君の十七回目の誕生日に私は思い切って告白しました。
ドキドキしました。断わられるんじゃないかと思って。
でも、武君はOKしてくれました。
あの時は本当に嬉しかった。だって、ずっと武君の事が好きだったから。
彼は、お姉さんの美鈴さんに怒られながら大きくなったので、お姉さん子です。
本人は違うと思っているみたいだけど、完全にシスコンです。
これ、嫉妬なのかな?
彼がお姉さんの話をするたびにドキッとします。
私は彼にとってどういう存在なのかと思ってしまうのです。
それでも最近は、キスもしたし(きゃああ!)、それなりに「彼女してるな」と思えています。
ようやくそんな風に感じて来たのに……。
またライバル(?)出現なんです。
美鈴さんの婚約者である力丸憲太郎さんのお姉さんの沙久弥さん。
年齢は二十三歳ですが、見た目は私達と同年代。
しかも、武君をお気に入り。
もちろん、沙久弥さんには恋愛感情なんてないのでしょうが、私は気が気ではありません。
武君たら、沙久弥さんに会うと嬉しそうなんです。
「そんな事ないよ、僕は亜希ちゃん一筋だよ」
彼はそう言ってくれています。その言葉に嘘はないと思います。
でも、沙久弥さんも「お姉さん」です。
シスコンの武君には、堪らない魅力があるのです。多分……。
しかも、沙久弥さんは美鈴さんと違って怖くないし。
強敵です。思い過ごしだと考えたいのですが、難しいです。
そんな事を考えながら歩いていたら、憲太郎さんと会いました。
「やあ、今日は一人?」
憲太郎さんはいつ見ても爽やかです。
こんな兄がいたら、と思ってしまいます。
あれ? いつか憲太郎さんは私の義兄になるのかな?
「は、はい」
妙な妄想で顔が火照りました。憲太郎さんに気づかれないようにしないと。
「こんな機会、滅多にないから、どこかでお茶でも飲まない?」
「はい」
私の方から言い出そうと思っていた事を憲太郎さんに言われて、内心ホッとしました。
近くにあったファストフードのお店でティータイム。
知らない人が見たら、恋人同士に見えるかな?
「憲太郎さん、大丈夫なんですか?」
「何が?」
私の唐突な質問に、憲太郎さんはキョトンとしました。
「美鈴さんに見られたら、怒られそうですから」
私が悪戯っぽく言うと、憲太郎さんはニコッとして、
「未来の義理の妹とお茶してても、美鈴は怒ったりしないよ」
私はまた顔が火照りました。
「僕こそ、武彦君に怒られそうだよ」
「武君は嫉妬深くないから大丈夫ですよ」
「そうかな?」
そう言えば、武君て、嫉妬とかするのかな? 見た事がないからわかりません。
「あの」
私は思い切って沙久弥さんと武君の事を相談してみました。
憲太郎さんはその話を聞き、しばらく考え込んでから、
「武彦君さ、姉貴に彼氏がいるのを知って、ショック受けてたみたいなんだ」
「え?」
何ですか、それ? ドキドキしてしまいます。
「でもさ、それはあくまで美鈴が原因なんだよ」
「え?」
ますます鼓動が早くなります。憲太郎さんはニコッとして、
「武彦君はシスコンなんだよ。だから、姉という存在に過敏に反応してしまう。それだけの事だと思うよ」
「はい」
という事は、やっぱり私のライバルは美鈴さん?
「お互い、ライバルに恋人を盗られないように頑張ろうね、亜希ちゃん」
「はい」
何だかおかしくなって、憲太郎さんと顔を見合わせて笑ってしまいます。
気持ちが楽になりました。
私は憲太郎さんにお礼を言って別れました。
すると携帯に着メールです。
開いてみると武君からです。
「友達からの連絡で、亜希ちゃんが男の人とデートしてるって聞いたんだけど、本当?」
そう書かれていました。私はクスッと笑ってから、
「本当よ。素敵な年上の人」
とだけ打ち、返信しました。憲太郎さんと写した写真を添付して。
武君が嫉妬してくれた。そう思っただけで、とても嬉しくなりました。
武君、大好きだよ。