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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
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その四十九

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。高校三年。


 最近、あねーズに悩まされている。


 実の姉の美鈴。凶暴で怖い。これには少しずつではあるが、耐性がついて来た。


 義理の姉になると思われる、力丸りきまる沙久弥さくやさん。


 沙久弥さんは怖くはないが、圧倒される。姉なんか、可愛いと思えてしまうほど。


 その沙久弥さんに街でバッタリ会ってしまった。


 ああ、会ってしまったは語弊があるかな?


 その時は、僕の彼女である都坂みやこざか亜希あきちゃんがいてくれたから良かった。


 只、ほんの少し、誤解が生じそうになったけど。


 


 僕と亜希ちゃんは、映画を見た後、街を歩いていた。


 街路樹が少し色づき始めた気がする舗道には、結構カップルが多い。


 楽しく会話をしながら歩いていた僕は、急に何かを感じた。


 別に僕はニュータイプではないし、霊感が鋭い訳でもない。


 でも、それは確実に僕に近づいて来ていた。


「武彦君、こんにちは」


 その声によって謎は解けた。


 僕達の前に可愛らしい女性が立っている。


 真っ白なワンピース。長くて奇麗な黒髪。真っ白なハンドバッグ。真っ白なパンプス。


 「ザ・美少女」という雰囲気の沙久弥さんだった。


 途端に隣の亜希ちゃんから嫉妬の炎を感じた僕は、自惚うぬぼれが強いだろうか?


「どちら様、武君?」


 亜希ちゃんが僕を見る。顔は笑っているが、目が笑っていない。


 僕は慌てて、


「ああ、紹介するよ、憲太郎さんのお姉さんの沙久弥さん」


「え?」


 途端にバツが悪そうな顔をする亜希ちゃん。


「沙久弥さん、こちらが僕の彼女の都坂亜希さんです」


 僕は姉から、


「沙久弥さんと話す時は、礼儀作法に気をつけてね」


と言われているので、ドキドキしながら言葉を続けた。


「まあ、奇麗な子ね。こんにちは、亜希さん」


「こ、こんにちは、沙久弥さん」


 亜希ちゃんは顔を赤らめて微笑んだ。自分の早とちりを恥じているのだろう。


 可愛いなあ、亜希ちゃん。


「そうだ」


 沙久弥さんがポンと手を叩く。何だ、と思って彼女を見る。


「今度の食事会、亜希さんもお連れして、武彦君」


「え?」


 亜希ちゃんがキョトンとして僕を見た。すると沙久弥さんは鈴を転がすように笑って、


「亜希さんも将来私の義理の妹になるのですから、その方が良いでしょう、武彦君」


「あ、はい、そうですね」


 僕は顔が赤くなるのを感じながら応じた。亜希ちゃんはさっきより顔が赤い。


「では、ご機嫌よう」


 沙久弥さんは悠然と去って行った。


「びっくりした」


 亜希ちゃんが溜息を吐いて言った。


「私、危うく、失礼な態度を取るところだったわ。嫉妬深いって、恥ずかしいね」


 さり気なくドキッとする事を言う亜希ちゃんは、また飛び切り可愛かった。


「そ、そんな事ないよ。僕が沙久弥さんにもっと早く気づけば良かったんだ」


 僕は亜希ちゃんが少し落ち込み気味だったので、フォローした。


「ありがとう、武君」


 亜希ちゃんはニコッとして言った。そして、


「でも、沙久弥さん、素敵。失礼な言い方かも知れないけど、何だか抱きしめたくなるくらい可愛らしいし」


 亜希ちゃんはウットリした顔で続けた。その顔がまた可愛い。


「憲太郎さんの話では、可愛いって言ってあげると、凄く喜ぶらしいよ」


「そうなんだ。普通は嫌がるのにね」


 亜希ちゃんは意外そうに目を見開く。


「昔は気にしていたらしいけど、今は逆みたいだよ」


 僕達は沙久弥さんの話題で盛り上がり、家路に着いた。


 


 僕は亜希ちゃんを送ってから、家に帰った。


「お帰り」


 これから出かける姉が玄関にいた。姿見で自分の服装のチェックをしている。


 そう言えば、いつもの服装と違い、珍しくアイボリーホワイトのスーツを着ている。


「どうしたの?」


 いつも大雑把に支度をして飛び出して行く姉らしくないので、尋ねた。


「これから、沙久弥さんに会うのよ。襟が乱れてたり、服に皺があったりすると恥ずかしいから、チェックしてるの」


「へえ」


 その声が気に障ったのか、姉がムッとして僕を見る。


「何よ、その言い方? 私がいつも雑なのを笑ったな!?」


「そんな事ないよ!」


 僕は慌てて否定する。全く、酷い被害妄想だ。


「嘘吐くな!」


 姉はそれでも僕に掴みかかろうとする。


「ほら、そんな事したら、服に皺ができるよ」


「あ、そうか」


 姉はハッとして思い止まってくれた。僕は心の中でホッとする。


「ありがとう、武。じゃ、行って来るね」


「行ってらっしゃい」


 僕はにこやかな顔で出かける姉を送り出した。


 でも……。


 今度の食事会、大丈夫かな?


 姉があの気の使いようなのを見ると、またドキドキして来る。


 取り敢えず、亜希ちゃんと憲太郎さんに何とかしてもらおう。


 相変わらず他力本願な僕だった。

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