その四十
僕は磐神武彦。高校三年。
今日は、勉強も一休みで、幼馴染で現在交際中の都坂亜希ちゃんとプールに来ている。
前回来た時は、ちょっとした事件のせいで亜希ちゃんの水着姿を全く記憶していなかった。
そのため、今日はドキドキしていた。
どんな水着だろう?
以前、夢で見たような大胆な水着だったら、多分鼻血が出てしまうだろう。
夢で見ただけで、鼻血出そうだったんだから。
でも亜希ちゃんは結構シャイだから、そんな水着は着ないよね。
残念だけど、その方が安心だ。
僕はプールサイドで亜希ちゃんを待っていた。
「あらあ、磐神君じゃない?」
ギクッとした。この声は……。
恐る恐る振り返ると、そこには予想通りの人がいた。
中学の時の同級生の櫛名田姫乃さん。
「!」
更にドキッとする。
く、櫛名田さん、ビキニ! そ、それも、ほとんど肌が隠れていないような、極小サイズ!
「亜希とプールデート?」
彼女はニコッとして言う。僕は櫛名田さんをまともに見る事ができず、
「う、うん」
と俯いて答えた。
「磐神君、久しぶり」
須佐君が来た。彼も中学時代の同級生で、櫛名田さんと付き合っている。
良かった。須佐君が一緒で。
櫛名田さん、暴走すると怖いんだよなあ。
須佐君も櫛名田さんの大胆水着を見られないらしく、俯き加減だ。
まさか、亜希ちゃんも……。
おかしな期待感が膨らむのを、僕は必死になって打ち消した。
「あら、姫ちゃん、須佐君、久しぶりね」
亜希ちゃんが来たようだ。
ドキドキして彼女を見た。
ホッとした。
亜希ちゃんはワンピースの水着で、おへそもしっかり隠していた。
大胆な亜希ちゃんは見たいけど、やっぱり嫌だ。
でも……。
奇麗な脚はバッチリ出ている。
周囲の視線が、亜希ちゃんの太腿に集中しているような気がして来た。
亜希ちゃんと櫛名田さんはしばらく話し込んだ。
「須佐君、完全修復したんだね」
僕は小声で彼に話しかけた。須佐君は照れ笑いして、
「あれ以来、僕も強くなろうと思って、ボクシングジムに通い始めたんだ」
「へえ、そうなんだ」
それなら言ってくれればいいのに。
そのジムがいくらかかるのか知らないけど、「磐神美鈴格闘技道場」なら、無料で習える。
但し、結構痛い目に遭うけどね。
「そしたら、姫乃も通い始めちゃってさ。それじゃ意味がないでしょ?」
「確かにね」
僕らは声を上げて笑った。
「楽しそうね、二人共。可愛い子でもいたの?」
亜希ちゃんが怖い目で僕達を見る。顔は笑っていたけど。隣の櫛名田さんも怖い。
「ち、違うよ!」
僕達は声を揃えて否定した。しかし、僕達が顔を向けていた先に、大胆な水着でデッキチェアに寝そべるサングラスをかけた女性がいた。豹柄だ。
まずい……。あの人を見て笑っていたと思われたのかな?
「ああ、いたいた! 昇好みの、脚の奇麗なお姉さんだ」
櫛名田さんが目ざとく見つけて言った。
するとその女性はムクッと起き上がり、僕達の方を見て手を振った。
「え?」
ギクッとする僕と須佐君。この状況は非常にまずいんでは?
「ほーら、呼んでるわよ、お姉さんが。行って来なさいよ、昇」
櫛名田さんは言葉こそ穏やかだけど、目が完全に笑っていない。
僕は恐る恐る亜希ちゃんを見た。
すると亜希ちゃんは何故かクスクス笑っていた。
え? 何で?
「こいつう、プールデートなんて、羨ましいぞお!」
いきなり後ろからスリーパーホールド。
「ぐえええ!」
こんな事をするのは、世界中でたった一人しかいない!
「苦しいよ、姉ちゃん!」
僕はもがいたが、馬鹿力の姉には敵わない。しかも、いつにも増してあの感触が背中を……。
「どうだ、参ったか、武!」
周囲には人だかり。僕は苦しいより恥ずかしかった。
そして。
僕らはプールサイドのカフェテラスでコーヒータイム。
「お姉さん、大胆な水着ですね」
櫛名田さんが言った。すると姉は、ガハハと笑い、
「大した事ないわよ、こんなの。ウチには紐パンもあるから」
と答え、亜希ちゃんと櫛名田さんを思いっきり引かせ、須佐君を妄想館に送り込んでしまった。
「羨ましいな、磐神君」
須佐君が小声で言った。
試しに「一日弟体験」してみる?
そう言いたかった。