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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
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その三十五

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。高校三年。


 先日、幼馴染で現在交際中の都坂みやこざか亜希あきちゃんとギクシャクしかけた。


 その事を姉に相談したら、いきなり殴られた。


 そして、亜希ちゃんに与えた痛みがそれより大きい事を思い知り、彼女に謝った。


 結局のところ、僕は中学の同級生である櫛名田くしなだ姫乃ひめのさんに利用されていただけだったのだけど。


 須佐昇君と櫛名田さんは、仲直りできたのだろうか?


「もしかして、仲直りしていなかったら、姫ちゃんと仲良くするつもりだったの、武君?」


 その後の二人の事を亜希ちゃんに訊いたら、そう言われてしまった。


 最近亜希ちゃん、姉に似てきた気がする……。それは非常に困るんだけど。


「ち、違うよ! ぼ、僕は亜希ちゃん一筋だから……」


 最後の方はモゴモゴになってしまった。


「ありがとう、武君」


 亜希ちゃんは女神様のような笑顔で言ってくれた。


 やっぱり、似ていない。良かった。


 ああ、僕は幸せだなあ。


 


 しかし、そうでもないのかな、という事が起こった。


 夏休み目前の連休。


 亜希ちゃんとプールに行く約束をして、待ち合わせ場所の駅前の広場に行った。


 暑いので木陰に入り、亜希ちゃんを待つ。すると、


「磐神君」


 何故かそこに櫛名田さんが現れた。つい、ビクッとしてしまう。


「何よ、そのリアクション。失礼ね」


 そう言いながら、櫛名田さんは微笑んでいる。


「亜希とデートの待ち合わせ?」


「う、うん」


「ふーん、いいなあ」


 櫛名田さんは羨ましそうな顔をした。


「櫛名田さんだって、須佐君と付き合ってるんでしょ?」


「付き合ってないわよ、あんなヘタレなんかと」


 ううう。「ヘタレ」は僕のNGワード。嫌な事を思い出す。


「あいつ、この間不良に絡まれた時、私を置いて逃げたのよ」


「ええ?」


 それは僕には何も言えない。僕ならどうだろう?


「その時、ある人が助けてくれたから、私無事だったけどね」


「良かったね。でも、許してあげてよ。僕も不良が相手だと、その、なんて言うか……」


 僕は何とか二人の間を取り成そうと思って言った。


 でも櫛名田さんの怒りは解けなかった。


「私だって、戦って欲しいなんて思わない。あいつが、私を置いて逃げたのが許せないのよ」


「……」


 僕はそれ以上何も言えなかった。


「あら、姫ちゃん」


 そこへ亜希ちゃんが現れた。これこそ、天の助けだ。


「ああ、亜希。デートですって? 羨ましいわ」


「ええ? でも、姫ちゃんだって……」


 ああ。繰り返しになりそうなので、僕は亜希ちゃんを引っ張って櫛名田さんから離れた。


「なあに、武君たら……」


 亜希ちゃんは僕が積極的になったと思って赤くなっていた。


「櫛名田さん、須佐君と別れたらしいんだよ」


 僕は手短に事情を説明した。


「そうなんだ」


 亜希ちゃんと僕は櫛名田さんの方を見た。


「あれ?」


 櫛名田さんがいない。怒って帰っちゃったのかな?


「あ、武君、あっち!」


 亜希ちゃんに袖を引かれ、僕はそちらに目を向けた。


 そこには、姉と姉の婚約者の力丸憲太郎さんがいた。


 どういう訳か、櫛名田さんは姉達に頭を下げている。


 知らない人が見たら、脅かしているように見えそう……なんて事はないか。


 二人も僕達に気づいた。


 姉がふざけて投げキッスをしている。恥ずかしいな、もう。


 憲太郎さんは、僕達に手を振りながら、姉を引き摺るようにして歩いて行ってしまった。


 確かあの二人、今日は憲太郎さんの柔道の先輩の結婚式に出席するはず。


 全く、姉ちゃん、勘弁してよ。


 憲太郎さん、忙しいのにさ。


「ごめん。知ってる人がいたから。あなた達も、知り合い?」


 櫛名田さんは姉の行動を見てそう尋ねて来た。


 できれば「他人です」と言いたいくらいだ。でも亜希ちゃんはあっさりと、


「そうよ。あの人達、武君のお姉さんとそのフィアンセの人」


「へえ」


 櫛名田さんは何故か凄く驚いている。


「あの人が、私を助けてくれた人なのよ」


「ああ、そうなんだ」


 そうか、憲太郎さんなら不良の一人や二人、何て事ないよね。


 しかし、その後の櫛名田さんの言葉は衝撃的だった。


「貴方のお姉さんて、強いのねえ」


「……」


 僕は苦笑いをして亜希ちゃんと顔を見合わせた。


 助けたのは、姉だったのか。


 恥ずかしいのか、誇らしいのか……。


「はい」


 亜希ちゃんの携帯が鳴り、彼女はそこから離れた。


 その時だった。


「私、本気だからね、磐神君」


 櫛名田さんは、それだけ言うと歩き去った。


 ええええ!?


 どうしよう? また姉に相談すると、殴られるかな?


 


 僕はその後亜希ちゃんとプールに行ったはずなのだが、何も覚えていないほど動揺していた。

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