その三十三
ちょっとばかり、波風を立たせてみました。
僕は磐神武彦。最近、この世は終わるのだろうかというくらい幸せだ。
幼馴染の都坂亜希ちゃんとは、現在交際中。全校男子に呪い殺されそうだ。
そして、凶暴だが優しい姉美鈴は、同級生の力丸憲太郎さんと婚約。
更に母珠世は、アルバイトにも関わらず、課長に昇進。
怖いくらいだ。
このまま、何も起こらなければいいけど。
そんな心配をしてしまった。
そんな心配をすると、本当にそんな事が起こるものなのだと、やがて思い知る事になる。
「あれ?」
家に帰ると、階段の上に僕宛の往復はがきが置かれていた。
姉が出かける前にポストから持って来てくれたようだ。
「何だろう?」
僕は手に取って見た。
おお。珍しい。中学校の同窓会の通知だ。
幹事は、当時クラス委員をしていた櫛名田姫乃さんと須佐昇君だ。
懐かしいなあ。高校が別々になったので、会う機会がない。
家も遠かったし。
櫛名田さんは、中学三年当時、亜希ちゃんと人気を二分する美人で、成績も亜希ちゃんと争っていた。
二人共、地元の進学校に行くと思われていたのだが、亜希ちゃんは行かなかった。
僕のせいだ。今でもそれだけは後ろめたい。
只、その当時は、そんな理由で僕と同じ高校に入学した事を知らなかったから、後で知って驚いた。
須佐君とは、中学の時もあまり話した事がない。
彼も成績優秀で、櫛名田さんと同じ高校に進学した。
二人は付き合っているという噂は、当時からあった。
今でもそうなのだろうか?
携帯が鳴る。亜希ちゃんからだ。
「武君、はがき届いてた?」
「うん。どうしようか?」
「出席しようよ。姫ちゃんとも会いたいし」
亜希ちゃんと櫛名田さんは、ライバルのように言われていたが、とても仲が良かったのだ。
だから、亜希ちゃんが同じ高校に行かない事を知って、櫛名田さんは酷く落ち込んだって聞いた。
だから僕はできれば彼女と顔を合わせたくない。
何となく、気まずいから。そして、心配事がもう一つある。
「武君?」
亜希ちゃんが僕が返事をしないので声をかけて来た。
「す、少し考えさせて。ほら、僕苛められてたからさ、あの頃」
「……」
その当時、僕は酷い苛めに遭っていた。
亜希ちゃんは助けてくれたが、それにも限界がある。
トイレで水をかけられたり、便器に顔を押しつけられたり。
その苛めの内容を知った姉が激怒し、苛めっ子を全員「血祭り」に上げてから、僕は苛められなくなったけど。
只、そいつらは姉を怨んでいて、今でも町であったりすると、必ずその事で絡まれるんだよね。
「わかった。ごめんね、武君、私だけではしゃいじゃって」
「大丈夫だよ。気にしないで」
僕は携帯を切り、溜息を吐いた。
夕食の後、バイトの遅番に出かけようとした時、ちょうど姉が帰って来た。
「お帰り。行って来ます」
「こら、待て!」
襟を掴まれ、僕はそのままキッチンまで連行された。
「姉ちゃん、僕、バイトが……」
焦る僕をそのまま椅子にねじ伏せた姉は、
「同窓会、どうするんだ?」
「あ」
姉の顔を見ると、凄く心配そうだ。
当時の事を良く知る姉は、僕のトラウマが甦りはしないかと心配しているらしい。
「姉ちゃんは、行かない方がいいと思うけど」
姉はまっすぐに僕を見て言う。
「時々、あの連中を見かけるけど、まだつるんでるよ。全然変わってない奴らだ」
姉は今にもスーパー○イヤ人に変身しそうなくらいいきり立っている。
「でも、あいつら、来ないと思うよ、同窓会なんて」
僕は亜希ちゃんの気持ちを考え、出席する方向で考え始めた。
「お前が行きたいなら、姉ちゃんは止めないけど」
姉はスッと立ち上がって立ち去りかけ、
「もし何かあったら、これを吹きなさい。姉ちゃん仮面は例え地球の裏側からでも駆けつけるから」
とホイッスルを渡された。
はあ? 特撮番組の見過ぎだよ、姉ちゃん。
弟の心配を真面目にしてくれているかと思えば、こんなところでふざけるんだから。
まあ、お茶目なところも好きなんだけどね。
僕は亜希ちゃんに連絡し、出席する事を告げた。
「無理しないでね、武君」
「大丈夫だよ。いざとなったら、姉ちゃん仮面が助けてくれるってさ」
「何それ?」
亜希ちゃんは電話の向こうでクスクス笑っていた。
そして同窓会当日。
僕の読み通り、あの苛めっ子達は出席していなかった。
亜希ちゃんと櫛名田さんは凄く嬉しそうに話をしていた。
「あれ?」
須佐君は? ああ、あんなところに一人ぼっちだ。
櫛名田さんとは付き合っていないのかな?
でも、もし別れたのなら、二人で幹事しないだろうし。
どういう事なんだろう?
亜希ちゃんが他の女子と話し始めた。すると櫛名田さんは僕の方に近づいて来た。
「お久しぶりね、磐神君」
櫛名田さんが僕に話しかけて来るなんて思わなかったので、ビックリしてしまった。
「どうしたの?」
「ああ、その、あの当時も、櫛名田さんとはあまり話した事なかったから」
僕の動揺に櫛名田さんはクスッと笑い、
「それは、亜希に遠慮してたからよ」
「は?」
僕はドキッとして思わず須佐君を探す。
ところが、何故か彼はいなくなっていた。
「今、亜希と付き合ってるんですってね」
「あ、うん、そうだよ」
何だ、それを知ってるのなら、そうビクつく事はないか。
「私も立候補しちゃおうかなあ、磐神君の彼女に」
「ええええ!?」
僕は思わず叫んでしまった。周囲の同級生達が一斉に僕を見た。亜希ちゃんも。
「冗談よ。じゃあね」
櫛名田さんは流し目で僕を見たまま、離れて行った。
「どうしたの、武君?」
亜希ちゃんが戻って来た。
「べ、別に何でもないよ」
「そう?」
何となく疑いの眼差しの亜希ちゃん。僕はもの凄く気まずかった。
どうなっちゃうのさ?