その三十一
僕は磐神武彦。高校三年。最近、勉強が面白くなって来た。
中間テストでそれなりにいい結果が出せたおかげで、意欲が湧いて来た。
何よりも、幼馴染でクラスメートで、現在交際中の都坂亜希ちゃんのおかげだ。
彼女とは一生付き合って行きたい。
え? それって、結婚したいって事?
全身が火照る。亜希ちゃんと結婚?
何だか、凄く恥ずかしい気分だ。
「何ニヤついてるのよ、武君?」
その亜希ちゃんに妄想タイムを破られた。
しかも僕はすっかり顔に出していたようだ。
尚更恥ずかしい。
「あ、いや、別に、その……」
僕は相当アタフタした顔だったらしく、亜希ちゃんは軽蔑の眼差しを向けた。
「エッチ」
突然そんな事を言われるとギクッとしてしまう。
「な、何で?」
そう尋ねてから、あっと気づく。
僕はベランダにいたのだ。
ふと校庭を見ると、テニス部女子がユニホームを着て練習していた。
ヒラヒラと舞うスコートが眩しい。
亜希ちゃんは、僕がそれを見てニヤついていると思ったようだ。
「仕方ないよねえ、武君は足フェチだから」
亜希ちゃんはニッとして言う。
「あ、その、何だ、えーと……」
それでも何も言い訳が思いつかない。
誤解だと言えば、火に油なのは、長い付き合いだからわかる。
こういう時は、お世辞を言うしかない。
「でも、亜希ちゃんの全力疾走の方がずっと好きだよ」
「バカ」
亜希ちゃんは真っ赤になってベランダから教室に戻った。
でも嬉しそうだったのはわかった。
取り敢えずうまくいったようで一安心。
そして帰宅部の僕は家路に着く。
亜希ちゃんは最後の大会目指して練習だ。
何もして上げられないけど、必ず応援には行くからと告げた。
亜希ちゃんは凄く喜んでくれた。それを見て僕も感動した。
「只今」
玄関の鍵が開いている。
姉がいる証拠だ。
今日は仕事を早上がりしたのかな?
「おう、お帰り、武!」
また目を疑う光景。
姉は何故かチアリーダーの格好をして、あの「ボンボン」を両手に持っている。
「な、何事、姉ちゃん?」
不思議に思い、尋ねる。
「リッキーの試合の応援に行くのよ、今度の土曜日」
「ふーん」
でも何故その格好? まさかその格好で応援?
恋人の力丸憲太郎さんが可哀相だ。
「あんたも行くよね、応援?」
「え?」
その日は亜希ちゃんの大会がある。
「今日から特訓するの。あんたもする?」
「はあ?」
僕がそんな格好をしたら、頭がおかしいと思われるよ。
「亜希ちゃんにも声かけてよ」
まさか、亜希ちゃんに同じ格好させる気? 見たいけど、それはダメ。
「その日、亜希ちゃんも陸上の大会なんだ」
「あ、そうなんだ」
勘のいい姉は、気づいたらしい。
「そうかあ、あんたもそっちの応援に行くんだ?」
「う、うん」
何となく後ずさりしながら答える。
「何ビビッてるのよ? 姉ちゃんが怒ると思ってるの?」
「うん」
あ、しまった、即答しちゃった。姉は呆れ顔で、
「あんたねえ、姉ちゃんを鬼か何かと思ってるでしょ?」
「そんな事ないよ」
今度はうまく答えられた。
「まあ、いいわ。亜希ちゃんの応援に行くんだったら、強制はできないしね」
僕は姉があっさり引き下がってくれたのでホッとした。
しかし、甘かった。
「でね、姉ちゃん、土曜日は全力でリッキーの応援するから、日曜日はダウンすると思うの」
嫌な予感。姉はパシンと両手を合わせて、片目を瞑る。
「だから、日曜日の朝食当番、お願いね」
予感的中。
それでこそ、姉ちゃん。
などと感心してしまう僕だった。