その二十七
僕は磐神武彦。高校三年。
悲惨だったと思われた中間テストは、
「世界が滅びる!」
とクラスメート達の多くを絶叫させるほど、高得点だった。
「武君は、やればできる子なのよ」
幼馴染で、クラスメートで、僕の救世主である都坂亜希ちゃんが言ってくれた。
英語のテストを返されたあの日、亜希ちゃんから思わぬご褒美をもらい、次の日に国語のテストを返されて、またご褒美をもらって、僕は有頂天になった。
亜希ちゃんのご褒美が連日続いて、もう頭が爆発しそうだった僕は、思い切って亜希ちゃんに尋ねた。
「どうして、あんなご褒美をくれたの?」
と。
「だって、私達、付き合ってるんだよ? 武君て、私の事、嫌いなのって思うくらい、何もしてくれないんだもん」
亜希ちゃんの答えは、また僕を動揺させた。
そうなの? 付き合っていたら、その、えーと、キスとかしていいの?
「女の子にここまで言わせて、武君て、ホント、意地悪ね」
そう言いながらも嬉しそうな亜希ちゃんに、僕は惚れ直してしまった。
そんな感じを引き摺ったまま、僕は家に帰った。
「お帰り」
姉がいた。何故か仁王立ちで出迎えられた。
「な、何、姉ちゃん?」
僕の身体の中のセンサーが作動し、咄嗟に身を引く。
「何よ、それ? 私が噛み付くとでも思ったの?」
いや、殺されると思ったんだよ、とは決して言えない。
「またあんた、隠し事してるでしょ?」
「へ?」
全身から嫌な汗。姉は悪魔のような笑みを浮かべて、
「全部わかってるのよ。観念しなさい」
何、この威圧感? この圧倒的な迫力。怖過ぎる。
「さあ、言いなさい」
「う、うん」
僕は本当にバカ正直だ。亜希ちゃんにご褒美をもらった事を話してしまった。
「……」
姉は何故か目が点になっていた。
「そ、そんな事があったの?」
「ええ?」
ウソ、違うの? 引っかかったのか、僕は? うわあ、参ったなあ……。
「よし、わかった。姉ちゃんもご褒美をあげよう」
「い?」
僕はまた後ずさりした。
「何よ、亜希ちゃんのご褒美はもらえて、姉ちゃんのご褒美はもらえないって言うの?」
いや、普通、姉が弟にそんなご褒美あげないでしょ?
「四の五の言わず、目を瞑りなさい!」
「は、はい!」
僕は恐る恐る目を瞑った。
「行くぞ」
キスをするのにそんなかけ声はないと思う。
何故か、もの凄くドキドキする。まずい。そんな感情はいけないんだ。
「あいででで……」
次の瞬間、僕の唇を衝撃が襲った。
「ギャハハ、この変態め!」
目を開けると姉が大笑いをして僕を指差している。
「グガ……」
ふと見ると、唇に巨大洗濯ばさみが……。
「何するんだよ、姉ちゃんは!?」
僕はすぐさまそれを外し、姉を睨んだ。目に涙を一杯溜めて。
「お前が変態だからだよん」
姉は笑いながらキッチンへと消えた。
確かにそうかも知れない。
姉の冗談に乗った僕は、姉のご褒美を期待したのだ。
反省。