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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学四年編
268/313

その二百六十七

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。大学四年。


 今日は全国的に日曜日で、母の日。


 姉の夫の力丸憲太郎さんのお姉さんである沙久弥さんの提案で、母の日の会が催される事になった。


 総勢九人の「お母さん」につどってもらい、盛大にお祝いをしようというのだ。


 それにしても、沙久弥さん、考える事が大きい。そして、その案にすぐ反応し、開催場所やこまごま々とした手配をしてのけた沙久弥さんの夫の西郷隆さんと憲太郎さんも凄いと思った。


「やっほーい、武彦君!」


 西郷さんの行きつけの料亭の離れを貸し切りにした会場に行くと、西郷さんのお姉さんである三女の依里えりさんと四女の詠美えいみさんが嬉しそうに手を振って出迎えてくれた。


 お二人共、背中が結構出ているパーティドレスを着ている。ドキッとしてしまった。


「どうも」


 僕は隣にいる彼女の都坂みやこざか亜希あきちゃんを気にしながら、会釈を返した。


「こんにちは」


 亜希ちゃんは笑顔で挨拶している。詠美さんと依里さんにはあまりライバル意識がないようだ。余裕すら感じてしまう。


「相変わらず、ラブラブだね、君達は」


 依里さんが若干ではあるが、呆れ顔で呟く。詠美さんがそれを受けて、


「振られた腹いせにそういう事言うの、感心しなよ、依里姉」


 過激な事を言った。僕は亜希ちゃんと顔を見合わせてしまった。


「うっさいわね! あんただって、告る前に撃沈でしょ!?」


 依里さんも負けていない。え?  何、それ? ちょっと怖いんですけど。


「依里、詠美、騒がしいわよ」


 そこへ登場したのは、やはりドレス姿の長女のめぐみさんと次女の翔子さん。依里さんと詠美さんのお姉さんだ。


 こちらのお二人は、お子さんもいるので、そんなに露出の多いドレスではない。


「今日の主役はお母さんよ。怒らせるような事をしないでよ」


 翔子さんが半目で釘を刺した。すると依里さんと詠美さんの顔つきが変わった。


「わかってるわよ。嫌な事言わないでよ、翔子姉」


 依里さんは意気消沈して応じていた。お母さんの輝子さんとは、以前、結婚式でお会いして以来だが、憲太郎さんのお母さんの香弥乃さんと親友で、お互いのお師匠様らしい。


 輝子さんは香弥乃さんの書道の先生、香弥乃さんは輝子さんの合気道の先生。


 香弥乃さんは沙久弥さんにそっくりで、物静かな人だが、輝子さんは豪快な性格で、かなり怖いらしい。


 その話を聞いた姉は、ふと見ると、蝋人形のように固まり、顔を引きつらせている。


 お酒が入ると自制心が壊れてしまう姉だが、今日はその心配すらないように思われた。


「お久しぶりです」


 僕と亜希ちゃんは輝子さん達西郷家の方々に挨拶をした。


「あら、武彦君、すっかり大人っぽくなって。隆の 結婚式の時は、まだ高校生みたいだったけどね」


 輝子さんは恵さんによく似ている。只、お淑やかな感じの恵さんとは違って、着物姿が例えが悪いが、極道の方のような迫力があった。


「ありがとうございます」


 僕は何とか微笑んで頭を下げた。輝子さんは次に亜希ちゃんを見て、


「いやあ、亜希さんもますます綺麗になって。ウチの娘とは比べものにならないわねえ」


 亜希ちゃんは苦笑いをし、


「とんでもないです」


 それしか言えなかったみたいだ。


「武彦お兄ちゃん!」


「武君!」


 そこへ恵さんの娘さんである長女の莉子ちゃんと次女の真子ちゃんが来た。


 僕はギクッとしてしまった。莉子ちゃん、以前より大人っぽくなって、恵さんに似て来ている。


「こんにちは」


「こんにちは」


 すでに美人と言っても差し支えがない。パーティドレスもピンクで可愛い。


 僕は決して、ロリコンではないけど、綺麗だなとは思ってしまった。


 真子ちゃんはドレスではないが、花柄のワンピースを着ている。


 挨拶をした時、チョンとスカートを摘んでみせたのは、誰が教えたのだろうか?


 さすがに今日は暴走はしないらしいので、ホッとした。


 次に僕達は力丸家の皆さんに挨拶した。


「お久しぶりです」


 並んでいると姉妹にしか見えない香弥乃さんと沙久弥さん。お二人共、着物姿だから、余計見分けがつきにくい。


 沙久弥さんが長男の隆久君を抱いているから、遠目で見ても区別がつく感じだ。


「今日はこんな席を設けてくれて、ありがとう」


 香弥乃さんにお礼を言われてしまった。


「あ、いえ、僕は何も……」


 そんな事を言われて、ある事に思い至った。


 次に母方の祖母と叔父夫婦がいるところに向かいながら、


「お会計って、どうするんだろう?」


 亜希ちゃんに小声で尋ねてみた。すると亜希ちゃんはチラッと西郷さんを見て、


「言い出したのはウチだからって、西郷さんが全部出してくれるそうなの。申し訳ないわね」


「え、そうなの?」


 僕はびっくりして西郷さんを見た。その時、着物で合わせた我が母と亜希ちゃんのお母さんが一緒に中に入って来た。


「亜希と武彦君にお祝いしてもらって以来ね、これほど大勢で集まるのって」


 亜希ちゃんのお母さんの瑠美子さんは凄く嬉しそうだ。母が僕に小声で、


「西郷さんがお会計を全部出すって聞いたけど、後であんたも出しなさいよ。いくら何でも気が引けるから」


「もちろん、そう思っているよ」


 僕は亜希ちゃんと目配せし合って頷いた。


 その後、着物姿の母方の祖母と叔父夫婦が入って来た。叔母も着物だ。


「武彦、今日はありがとうね」


 祖母は既に涙ぐんでいた。僕は話が長くなると思ったので、微笑んで応じた。


「俺達なんかが参加していいのか、武彦?」


 叔父さんは周囲を見渡しながら耳打ちして来た。僕は苦笑いして、


「豊叔父さんが遠慮したら、叔母さんに悪いですよ。それから、お祖母ばあちゃんにもね」


「そ、そうだな」


 叔父さんは叔母さんと微笑み合って頷いてくれた。


 更にそこへ、着物姿の父方の祖母と黒のワンピースの伯母である依子よりこさん、それから、アイボリーホワイトのパーティドレスの従姉の未実さんが入って来た。


「今日はありがとう、武彦」


「武彦君、ありがとう」


 祖母と依子伯母さんに揃ってお礼を言われ、何となく照れ臭くなった。


「美鈴さん、お久しぶりです」


 僕達と挨拶をすませた未実さんは、硬直している姉に話しかけている。


 姉は顔を引きつらせたままで、未実さんと話していた。


「遅くなりました」


 そこへ未実さんのお兄さんである須美雄さん夫妻が来た。奥さんは黒のワンピースだ。


 未実さんの顔が更に嬉しそうになった。


「お兄ちゃん!」


 未実さんはニコニコして須美雄さんに駆け寄った。


「 未実、元気そうだね」


「うん!」


 まるで子供のように笑顔満開で応じる未実さん。須美雄さんの奥さんには初めてお会いするので、挨拶をした。


 大人しそうで、控え目な人だ。未実さんが須美雄さんにベタベタしても、全く嫉妬している様子がない。


 かと言って、須美雄さんとは冷めてしまっているという訳でもなさそうだ。


 理解が深いところでできている人なんだろうな。


 こうして、勢揃いした「お母さん」達とその家族は、立食というスタイルで食事をし、歓談した。


 しばらく、笑い声が続いた頃、西郷さんが一段高くなっている演壇の上に上がった。


「本日はお忙しい中、私達の我が儘をお聞き届けくださってお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 西郷さんの挨拶に一同が西郷さんを見た。西郷さんは一瞬怯んだように見えたが、


「私達がこの世に生を受けたのは、お母さん達がいらしたからです。その事をより心の中に強く刻み込むためにこの会を催しました」


 涙脆い母と祖母と亜希ちゃんのお母さんはもう泣いている。香弥乃さんと輝子さんは目を潤ませていた。


 磐神の祖母と依子伯母さんは涙ぐみながらお互いを見ている。


 叔父夫婦も互いを見ていた。須美雄さん夫妻もだ。未実さんは少し不満そうな顔でお兄さんを見ている。


 依里さんと詠美さんはお酒のせいなのか、号泣していた。


 姉も憲太郎さんに慰められ、泣いている。沙久弥さんは目を潤ませていたが、涙は零していない。


 恵さんと翔子さんは真剣な表情で西郷さんを見ている。涙をこらえているようだ。


 莉子ちゃんと真子ちゃんは疲れて部屋の隅のソファで眠っていた。


 隣の亜希ちゃんも目をウルウルさせている。可愛過ぎて、ドキドキしてしまった。


「ここにいる方々は、いずれ全員、親戚になります。こうして集まっていただいたのも、そんな縁を感じて欲しかったからもありました」


 西郷さんも感極まって来たのか、涙ぐんでいる。それを見て、僕も泣きそうになった。


「このご縁がいつまでも続く事を願って、ご挨拶を終わらせていただきます。宴はまだ続きますので、お楽しみください。本日はありがとうございました!」


 拍手が沸いた。いい挨拶でした、西郷さん。


 僕はきっとこの日を忘れないだろう。亜希ちゃんと微笑み合い、そう思った。

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