その二十三
僕は磐神武彦。高校三年。
幼馴染の都坂亜希ちゃんと交際を始めて数ヶ月……。
何だか知らないけど、今日は妙に亜希ちゃんのテンションが高い。
っていうか、ご機嫌なのだ。どうしたのだろう?
訊きたいんだけど、怒られそうだし。
今日もそんな亜希ちゃんと映画を観に行った。
そしてその帰り道。僕の視線に気づいたのか、
「何、武君?」
眩しいくらいの笑顔で僕を見る亜希ちゃん。うう、ますます訊き辛いよお。
「な、何でもない」
「何でもないって言う時は、何かある時なの! 何?」
急に怖くなる。でも、不満そうに膨れさせたほっぺがまた可愛い。
バカだな、僕って。つい、顔が緩む。
「何よ、ニヤニヤして! 気持ち悪いな」
そう言われるとギクッとしてしまう。
「亜希ちゃんが凄く機嫌がいいから、何があったんだろうって思っただけだよ」
僕は頭を掻きながら答えた。亜希ちゃんはキッと僕を睨み、
「その言い方、私がいつも機嫌が悪いみたいじゃない?」
「え、そんなつもりは……」
慌てて言い訳をすると、満面の笑顔になった亜希ちゃんが、
「そうよ、いい事があったの」
「え? どんな事?」
僕は興味津々で尋ねた。ところが、
「武君には教えなーい」
とあっさり言われてしまった。
「えええ? そんなあ。教えてよ、亜希ちゃん」
僕はいつになく気になり、しつこくお願いしたが、亜希ちゃんはニコニコするばかりで、とうとう教えてもらえなかった。
「おっかえりー」
玄関を開けると、そこに姉がいて、笑顔で迎えられた。
何? もしかして、壮大なドッキリ? 疑い深くなりそうだ。
「どうした、デートは? うまくいったのか?」
「う、うん」
「そうかそうか、頑張れよ」
いつもなら、デートから帰ると機嫌が悪い姉が恐ろしいほど上機嫌なのは、この世の終わりが近いからなのかと思った。
「ねえ」
思い切って訊いてみる。
「何?」
普段なら、
「何だよ!?」
と睨まれそうな状況だが、姉は笑顔のままだ。
「何かいい事あったの?」
「べっつにィ」
姉は、あの女優の真似でもないのだろうけど、ニヤニヤして言い放つ。
「ああ、そうだ」
立ち去りながら姉は急に振り返る。
ドキッとする僕。遂にドッキリのネタばらし?
「姉ちゃんは、お前が亜希ちゃんと別れても、亜希ちゃんとは友達でいるからな。覚悟しとけよ」
「???」
僕はそう言って去って行く姉を、只呆然と見送るだけだった。
それって、
「絶対に別れるなよ! 別れたら二人で懲らしめるからな!」
って意味? 怖過ぎて理由を訊けない。