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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
23/313

その二十二(姉)

 私は磐神いわがみ美鈴みすず。大学三年。彼氏あり、同学年。すでに婚約済み(ムフ)。


 そしてヘタレな弟あり。これが実に厄介者だ。


 


 人生順風満帆、という感じの私。何も問題なしと思いたいのだが、愚弟武彦が気になる。


 あいつ、本当に大丈夫なのだろうか? 


 そんな事を考えながら街を歩いていると、


「お姉さん」


と声をかけられた。


 え? 誰? などとボケる事もない。私を「お姉さん」などと呼ぶのは、この世で只一人。


「あら、亜希ちゃん。久しぶりね」


「今日は」


 そう、愚弟には過ぎたる彼女、都坂みやこざか亜希あきちゃんだ。


 ホント、彼女は武彦のどこがいいのか……。


 美人で聡明で、その上性格が良く、高校では人気ナンバーワンの子なのに。


 私と同じで、変わり者? そんな事ないか。


「今日はお一人なんですね」


「貴女もそうみたいね」


 互いにぎこちなく微笑み合う。まだ「小姑こじゅうと」になったつもりはないのだが。


 でも、亜希ちゃんは私の事を良く知っているから、私が怖いのかも知れない。


「あの、どこかでお茶しませんか? こんな機会、滅多にないでしょうから」


「そ、そうね」


 何で私がビビるのよ!? オタオタしている自分にイラつく。


 私達は、近くにあった喫茶店に入った。


「今日はどうしたの? あのバカ、また追試?」


 私は注文をすませると、わずかしかない共通の話題である愚弟の事を持ち出した。


「まさか。まだ新学期が始まったばかりですよ、お姉さん」


 亜希ちゃんはニコッとして応じた。


「それもそうね。あいつ、どうしてるの?」


「珍しく、友達と出かけてます。私は置いてきぼりです」


 そう言いながらも、亜希ちゃんは全然怒っている様子がない。


 もし、私の彼であるリッキーが私を置いて友達と出かけたら、つけてしまいそう。


 我ながら情けない。


「たまには離れて行動しようって、私が提案したんです。だから、寂しいけど我慢してます」


 ああ、何て健気な……。リッキーに聞かれたら、亜希ちゃんに乗り換えられそうだ。


「それで、私も誰かを誘って出かけようと思ったんですけど、女子達はみんな冷たくて、彼優先なんですよ」


 それが普通よ、亜希ちゃん。貴女は多分、武彦が絶対に自分を裏切らないって信じているから、解放する余裕が持てるのよ。


 一般女子には、そんな器量はないかもね。私も自信がない。


「お姉さんこそ、どうして今日は憲太郎さんと別行動なんですか?」


 う。その事に触れて来ますか、亜希ちゃん。


 そこに注文したコーヒーと紅茶をウエイトレスが持って来た。


「あ、ごめんなさい。立ち入った事を訊いてしまいましたか?」


 亜希ちゃんは瞬時に私の顔色を読んだようだ。


 私は慌てて否定する。


「別に何かあった訳じゃないから、気にしないで。今日は彼、試合なのよ」


「応援に行かないんですか?」


 亜希ちゃんは当然の事を尋ねて来る。私はコーヒーカップを持ち、


「九州までは行けないかな?」


と答えてから一口飲む。


「そうなんですか」


 ああ、でも可愛いな、この子。こんな子なら、仲良くやって行けそう。


 だーかーら、まだ小姑になるのは早いっつうの!


 つくづく愚弟(あいつ)には勿体ない。亜希ちゃんは紅茶を一口飲み、


「でも、少しだけ安心しました」


「えっ?」

 

 突然謎の言葉を発する亜希ちゃん。何の事?


「武君、お姉さんには何も言わずに出かけたんですね」


「ああ、そう言えば……」


 朝、顔を合わせたのに、あいつ何も言わなかったな。


 それをどうして亜希ちゃんが安心するの?


「武君たら、何でもお姉さんに報告している自分が情けないって、この前嘆いていたんです」


「そうなの」


 そんな事で嘆くなよ。こっちが情けなくなる。


「だから、今度はお姉さんには何も言わずに出かけてみたらって……」


 そこまで言って、亜希ちゃんは「あっ」と小さく叫び、


「ご、ごめんなさい、武君に変な事をけしかけてしまって」


「ううん、いいのよ。気にしないで。私も最近、あいつにはうんざりしてるんだから」


 私がそう言うと、亜希ちゃんはクスッと笑い、


「ホントですか?」


と面白そうに言う。うう。信じてないな!


「ホントよ。どうしてあいつ、一人で決められないのかなって、前から不安だったのよ。亜希ちゃんがビシビシしごいてよ」


「無理ですよ」


 亜希ちゃんは嬉しそうに首を横に振る。


「それはお姉さんがして下さい。私には荷が重いです」


「そう?」


 私もニヤニヤしてしまった。


 何だかんだ言って、私と亜希ちゃんの話題は武彦の事しかないんだなと思うと、おかしくなってしまった。


「これからも宜しくお願いします、お姉さん」


「こちらこそ」


 礼儀正しい子だ。武彦も見倣って欲しい。


「それから」


 亜希ちゃんは悪戯っぽく笑い、


「『お姉さん』をいっぱい言いましたけど、気になりませんでしたか?」


 そうか、意識的に言っていたのか。前は「美鈴さん」も混ざっていたもんな。


 試されていたのか、私は?


「全然。こんな可愛い妹にそう呼ばれるの、とってもいい気分よ」


 亜希ちゃんは真っ赤になった。あら、可愛い事。


「そんな、妹だなんて、まだ私と武君は結婚するかどうかわかりませんよ」


「あら、亜希ちゃんはそのつもりはないの?」


 つい、意地悪く訊いてしまう。


「私は、そうなりたいですけど……」

 

 亜希ちゃんは火照る顔を扇ぎながら言う。


「なら何も問題ない。あいつには亜希ちゃんを拒否する権利はないから」


 私が力強く宣言すると、亜希ちゃんはクスクス笑った。




 私達はしばらく武彦の話題で盛り上がって、喫茶店を出た。支払いは私がした。亜希ちゃんは自分の分を出そうとしたけど、


「それは次にして」


と押し切ったのだ。


 何か、勝てないなあ。もう、武彦は私から離れて行くのだろうな。


 良かったな、武彦、いい子がそばにいて。


 あんないい子、二度と巡り会えないから、絶対に逃がすんじゃないぞ。


 逃がしたりしたら、姉ちゃんが許さないからな。

 

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