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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学三年編
228/313

その二百二十七(姉)

 私は力丸りきまる美鈴みすず。新婚真っ只中。


 いろいろあった挙式だったが、今ではもう落ち着いて思い出せるくらいには吹っ切れている。


 亡き父の兄の奥さんの依子よりこさんの意地悪も、そんな母親から産まれたとは信じ難いくらいの人格者である須美雄さんに全面的にお任せしたから、もう心配要らない。


 そう言えば、愚弟の武彦に須美雄さんの話をした時、あいつは怪訝そうな顔をしていた。


 私と母が、須美雄さんがあまりにも父に似ていたので、すっかり見とれてしまった事は奴には最高機密として話さなかったのだが。


 私の話に何か不自然な部分があったのだろうか?


 まあ、仮にあったとしても、あいつはそれを訊いて来られる程の度胸はないから大丈夫だろう。


 それから、この前新規の契約が取れたのがあまりに嬉しかったので、ついあいつのバイト先に行ってしまった。


 取引先の方に気に入られて、三軒も梯子してしまったせいで、あいつに会った時は、泥酔一歩手前だった。


 あまり酷い事はしていないとは思うんだけど、目が覚めたらマンションにいたので、まずいと思った。


 案の定、夫の憲太郎君にきっちり説教されてしまった。


「いくら仕事がうまくいったからといって、武彦君を巻き込んだらダメだよ、美鈴」


 正論を言う憲太郎君に私は全く反論できなかった。


「今度の食事会で武彦君に会ったら、きちんと謝らないといけないよ」


「はい……」


 ちょっと落ち込んでしまった。武彦に悪いと思ったのと、憲太郎君に心配をかけてしまったのとで、我ながら酒を少し控えないといけないと思った。




 そして、今日はその食事会当日。


 今回は経済学部の巨乳ちゃんこと、長須根ながすね美歌みかさんとその彼の間島ましままこと君も参加する。


 憲太郎君は決して所謂「おっぱい星人」ではないけど、長須根さんのは超弩級なので、少しだけ心配だ。


 場所を決めてくれたのは、武彦の彼女の都坂みやこざか亜希あきちゃん。


 彼女も長須根さんを警戒する一人。


 何だかんだ言っても、男は巨乳が好きだから。


 それから、亜希ちゃんからの情報では、間島君はかなりのシスコンで、自分のお姉さんの事を大好きと言ってしまえるほどらしい。


 そんな子だから、亜希ちゃんにも興味があるし、私にも興味があるらしい。


 だから、私も亜希ちゃんも長須根さんに警戒されているかも知れない。


 食事会の場所はイタリアンレストラン。


 チェーン店ではなく、そこそこ高級なお店だ。


 但し、亜希ちゃんはともかく、愚弟も長須根さんと間島君も学生の身だから、あまり高い店では困るので、価格はリーズナブルなところだ。


 さすが亜希ちゃん、愚弟の彼女にしておくにはもったないくらいだ。


「初めまして」


「久しぶりです」


「この間はどうも」


 さまざまな挨拶が交わされた。ふと憲太郎君を横目で見ると、やはり長須根さんの胸には驚いているようだった。私がいるから、凝視はしなかったけど。


「磐神先輩のお姉さんの旦那さん、かっこいいですね」


 亜希ちゃんに長須根さんが小声でそう言っているのが聞こえ、なんとなく嬉しくなった。


「雰囲気が違うので、最初はわからなかったけど、長須根さんは姉貴の道場に来ているよね?」


 憲太郎君が長須根さんに声をかけた。ああ、そうか。そう言えば、長須根さん、憲太郎君のお姉さんの沙久弥さんの道場に通っているって、武彦が言ってたっけ。


「え、あ、はい」


 長須根さんは憲太郎君に話しかけられて、顔を赤くしていた。相変わらず純情な子だ。


 亜希ちゃんは間島君に話しかけられていて、武彦が手持ち無沙汰そうだったので、


「武君」


 背後から忍び寄ると、奴は飛び上がりそうになった。


「この前はごめんね。憲太郎に叱られちゃった」


「いいよ、別に。その代わり、僕が酔い潰れたら、姉ちゃんもちゃんと送り届けてよ」


 武彦は照れ臭そうな顔をして言った。


「もちろんよ、武君」


 久しぶりに亜希ちゃんの物真似をしてみたが、


「はいはい」


 適当にあしらわれてしまった。ムカつく!


 そして、食事タイム。コース料理なので、まずは前菜が運ばれて来た。


 憲太郎君と長須根さんは沙久弥さんという共通の話題があるせいか、頻繁に話している。


 私も間島君に相談された。


 彼には三つ年上のお姉さんがいるそうで、もうすぐ結婚するらしい。


 とても寂しいと言っていた。何だか本当に可愛くなってしまう。


 愚弟に見倣って欲しいくらいだ。


「でもね、間島君、君には長須根さんがいるんだから、そろそろお姉さんから離れないとね」


 私は微笑んで諭すように言った。すると間島君はニヤリとして、


「そういう美鈴さんこそ、磐神さんから離れないと、旦那さんが可哀想ですよ」


 そんな事を返されてしまった。顔が火照るのがわかる。


 思わず武彦を見てしまった。奴は相変わらずデレッとした顔で亜希ちゃんと話していた。


「あはは、何言ってるのよ、間島君。離れないのは武彦の方だよ」


 慌てて言い繕ったが、間島君は、


「姉が大好きな僕にはわかるんですよ。姉も僕を大好きだって。だから、そんな事を言って誤摩化しても無駄ですよ」


 私の負けだった。恐るべし、ハイレベルなシスコン。何でもお見通しだなあ。


「それから、僕はシスコンですけど、美歌はブラコンですから、気をつけてくださいね」


 意味ありげに長須根さんと話す憲太郎君を見た。ドキッとしてしまった。


「誠、私の悪口話してるでしょ?」


 長須根さんが割り込むように会話に加わって来た。間島君はビクッとして、


「そんな事ないよ、美歌。誤解だって。ねえ、美鈴さん?」


 私に救いを求めて来た。私は微笑んで長須根さんを見ると、


「長須根さんが夫を狙っているから、気をつけてって言われたわ」


「ええ!?」


 長須根さんと間島君が見事なハモりで叫んだので、憲太郎君はもちろんの事、武彦と亜希ちゃんも驚いて二人を見た。


 私はそのリアクションを見て思わず笑ってしまった。


「冗談よ。ごめんなさい」


 笑いが止まらない私を唖然として見ている長須根さんと間島君。そして、呆れて腕組みをする憲太郎君。


 武彦はポカンとしていて、亜希ちゃんは何があったのか長須根さんに尋ねていた。


 間島君のお姉さん、ちょっと会ってみたくなったな。私に似ているような気がするから。

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