その二十一
僕は磐神武彦。高校三年に何とかなれた。
交際中の幼馴染である都坂亜希ちゃんとは順調。
でも最近、姉とはぎこちなくなっている。
この前、
「もう技の練習台を頼んだりしないから」
と言われ、ちょっとびっくりした。
婚約者の力丸憲太郎さんに叱られたんだとか。
憲太郎さんに僕を練習台にしている事を話したのか。
それは憲太郎さんに叱られるよ。
知らない人が見たら、凄い事してるって思われるもん。
僕だって、姉に技かけられてるのを亜希ちゃんには見られたくないし。
絶対誤解されるから。
僕と姉は、そんなおかしな関係じゃないけど、そういう風に思う人はいるようだし。
「姉萌え」とか「妹萌え」とか、そんな言葉も流行っているらしい。
そんな誤解を受けるのも、姉が美人だからだ。
以前はよく二人で買い物に出かけた。友達に会うと、
「誰? 彼女?」
とか聞かれて、その頃は自慢の姉だったのだ。
姉が憲太郎さんと付き合うようになって、二人きりで出かけるのは僕の方で遠慮した。
最初は不思議がっていた姉も、やがて僕の気持ちに気づいてくれて、誘わなくなった。
僕も亜希ちゃんと付き合うようになってからは、尚の事意識している。
姉とは言え、異性なのだ。知らない人は誤解する。
お互いのためにも、距離を置くべきだ。
そうは思う。
思うけれど、姉に頼り、姉を慕い、姉を追いかけて生きて来た僕には、そんな簡単に割り切れる事ではない。
だから、
「練習台頼まないから」
と言われた時はショックだった。
「もうお前の事嫌いになったから」
そう言われたような気さえした。
「おはよう」
今日は珍しく姉が遅く起きて来た。
母はすでに出勤。
「おはよう」
僕は顔を見ないで答えた。
「武彦」
ギクッとする。姉はその時の機嫌で、僕の呼び方が変わる。
「武!」
機嫌が悪い時。
「武くーん」
何か頼みたい時。
「武彦」
この呼びかけの時が、一番ドキドキする。姉の感情が読めないからだ。
「な、何、姉ちゃん?」
僕はビクビクして姉を見た。
「何よ、その顔? 姉ちゃんてさ、そんなに怖い?」
「うん」
あ、しまった、ストレート過ぎた。しかし姉はクスッと笑い、
「お前さ、もう少し遠慮して言いなよ。直球過ぎるぞ」
「ごめん」
怒らない姉は何となく一番怖い。
「この前はごめんね。おかしな事言って」
「え? どの事?」
いろいろ思い当たり過ぎて、僕は本当にわからなかったので尋ねた。
「練習台の事。何かあんた、残念そうだったから、気になっちゃってさ」
げ。そんな風に思われてたのか。
「だから、たまに練習台にならせてあげる」
「はあ?」
何だよ、その上から目線? どういう事?
「それだけ。じゃ、姉ちゃん、出かけるから」
「……」
僕は唖然として姉を見送る。
「ついて来ちゃダメだぞ」
姉は急に振り返り、そんな捨てゼリフを言った。
ついて行かないって。
今はね。