その二百十七(亜希)
私は都坂亜希。大学三年。
先日、私の彼の磐神武彦君の亡くなったお父さんの実家の事で、あれこれあり、武君始めお姉さんの美鈴さん、お母さんの珠世さんも大わらわだった。
そして、一息つけた時、同じ大学の経済学部に通う長須根美歌さんから連絡があり、ダブルデートをする事にした。
行き先は遊園地。一緒に楽しむ事も、別行動もできる場所だからだ。
私と長須根さんは、遊園地に行くまでいろいろとお喋りしたのだが、武君と長須根さんの彼の間島誠君はほとんど話していない。
武君は初対面の人と話すのが苦手。間島君もそうなのかな? 本当は何度か顔を合わせているのだけれど、二人で話した事はないから、話題がないのかな? 二人はちょっと似ているような気がする。
そして、目的地に到着した。
メリーゴーラウンドには、それぞれカップルに別れて乗った。
四人でいると、私と長須根さんばかり話してしまうので、そうしてみたのだ。
案の定、間島君は長須根さんとだと笑顔が出て、よく喋っていたようだ。
それに反して、武君は私と二人になっても口数が少ない。
「最近、亜希は磐神君に圧力かけ過ぎなんじゃない?」
先日、久しぶりに会った親友の須佐姫乃ちゃんに言われた。そうなのかなあ?
そんなつもりは全然ないんだけど。武君に訊いても、何でもないって言うのは目に見えているし。
長須根さんに相談してみようかな? 似た者彼氏と付き合っているから、何かヒントを得られるかも知れない。
そこで、お手洗いに行った時、長須根さんに提案してみた。
「武彦と間島君、何だか距離がある感じだから、ちょっと二人きりにしてみない?」
すると長須根さんもそう思っていたのか、
「そうですね。間島君、人見知りするのですけど、磐神先輩になら、打ち解けられると思います」
すぐに賛成してくれた。第一段階はこれでクリアだ。
ホラー系のアトラクションを出たところで、小休止する事にした。
「アイスクリーム食べよっか?」
長須根さんを誘ってその場を離れ、武君と間島君を自然に二人きりにする事に成功した。
そして、アイスクリームのお店を目指しながら、私は長須根さんに本題を切り出した。
長須根さんは少し驚いていたようだが、
「都坂先輩の考え過ぎだと思いますよ。コンビニで一緒に働いている時も、先輩の話題は都坂先輩の事ばかりですし」
そんな事を言われるとは思っていなかったので、顔が火照った。
「私も、間島君とそんな関係になりたいなって思いました」
長須根さんも顔を赤らめて言った。そして、
「それに、間島君にも、三つ年上の綺麗なお姉さんがいるんですよ。もう、嫉妬してしまうくらい仲がいいんです」
「ええ?」
それはちょっと驚き。武君と間島君に何か似たような雰囲気は感じたけど、そこだったとは思わなかった。
「だから、磐神先輩となら、間島君も共通の話題ができて、話が弾むのではないかと思ったんです」
長須根さんは心中複雑そうな笑顔で言い添えた。何だか長須根さんが一気に身近に感じられる。
武君と打ち解けられるのは嬉しいのだろうけど、その話題がお姉さんだというのが少し引っかかるのかも知れない。
「長須根さんの気持ち、よくわかるわ」
溜息が出てしまう程彼女の心の内が理解できた。
「間島君のお姉さんの誕生日が来週の土曜日なんです。それで、何をプレゼントしたら喜ぶかなんて訊くんですよ」
長須根さんは可愛くほっぺを膨らませて言う。ますます共感してしまう。
「だから、磐神先輩に訊けばって言ったんです。そしたら、ダブルデートしようって言い出して……」
長須根さんは悲しそうな顔になった。お姉さんのためにダブルデートなのか。
それは彼女としては、いたたまれないわね。それもよくわかる。
「それから、これは私の思い過ごしかも知れないんですけど、間島君、都坂先輩に憧れているみたいで……」
「ええ!?」
それも驚いた。そう言えば、間島君は武君とはほとんど話さなかったけど、私には時々話しかけていた。
何だかちょっと複雑だ。
「多分、間島君は年上の女性とは普通に話せるんですよ。お姉さんがいるから。大学が違うとそういうところがちょっと心配なんです」
「なるほどね……」
私は苦笑いをするしかなかった。それにしても、間島君のお姉さん、美鈴さんとお誕生日も近いのね。
奇遇なんていうレベルじゃない程だ。
「そろそろ戻ってみましょうか。打ち解けた頃でしょ?」
アイスクリームを買い、私達は武君達のところに戻った。
すると、思っていた以上に二人のシスコンはにこやかに話していた。
長須根さんもそうだろうが、私も複雑な感情が湧いて来た。
「気持ち悪いな、二人共。男同士で何ニヤけてるのよ」
少し嫌味を加えて言ってみる。するとこっちが驚くくらい武君と間島君は狼狽えた。
「男子がニヤニヤしているのは、エッチな事を話していた時だって聞いた事があります」
長須根さんは少しだけムッとしているようだ。間島君が更にビクッとした。
「エッチな事なんか話してないよね、間島君?」
武君が慌てて言った。
「ええ、してませんよね、先輩」
間島君は顔を引きつらせて応じている。
「ま、信じてあげましょうか」
長須根さんと頷き合って、シスコンコンビを許す事にした。
長須根さんとはこれからも密に連絡を取り合おうと思った。




