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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
21/313

その二十(姉)

 私は磐神いわがみ美鈴みすず。大学三年。かっこいい彼氏あり、ヘタレな弟あり。


 この前、調子に乗って愚弟武彦に柔道の技をかけたら、あいつ、ビビッたのか、私の顔を見ると逃げる。


 やり過ぎたかな。そんなに強く締めたつもりはないんだけど。


 でもそこまで怖がられると、ちょっとムカつく。


 私は怪獣か!? 


 確かに小学生の頃は、武彦やつの同級生共に、


「モンスターだ!」


と呼ばれて、恐れられていたけどね。


 あまりにも武彦が私を避けるので、心配になってダーリンに相談してみた。


 ダーリンは力丸憲太郎。柔道の天才で、連勝記録驀進中なの。


「うーん」


 何故か困った顔をするリッキー。どうしたの?


「あのさ、美鈴」


「何?」


 リッキーの顔は真剣そのものなので、私はドキドキして尋ねた。


「いくら武彦君が弟でも、それはちょっとまずいよ」


「え? やり過ぎ?」


 私はキョトンとしてしまった。リッキーは溜息を吐いて、


「その技はダメだよ。美鈴はそんなつもりはないんだろうけど、武彦君は動揺していると思うよ」


「ええ? どうしてよ?」


 私は意味がわからなかった。


「わからないかなあ。腕ひしぎ十字固めは身体が密着するだろ?」


「ええ」


 まだわからない。何が言いたいの?


「しかも、相手の腕を股に挟むんだよ? 美鈴は武彦君を異性だなんて思っていないだろうけど、武彦君はそうじゃないと思うんだ」


「ええええええ!?」


 私はギクッとした。あいつが私を「女」として見ているって言うの、リッキー?


「だから、美鈴を避けているんだと思うよ」


「そうなんだ……」


 私は凹んでしまった。そっか、あいつ、「男」なんだ……。


「でもさあ、今までだっていっぱい技かけてたよ。それなのにどうして急に……?」


 それでも理解ができないので、さらにリッキーに尋ねた。


「今は武彦君には亜希さんていう彼女がいるだろ? だから、美鈴に対する意識が変わったんだと思うよ」


「亜希ちゃんに悪いって思うから?」


「そう」


 リッキーは完全に私の「能天気」に呆れているようだ。


 さらに凹む。


「そんなに落ち込まないで、美鈴。別に悪い事してた訳じゃないんだから」


「うん」


 でも気が晴れない。今度は私が武彦を意識してしまいそうだ。


「まあ、それだけ仲が良いって事だよ」


 リッキーの慰めの言葉も、私の心に響かなかった。


 


 私は家に帰った。武彦もいるようだ。


 あいつの部屋の前に立ち、ドアをノックした。


「誰?」


 武彦の声がした。


「姉ちゃん」


「何だ、脅かさないでよ」


 武彦はドアを開いて顔を出した。


「何? いつもはノックなんてしないのに」


 ああ。そうか、私って凄く失礼な女なんだ。今気づいた。


「この前の事、ごめん。リッキーに叱られちゃった」


 武彦は何の事かわからないらしい。


「もう技の練習台を頼んだりしないから」


「ああ、そうなんだ」


 あれ? 


 拍子抜けした。てっきりホッとすると思ったのに、何でこいつ残念そうな顔してるのよ?


「別に僕は練習台になってもいいけど、姉ちゃんがそう言うなら、それでいいよ」


「あ、そう」


 武彦はドアを閉じた。


 あいつ、やっぱり……。


 でも、ちょっぴり嬉しい私もいけない「姉ちゃん」だよなあ。

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