その十九
僕は磐神武彦。
とうとう高校三年。受験生だ。いや、受験できるか、微妙だけど。
一年の時も、二年の時も、留年しかけたし。
運良く今年も幼馴染で、現在交際中の都坂亜希ちゃんと同じクラスになれた。
「今年もよろしくね、武君」
亜希ちゃんが笑顔全開で言ってくれた。可愛いよなあ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕は深々とお辞儀をした。亜希ちゃんは、
「大袈裟ね。それって、他人行儀よ、武君」
「そうかな?」
亜希ちゃんに指摘され、そうかと思う僕。
友人に言われた事を思い出す。
「お前、将来絶対尻に敷かれるぞ」
でも別に気にならない。世の中、「草食系男子」とかが話題になっているけど、僕はその最先端を自認しているから。
何しろウチには、最先端の「肉食系女子」である姉がいるし。
かと言って、亜希ちゃんが「肉食系」だという訳ではない。
彼女は姉と違って暴力に訴えて従わせたりしないから。
あれ?
でもそれって、ある意味では暴力より怖いのかな?
まあいいや。僕は平気だから。
今日は亜希ちゃんは部活で帰りが遅い。新入生の入部希望者がたくさんいるのだ。
帰宅部の僕は、寂しく一人で下校した。
「只今」
母はまだ仕事から帰っていないが、今日は姉がいる。
大学は始まっているけど、今日は講義がないとか言っていたから。
「おっかえり、武!」
いきなり後ろから羽交い絞めにされる。
姉は柔道着姿だ。もしかして、やる気満々なの?
「わ、姉ちゃん、何するんだよ?」
僕は慌てて振り解こうとするが、バカ力の姉には敵わない。
「ちょっと練習させて。新しい技を研究中なのよ」
姉は婚約者の力丸憲太郎さんには柔道を教わり、サークルでプロレス研究会に所属している。
だから技に無駄に詳しくて、僕はいつもその被害者だ。
「ぐえええ!」
「大袈裟だよ、武! そんなに強く締めてないでしょ!」
「痛いよ、姉ちゃん! やめてよ!」
僕は涙目で叫んだが、姉は解放してくれない。
「こうして、こう!」
「いだだだ!」
今自分の身体がどうなっているのかよくわからないが、僕の顔は姉の太腿の間に挟まれていた。
「フゴ」
チラッと横を見ると、姉の股間がすぐそばにある。スカートじゃなくて良かった……。
たまにスカート履いてても技かけてくるからなあ。
「おりゃ!」
「ぎえええ!」
わわわ、何だ?
「いでええええ!」
「これが腕ひしぎ十字固め!」
今度は腕を捻られる。姉の太腿が顔の上にあり、僕の腕は姉の股間に挟まれて……。
「はい、おしまい。ありがと、武」
チュッとほっぺにされた。僕は思わず赤面する。
「また練習台になってね」
ニコッとして立ち去る姉。呆然と見送る僕。
「……」
痛いけど、何となく断われない。
キスされたほっぺを撫でる。
姉ちゃん、僕をどうしたいのさ?
そう尋ねたかった。