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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
高校三年編
20/313

その十九

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ


 とうとう高校三年。受験生だ。いや、受験できるか、微妙だけど。


 一年の時も、二年の時も、留年しかけたし。


 運良く今年も幼馴染で、現在交際中の都坂みやこざか亜希あきちゃんと同じクラスになれた。


「今年もよろしくね、武君」


 亜希ちゃんが笑顔全開で言ってくれた。可愛いよなあ。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 僕は深々とお辞儀をした。亜希ちゃんは、


「大袈裟ね。それって、他人行儀よ、武君」


「そうかな?」


 亜希ちゃんに指摘され、そうかと思う僕。


 友人に言われた事を思い出す。


「お前、将来絶対尻に敷かれるぞ」


 でも別に気にならない。世の中、「草食系男子」とかが話題になっているけど、僕はその最先端を自認しているから。


 何しろウチには、最先端の「肉食系女子」である姉がいるし。


 かと言って、亜希ちゃんが「肉食系」だという訳ではない。


 彼女は姉と違って暴力に訴えて従わせたりしないから。


 あれ? 


 でもそれって、ある意味では暴力より怖いのかな?


 まあいいや。僕は平気だから。


 今日は亜希ちゃんは部活で帰りが遅い。新入生の入部希望者がたくさんいるのだ。


 帰宅部の僕は、寂しく一人で下校した。


「只今」


 母はまだ仕事から帰っていないが、今日は姉がいる。


 大学は始まっているけど、今日は講義がないとか言っていたから。


「おっかえり、武!」


 いきなり後ろから羽交い絞めにされる。


 姉は柔道着姿だ。もしかして、やる気満々なの?


「わ、姉ちゃん、何するんだよ?」


 僕は慌てて振り解こうとするが、バカ力の姉には敵わない。


「ちょっと練習させて。新しい技を研究中なのよ」


 姉は婚約者の力丸憲太郎さんには柔道を教わり、サークルでプロレス研究会に所属している。


 だから技に無駄に詳しくて、僕はいつもその被害者だ。


「ぐえええ!」


「大袈裟だよ、武! そんなに強く締めてないでしょ!」


「痛いよ、姉ちゃん! やめてよ!」


 僕は涙目で叫んだが、姉は解放してくれない。


「こうして、こう!」


「いだだだ!」


 今自分の身体がどうなっているのかよくわからないが、僕の顔は姉の太腿の間に挟まれていた。


「フゴ」


 チラッと横を見ると、姉の股間がすぐそばにある。スカートじゃなくて良かった……。


 たまにスカート履いてても技かけてくるからなあ。


「おりゃ!」


「ぎえええ!」


 わわわ、何だ?


「いでええええ!」


「これが腕ひしぎ十字固め!」


 今度は腕を捻られる。姉の太腿が顔の上にあり、僕の腕は姉の股間に挟まれて……。


「はい、おしまい。ありがと、武」


 チュッとほっぺにされた。僕は思わず赤面する。


「また練習台になってね」


 ニコッとして立ち去る姉。呆然と見送る僕。


「……」


 痛いけど、何となく断われない。


 キスされたほっぺを撫でる。


 姉ちゃん、僕をどうしたいのさ?


 そう尋ねたかった。

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