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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学二年編
196/313

その百九十五

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。大学二年。それももうすぐ終わる。


 一年の時に比べて、早かったと思う。いろいろあったけど、いい一年だった。


 姉の婚約者である力丸憲太郎さんのお姉さんの西郷沙久弥さんが無事男の子を出産した。


 名前はすでに決まっており、夫の西郷隆さんと沙久弥さんから一文字ずつとって、隆久君。


 いい名前だと思った。


 僕はその情報を彼女の都坂みやこざか亜希あきちゃんと二人で僕の家の居間で聞いた。


「悪かったな、亜希ちゃんと二人きりのところを邪魔しちゃってさ!」


 電話をくれた姉にそう言われた時、本当にどこかに隠しカメラがあるのではないかと思ってしまった。


 最近、また亜希ちゃんが大胆で積極的になっているような気がするのは僕の思い過ごしだろうか?




 冬休みに入ったので、また一日バイト生活に入った。


「先輩、またよろしくお願いします」


 同じ大学の経済学部一年の長須根ながすね美歌みかさんが再び同じコンビニのバイトを始めた。


「都坂先輩にメールしたら、『私に報告しなくてもいいよ』とたしなめられてしまいました」


 独特の口調で苦笑いして言う長須根さん。可愛いと思うが、それはあくまで妹のようにという意味だ。


 亜希ちゃんも、長須根さんの気遣いに苦笑いしたろうな。


「磐神先輩にもメールしなくていいと伝えて欲しいと返信にありました」


 長須根さんは早速メールしようとした僕に告げた。


「はは、そうなんだ」


 僕も苦笑いしてしまった。この前言われたばかりなのに、もう忘れていた。ごめん、亜希ちゃん。


「長須根さんこそ、間島君が気にするんじゃないの?」


 僕は携帯をしまいながら尋ねた。すると長須根さんはニコッとして、


「信じてるからって言ってくれました。嬉しかったです」


 顔を赤らめて俯いたので、僕も何だか恥ずかしくなってしまった。


 間島君、いい子だなあ。彼なら長須根さんにピッタリだろう。


 


 午後になって、床掃除をしていると、


「お久しぶりね、武彦君」


 女性の声が聞こえた。僕はその声に聞き覚えがあったのだが、誰なのか思い出せない。


 母の高校時代の同級生の日高さんのお嬢さんである実羽さんは家が近いけど、実羽さんの声ではない。


「あ、こんにちは、恵さん」


 そこには、西郷さんのお姉さんである恵さんがいた。一緒にいる二人の女の子は恵さんのお嬢さんだ。


「こんにちは、武彦お兄ちゃん」


 長女の莉子ちゃんが小首を傾げて挨拶した。次女の真子ちゃんは恥ずかしがって恵さんの後ろに隠れている。


「こんにちは、莉子ちゃん、真子ちゃん」


 僕は二人に微笑み返して挨拶した。


「今日はどうされたんですか?」


 僕は恵さんを見た。すると恵さんは、


「そうか、武彦君は沙っちゃんの病院知らないんだっけ? この沿線なのよ。それで、莉子がどうしても武彦君に会いたいって言うから、寄ってみたの」


「そうなんですか」


 僕はちょっとだけ照れ臭くなって応じた。


 莉子ちゃんはまだ八歳の小学二年生だ。そんな子に


「どうしても会いたい」


 そう言われたら、気恥ずかしい。莉子ちゃんはお母さんに似てすでに美人と言っても間違いではない顔立ちをしている。


 僕は決してロリコンではないけど、どういう訳か、小さい子に懐かれるのだ。


「真子も会いたかったんだよ、武君」


 真子ちゃんはお姉ちゃんに対抗意識があるのか、急に身を乗り出して言った。


「ありがとう、真子ちゃん」


 僕はしゃがみ込んで真子ちゃんにお礼を言った。


「莉子の方がずっと武彦お兄ちゃんとお似合いだもんね」


 莉子ちゃんが凄い事を言い出す。僕はギョッとしてしまった。


「真子なんか、武君にチュウしたもん!」


 真子ちゃんが闘志剥き出しの顔で莉子ちゃんを睨みつけた。


 そう言えば、沙久弥さんの結婚式でもらい泣きしていた時、真子ちゃんに、


「武君、泣かないで」


 そう言われてほっぺにキスされたっけ。あれには驚いたけど。


「莉子だってできるもん!」


「いい加減にしなさい!」


 姉妹の争いに遂に母親である恵さんの雷が炸裂した。


 二人共、恵さんが相当怖いのか、ビクッとしたきり固まってしまった。


「ごめんね、武彦君」


 恵さんは僕に詫びると、ビールとおつまみを相当な量購入して、帰って行った。


 あれは誰が飲むのだろうかと気になってしまった。


「磐神君、君はどれだけの美人を独り占めすれば気がすむのさ?」


 一年先輩の神谷さんが恨めしそうに囁いた。僕は苦笑いして、


「あの人は姉の婚約者のお姉さんの義理のお姉さんで、ごらんの通り、子供も二人いる人ですよ」


 神谷さんを窘めた。すると神谷さんは肩を竦めて、


「何言ってるんだい、磐神君。美人と縁があるというだけで羨ましいんだよ」


「そうなんですか」


 僕は顔が引きつるのを感じた。そばで聞いていた長須根さんは呆れた顔をしていた。


 


 夕方になり、長須根さんは間島君が迎えに来て先に上がった。


 なるほど、迎えに来るという条件で長須根さんのバイトを許したのかな? いや、そんな策士ではないだろう、彼は。


 純粋に長須根さんが心配なだけだ。


「寂しくなったねえ、磐神君。彼女は迎えに来ないの?」


 神谷さんは店長が留守なのをいい事にお喋りばかりだ。


「いや、もうここには呼びませんよ。ご迷惑をおかけしますから」


 僕はサラッとその流れをかわし、棚の整頓を続ける。


「何だ、ケチだな、磐神君は。今度さ、ここの男子全員で飲み会するから、彼女も誘って参加しなよ」


 神谷さんはまだ諦めていない。僕はニコッとして、


「すみません、僕、まだ未成年なんです」


「あれ、そうだっけ? でも、亜希さんはもう成人したよね?」


 亜希ちゃんだけ誘うつもりなのか、この人は? 何を考えているんだろうか?


 しかも、いつの間にか「亜希さん」とか名前で呼んでるよ。こんなに馴れ馴れしい人だったっけ?


「亜希はお酒を飲まないので。姉は飲みますけど」


 僕は緊急避難でつい姉の事を話してしまった。後で怒られるかな?


「おお! お姉さんも大歓迎だよ」


 神谷さん……。彼女を大切にしてください。そう言いたかったけど、言えなかった。


 


 そして、また捨て犬の目をしている神谷さんを残し、僕はバイトを終えて駅に向かった。


 ふと周囲を見渡すと、街はクリスマス一色から年末の慌ただしさに変わっていた。


 もう今年も終わりか。急にしんみりしてしまった。


 


 家に帰ると、姉が戻っていた。


「おっかえり、たっけくん!」


 妙にテンションが高いと思ったら、忘年会で飲んで来たらしい。


「ウチの男共はだらしがないったらありゃしないわ。普通、女子を男子が送るものでしょ?」


 最後まで正気だった姉が酔いどれた男性社員達をタクシーを手配して乗せ、帰宅させたらしい。


 愚痴が長くなりそうだと思ったので、僕は神谷さんの話をした。


「おお! あの乗りのいいコンビニの人達と飲み会? いいねえ、新鮮で。御真津みまつ先輩達も誘っちゃおうかな」


 姉は酔いも手伝って嬉しそうだ。仕方がないなあ。ちょっと冷や水浴びせようか。


「憲太郎さんにお許しをもらわなくていいの?」


 するとあれほど陽気だった姉の顔が引きつった。


「憲太郎の健康管理をしなくちゃいけないから、来年から一緒に暮らすんだっけ」


 それを聞いて今度は僕の顔が引きつってしまった。え? 来年から同居?


「あ、そっか、武にはまだ言ってなかったっけ。ごめん。今日決まったんだ。できるだけ早い方がいいって、沙久弥さんと香弥乃さんに言われてさ」


 姉があまりバツが悪そうに言うので、僕は何とか笑みを浮かべ、


「そう。なら、神谷さん達には断わっておくね」


 すると何故か姉は腕組みをして考え込み、


「一日くらい私が出かけても差し支えないよね。うん、そうだ、大丈夫だ」


 大きな声の独り言を言い始めた。行くつもりかよ、飲み会に? 全く。


 まあ、その方が姉らしいけどね。

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