その十八
僕は磐神武彦。もうすぐ高校三年。
もうすぐ大学三年の姉がいる。
この姉は凶暴だが、とても優しい姉だ。
恋人の力丸憲太郎さんにプロポーズされ、幸せの絶頂という顔をしている。
「いつ結婚するの?」
僕はそう訊いた事がある。すると姉は照れながら、
「バカだな、まだ先だよ。お互い、もういいよねって事で婚約しただけで、結婚なんてまだまだ先」
そう言いながら顔がニヤけている姉はちょっとキモ可愛い。
僕も幼馴染みの都坂亜希ちゃんと付き合い始めたけど、姉達のようになれるのだろうか?
亜希ちゃんを誰かに取られるような気がして、急に不安になった。
大学とかに行ったら、亜希ちゃんが注目されるのは間違いない。
彼女が出場する陸上の大会は、マニアがたくさんカメラを持って集まるらしいし。
そんな奴らに亜希ちゃんが惹かれるはずはないけれど、中にはイケメンもいるだろうからな。
心配なのは確かだ。
僕は思い切って姉に相談してみた。
「ふーん」
姉は嬉しそうに言って、しばらく僕を見ていたが、
「姉ちゃんは、心配いらないと思うよ」
「ど、どうしてさ?」
僕は自信満々の姉の返答が理解できない。
「亜希ちゃんは、お前が思っているほどいい加減じゃないよ。そして、お前が思っている以上にお前の事が好きだと思うし」
「ど、どうしてそんな事がわかるのさ?」
僕は本当に不思議に思って尋ねた。すると姉はニンマリして、
「亜希ちゃんが私によく似ているからよ」
「えっ?」
その僕の驚きようを見て、姉はムッとした。
「何、そのリアクションは? 姉ちゃんと亜希ちゃんは似ていないって言うの?」
僕は大きく頷き、
「亜希ちゃんは僕を殴らないもん」
姉はチッと舌打ちし、
「そ、それはそうかも知れないけど、でも考え方は似てるよ」
「そうかなァ」
僕は納得できない。
「亜希ちゃんが他の男を好きになってしまうのでは、と思うのは、あんたがそれだけ亜希ちゃんの事を信じていないって事よ」
「……」
そう言われて、僕はハッとした。
「そ、そうだね」
「でしょ? あんたはもっと亜希ちゃんを信じないと」
急に勝ち誇ったような顔をする姉。こういうところが嫌なんだよな。
「亜希ちゃんはきっとあんたの事を全面的に信用していると思うよ。申し訳ないと思いなさい」
「う、うん。ごめんなさい」
亜希ちゃんに責められるのならわかるけど、どうして姉に言われて謝らなければならないのか、ちょっと気になるが、そんな事を言うとまた怒られるので、グッと我慢した。
「姉ちゃんはさ、憲太郎さんの事を信じているの?」
「当然よ」
姉は胸を張って答える。誇らしそうだ。
「憲太郎さんも姉ちゃんの事を信じているのかな?」
「当たり前でしょ」
姉は強気だ。僕はちょっとだけ悪戯心が働いて、
「本当に? 確かめてみた?」
と尋ねた。すると姉の顔色が悪くなる。
何か身に覚えがあるのだろうか?
突然携帯を取り出し、
「ああ、リッキー」
と話し始めた。
姉ちゃんも憲太郎さんを信じていないんじゃん!
でも何だかホッとした。
ありがとう、姉ちゃん。
大好きだよ。もちろん、姉としてだけど。