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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学二年編
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その百八十五(亜希)

 私は都坂みやこざか亜希あき。大学二年。


 幼馴染みで交際中の磐神いわがみ武彦たけひこ君とは順調。


 でも、長い夏休みの間、いつもより彼と一緒にいる時間が少なくて寂しかった。


 もう今年で晴れて二十歳なのだから、そんな我がままを言うのはみっともない。


 それから、武君にはあまりにも嫉妬ばかりしていたので、それが反省点。


 秋からは、できるだけ嫉妬しないようにしようと思った。多分、しないと思うけど……。


 何故か武君の周りには美人ばかり集まって来る。


 お姉さんの美鈴さんを筆頭に、もう結婚されたけど、相変わらず可愛い西郷さいごう沙久弥さくやさん、そしてその義理のお姉さんの依里えりさん、詠美えいみさん。


 更に、大学には、同級生の長石ながいし姫子きこさん、たちばな音子おとこさん、経済学部の一年生で、美鈴さん命名の「巨乳ちゃん」の長須根ながすね美歌みかさん。


 それに加えて、武君のお母さんの珠世さんの高校時代の同級生である日高ひだか建史たけふみさんの娘さんの実羽みわさん。


 それから、この人達が一番危ないメンバーで、美鈴さんの会社の先輩の御真津みまつ可恵かえさん、神沼かみぬま美弥みみさん、この人は大丈夫かも知れないけれど、沖永おきなが未子みこさん。


 長須根さんと沖永さんを除くと「姉属性」の人達ばかりだ。だから余計心配。武君、筋金入りのシスコンだから。


「でも、それってさあ、亜希が磐神君を信じていないって証拠だと思うよ」


 武君との別行動の日だったので、久しぶりにお茶しようという事になってファミレスで会った中学の同級生で親友の櫛名田くしなだ姫乃ひめのちゃんが言う。


 妊娠五ヶ月を過ぎた彼女はもうすっかり「ママ」という感じの顔になって来た。元々痩せていた姫ちゃんは、まだそれほどお腹は出ていないが、マタニティっぽいゆったりした服を着ている。


「そうなんだけど……」


 信じていないから心配する。それを言われると、私は反論できない。そうかも知れないと思う訳ではないが、自信がなくなるのだ。


「私なんかさ、男が一番浮気するのは妻の妊娠中だってネットで調べてて見かけてから、心配するようになったけどね」


「え?」


 サラッと「妻」とかいう単語が出て来たので、私は姫ちゃんをマジマジと見てしまった。


「ああ、そうか、報告してなかったね」


 姫ちゃんはバツが悪そうな顔になって、


「私と昇、入籍だけはすませたの」


 昇というのは、姫ちゃんの彼氏の須佐昇君の事だ。


「ええ!?」


 あまりの急展開の話に私はつい大声を出してしまった。姫ちゃんはペロッと舌を出してから、


「ごめんね、亜希、事後報告になってしまって。産まれて来る子供のためにもって、昇のお父さんが私のお父さんに言ってくれたの」


「そうなんだ」


 私は苦笑いするしかない。


「こんな娘でもよろしければ、なあんてさ、お父さん、酷い事言ってお礼言うのよ。信じられないでしょ?」


 また苦笑いするしかない私。お父さんなりの照れ隠しだと思うけど。


「亜希も磐神君と別れるつもりがないのなら、早めに籍入れちゃった方がいいよ。そうすれば、磐神君、逃げられないから」


 姫ちゃんが妙に真顔で言ったので、私は顔を引きつらせてしまった。


 


 しばらく話してから、私は姫ちゃんを迎えに来た須佐君と挨拶し、少しだけ喋ってから別れた。


 ファミレスの前を離れた時、私は武君に姫ちゃんと須佐君の入籍を報告しようと思い、携帯を取り出した。


 あれ? でも、そんな電話をすると、変なプレッシャーを武君にかけてしまうかな?


 妙な事を考えてしまった。


「あ」


 すると、武君から着信。慌てて通話を開始する。


「あ、大丈夫、亜希?」


 武君が尋ねた。相変わらず、優しい人だ。私は微笑んで、


「大丈夫だよ。今、姫ちゃんと別れたところだから」


「そうなんだ。だから、須佐君から電話があったのか」


 武君のその言葉にギクッとしてしまった。もしかして……。


「じゃあ、亜希も聞いたよね。須佐君達、入籍したって」


「ええ、うん」


 やっぱり……。おかしな気を遣ってしまう私は自意識過剰なのだろうか?


「櫛名田さん、それを話すために亜希と会ったのかな?」


「そうかもね」


 しばらく沈黙。何だろう、このドキドキ……。


「亜希はどう思う? 僕達も早めに籍を入れた方がいいのかな?」


 武君が切り出した。私のドキドキは更に強くなった。


 急がなくていいと言えば、武君を傷つけるかな? でもすぐにでも入籍する理由はないし……。


 え? 私が姫ちゃんのように妊娠すれば早めに入籍……。ああ、ダメだ、思考が暴走しかけてる。


「やっほー、亜希ちゃん! 美鈴だよ」


 いきなり美鈴さんが電話に出たので、私の妄想の暴走は止まった。


「私達が結婚するまでは入籍したらダメだよ、亜希ちゃん。それから、子供も私達より後にしてね」


「姉ちゃん、何言ってるんだよ!」


 しばらく携帯を奪い合う音がして、


「亜希ちゃん、自分のペースでいいんだよ。このバカの考えなんて無視してね」


「あ、はい」


「じゃあねえ」


 そう言うと、美鈴さんは通話を切ってしまった。相変わらずマイペースな人だ。


 でも、美鈴さんの乱入で私は救われた。


 入籍を早めになんて、きっと須佐君にそそのかされたのね。素直な武君らしいな。


 美鈴さんの言う通りだ。私は私のペースで。もちろん、武君の考えを無視するつもりはない。


 大好きだから、ずっと一緒にいようね、武君。

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