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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学一年編
160/313

その百五十九

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。もうすぐ大学二年。


 今日は姉の婚約者の力丸憲太郎さんのお姉さんである沙久弥さくやさんの結婚式。


 親族の顔合わせにも何故か参加し、すっかり力丸家の一員扱いの磐神家。


 その中には、僕の彼女の都坂みやこざか亜希あきちゃんもいる。


 


 そして、本日のメインイベントである挙式が行われる礼拝堂へと行った。


 亜希ちゃんは聖壇に向かって左側の前列から二番目の席に母と並んで座っていた。


 姉は憲太郎さんの婚約者なので、完全に親族扱いのため、僕らの席とは違う家族のみ座る前の席に座ってコチコチになっている。


「沙久弥さんの式であんなに緊張して、自分の時はどうなってしまうのかしら?」


 母が不安そうに呟いた。


 僕と亜希ちゃんは顔を見合わせて苦笑いするしかない。


 外国人の牧師さんが入場し、聖壇の前まで行くと、開式を宣言した。


「皆さん、ご起立願います。新郎の入場です」


 司会の人が告げた。


 席に座っていた人達が一斉に立ち上がり、礼拝堂の大きな入り口の扉に注目した。


 そこにいつもより小さく見える沙久弥さんのお相手の西郷隆さんが現れた。


 西郷さんもかなり緊張しており、歩き方がぎこちない。


「西郷、しっかりしろ」


 西郷さんの職場の同僚の人だろうか、声をかけた人がいた。


 同じ警視庁第一機動捜査隊の人みたいだ。


 体格のいい人が三人並んでいる。


 西郷さんはその言葉にビクッとし、ぎこちなかった歩き方が奇麗になった。


 但し、明らかに警察官の歩き方だったけど。


 西郷さんは司会の人と牧師さんに誘導されて、聖壇の前の所定の位置に着いた。


「武彦もよく見ておくのよ。そう遠くない将来、貴方も体験するんだから」


 母が余計な事を言ったので、僕まで緊張して来てしまった。


「その時はよろしくね、武彦」


 亜希ちゃんまでが悪乗りしている。ああ……。


「お待たせ致しました。新婦の入場です」


 司会の人が声を張り上げて宣言した。


 厳かなオルガンの演奏が始まり、沙久弥さんがお父さんの利通さんに伴われて現れた。


 招待されたお客さんから歓声と溜息が漏れた。


 それくらい沙久弥さんは光り輝いていた。


 奇麗だ。


 顔合わせで見た時より、更に奇麗に見える。


 お父さんはカチコチだが、沙久弥さんは堂々としていた。


 さすが合気道の師範。落ち着いている。


 そして笑顔も素敵だ。おっと、あまり見とれると亜希ちゃんにつねられる。


 沙久弥さんも所定の位置に着き、お父さんは何か西郷さんに声をかけて自分の席に着いた。


 牧師さんの合図で席の背もたれに備え付けられている革張りの本を手に取り、オルガンの演奏に合わせて賛美歌を斉唱した。


 牧師さんが映画やドラマでよく聞く結婚の誓約を問いかけ、沙久弥さんと西郷さんがそれに一つ一つ応えていく。


「では、指輪の交換を」


 牧師さんの言葉で西郷さんが指輪を取り、沙久弥さんの左手の薬指にはめようとするが、緊張で手が震えてうまくいかない。


「西郷君、呼吸を整えて」


 沙久弥さんが言った。よく通る声だったので、恐らく一番後ろの席まで聞こえただろう。


 あちこちで失笑が漏れていた。


 西郷さんは沙久弥さんに言われた通りに呼吸を整えると、何とか指輪をはめた。


 そして今度は沙久弥さんが実に落ち着いた様子でスッと西郷さんの左手の薬指に指輪をはめた。


「では、誓いの口づけを」


 牧師さんのその言葉に一瞬礼拝堂の中がどよめいた。


 西郷さんと沙久弥さんの身長差は三十センチくらいある。


 どうするのだろうと見ていると、西郷さんが腰をかがめ、沙久弥さんが背伸びをし、無事キスをした。


 一斉にストロボが焚かれ、シャッター音が響いた。


 横を見ると、母も亜希ちゃんも泣いていた。


 前を見ると、姉は泣き崩れており、憲太郎さんに縋っている。全く……。


 牧師さんが結婚の成立を宣言し、もう一度全員で賛美歌を斉唱した。


 式は無事終了し、新郎新婦が先に退場する。


 姉は泣き終えたかと思って見ると、今度はお父さんが泣いていた。


 姉はそれを見てもらい泣きしている。


「先が思い遣られるわ」


 母はそう言いながら涙を拭った。


 


 礼拝堂を出ると、今度はその前にある階段でブーケトスが行われるらしく、沙久弥さんの友人や、憲太郎さんの大学の女性達、そして姉と亜希ちゃんまでが参加していた。みんな必死に見えてしまうのは気のせいだろうか?


 特に必死に見えたのは、西郷さんのお姉さんの依里えりさんと詠美えいみさんだ。


 女子達がしのぎを削っている中、西郷さんと沙久弥さんが階段の上に現れた。


「では、私が合図しますので、後ろ向きでブーケを投げてください」


 司会の人が言い、沙久弥さんをトスの場所に誘導する。


 僕も思わず固唾を呑んで見入ってしまう。


「はい!」


 沙久弥さんの掛け声と共にブーケが宙を舞う。


 誰のところに落ちるのかと憲太郎さんと共に見ていると、


「あ」


 遠慮して姉に場所を譲っていた亜希ちゃんが偶然出した右手でキャッチしてしまった。


 途端に起こる溜息と叫び声。


 僕は何とも言えない複雑な心境になった。


 亜希ちゃんも申し訳なさそうにお辞儀をしていた。


 恐らくあのメンバーの中で最年少だったろうから。


「良かったね、武彦君」


 憲太郎さんが言った。僕はビクッとしてしまった。


「まずいですよね、最年少の子が取ったりしたら」


 亜希ちゃんはバツが悪そうに戻って来た。


「そんな事ないから、気にしないで」


 憲太郎さんはそう言ってくれたが、他の女性達の目は気のせいではなく、亜希ちゃんを睨んでいたと思う。




 次に式の出席者全員で記念撮影。


 こういうのはどうしても気が合わないのでなかなか撮影できない。


 てきぱきと指示を出し、位置を決めていくカメラマンさんにプロの力を見た思いがした。


 


 そして、次はいよいよ披露宴だ。


 ウェルカムドリンクを渡され、僕達は自分達の席を探した。


 母と亜希ちゃんと僕は同じ席だったが、親族扱いの姉はまたしても一人で力丸家と同じテーブル。


 顔が引きつっているのがよくわかった。


 何せ、隣は沙久弥さんより苦手な義理のお母さんとなる香弥乃かやのさんだから。


 さて、無事にすむのかな。


 でも本当にめでたい日だ。

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