表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学一年編
144/313

その百四十三(亜希)

 私は都坂みやこざか亜希あき。大学一年。もうすぐ二年になる。


 先日、従兄の忍さんの妹さんの真弥さんを巡って、ちょっとした騒動があった。


 真弥さんは、実は忍さんのお父さんの養女で、九州で忍さんのお父さんが出会った女性の連れ子だった。


 それを知らなかった忍さんは、ずっとその事でお父さんを憎んでいて、そのせいで真弥さんも嫌っていた。


 しかし、真弥さんは忍さんの事を実のお兄さんではないと知っていて、忍さんを男性として好きでいた。


 全てがわかると、忍さんは真弥さんと和解ができた。


 まあ、和解と言うより、忍さんが真弥さんに今までの事を謝ったのだけれど。


 忍さんのお母さん、すなわち私の叔父さんの奥さんは、真弥さんが叔父さんの子供ではないのを知ると、ホッとしたそうだ。


 忍さんは、叔父さんが他所で子供を作ったと思い込んでいて、叔父さんを憎んでいたが、叔母さんは叔父さんをずっと信じていたからだ。


 だから、できれば、一緒に暮らしましょうと真弥さんのお母さんに提案したらしい。


「真弥のお母さん、大泣きしてたよ」


 忍さんは叔母さんと共にお父さんに事情を説明に来た時にそう言って苦笑いした。


「そうか」


 父は厳しい表情のままで言った。


 真弥さんは転校の手続きとかがあるので、しばらく九州に留まる事になるらしい。


 忍さんは、真弥さんに告白されて、しばらく考えたそうだ。


 今まで妹だと思っていた女の子を女性として好きになれるのだろうかと。


 そればかりは忍さん自身が結論を出すしかないだろう。


「でも、どういう結論にしても、真弥さんの気持ちに応えてあげてね、忍さん」


 私にはそれしか言えなかった。


「そうだね。ありがとう、亜希ちゃん」


 忍さんは微笑んで応じた。


 父と母は、叔母さんと忍さんを温かく励まし、送り出した。


「只、あいつは一つ間違っていた。他人の子供を養女にする事を誰にも相談せずにした事だ。それは間違っていた」


 父は目を潤ませて呟いた。


「もう全部終わった事ですよ、貴方」


 母が涙を拭いながら父に言う。


「わかっているさ。文句を言いたいのに、もう死んでしまってるから、それもできない」


 父はそう言って涙を零した。


 たった一人の弟に先に逝かれてしまったのが、本当に寂しかったんだなと感じ、私も泣いてしまった。


 


 そして、年の瀬。もうあと数十分で今年も終わる。


 去年の受験勉強をしていた頃が懐かしい。


 あの頃は一日の半分以上を彼の磐神いわがみ武彦たけひこ君と過ごしていた。


 今は、武君はバイトをしているので、そんなに長時間一緒にはいられない。


 寂しいけれど、あまり我がままは言えないし。


 部屋でボンヤリしていると、携帯が鳴った。


 その着メロは武君だ。


「はい」


 つい声を弾ませて出てしまった。


「亜希、これから初詣でに行かない? みんなと一緒に」


「うん!」


 私はすぐに支度をし、家から出た。


「亜希!」


 武君が美鈴さんと歩いて来る。


 本当は二人で行きたいけれど、それはまた後で。


「おめでとう、亜希たん」


 すでにでき上がり始めている美鈴さんに苦笑いする。お酒臭い。


「姉ちゃん、まだ新年じゃないよ」


 武君は呆れ顔で言った。


「いいの!」


 美鈴さんが武君の首を絞める。


「苦しいよ、姉ちゃん」


 武君はそう言いながらも嬉しそうだ。


 相変わらず来年も、最大のライバルは美鈴さんなのかな?




 しばらく歩いて行くと、中学の時の同級生の櫛名田くしなだ姫乃ひめのちゃんと須佐昇君が合流した。


「おめでとう、須佐君」


 まだ明けていないのに、美鈴さんはニヘラッとして言った。


「おめでとうございます、美鈴さん」


 須佐君はデレッとして言った。途端に姫ちゃんの機嫌が悪くなる。


「いて!」


 須佐君はどうやら脇をつねられたようだ。


「全く、あんたは!」


 姫ちゃんは須佐君を睨みつけたが、美鈴さんは全然気にしていない。


「どうしよう、武、姉ちゃん、モテ過ぎ」


 嬉しそうだ。武君は困惑した顔で私を見た。私も苦笑いするしかない。


 姫ちゃんは複雑な顔をしていた。


 


 そんな陽気な美鈴さんはその直後に終了した。


 婚約者の力丸憲太郎さんと、そのお姉さんの沙久弥さん、その婚約者の西郷隆さんが合流したからだ。


「明けましておめでとうございます」


 ちょうどその時、年が明けた。皆それぞれ挨拶をする。


 武君と須佐君が心なしか沙久弥さんにデレデレしているように見えるのは、私の気のせいだろうか?


 でも、姫ちゃんもムッとした顔をしているので、気のせいではないのだろう。


 美鈴さんは、沙久弥さんとは普通に話せるようになったはずなのに、まだ緊張はするみたいだ。


 急にカチカチになっている。さっきまでの陽気さは全くなくなってしまった。


 それを面白そうに見ている憲太郎さん。さすがだ。


 


 お参りをすませて、拝殿の階段を戻りながら、武君が囁いた。


「何をお願いしたの?」


「秘密」


 私は悪戯いたずらっぽく笑って応じる。


「ええ? 教えてよ、亜希」


 武君が甘えた声で言ったので、思わず笑ってしまった。


「ダーメ。願い事が叶わなくなっちゃうから」


 私は笑いながら言い、階段を降りた。


 言わなくても、決まってるじゃない? 武君とずっと一緒にいられますように、だよ。


 今年こそ、二人で旅行しようね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ