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姉ちゃん全集  作者: 神村 律子
大学一年編
123/313

その百二十二

 僕は磐神いわがみ武彦たけひこ。大学一年。


 先日、姉の婚約者の力丸憲太郎さんの家に招待されて、昼食を御馳走になった。


 料理をしてくれたのは、憲太郎さんのお母さんの香弥乃さん。


 物静かで、それでいてどこか圧倒的な存在感があり、憲太郎さんのお姉さんの沙久弥さんと瓜二つだ。


 もちろん、まだ二十四歳の沙久弥さんと、推定年齢四十代後半(僕の母の年齢を参考にした)の香弥乃さんが全く同じはずはないのだけれど、遠目で見ると、ほとんど見分けがつかないくらいよく似ているのは事実だ。


 そっくり親子選手権があれば、間違いなく優勝候補だ。


 何だか知らないけど、もっとそっくりな親子はいる気がするので、優勝候補に留めておくけど。


 


 そして、今日は僕の彼女の都坂みやこざか亜希あきちゃんと別行動の日。


 そんな日に、亜希ちゃんの従兄の忍さんに会うような気もしてしまうのだけれど、今日は大丈夫。


 何故かと言うと、沙久弥さんの彼氏の西郷隆さんと会うからだ。


 どうして西郷さんと会う事になったのかと言うと、先日お会いした時に、


「今度ウチに遊びにおいでよ。何だか君とは仲良くなれそうだ」


と言われたから。


「弟会を立ち上げる話、憲ちゃんから聞いているんだ。その話もしたいから」


 西郷さんは、沙久弥さんが一緒にいる時でも平気でそんな話をする。


 憲太郎さんのお姉さんである沙久弥さんには「弟会」は愉快な話じゃないと思うのだが。


「面白いわね、弟会なんて」


 沙久弥さんは全然気にしていないみたいで、ニコニコしていた。


 やはり、「弟会」に過敏に反応するのは我が姉くらいなのだろうか?


 まあ、弟が集まれば、姉の悪口を言うに決まっていると思う姉の方が特殊なのだろう。


 只、西郷さんの家は、お姉さんが四人いると憲太郎さんに聞いた事があるので、何だか怖い。


 すると西郷さんは笑って、


「姉のうち二人は結婚しているし、一人は外務省のキャリアだから家にはいないしで、実質よくいるのは一人だけだよ」


と教えてくれた。


「ウチの姉なんか、沙っちゃんや武彦君のお姉さんに比べれば……」


 そこまで言って、さすがに西郷さんもまずいと思ったのか、言葉を切った。


「私や美鈴さんに比べれば、何かしら、西郷君?」


 沙久弥さん、笑顔全開なんだけど、目が笑っていなくて、とても怖かった。


 西郷さんは、


「二人に比べれば、美人じゃないからさ」


と苦しい言い訳。


「西郷君のお姉さんて、みんな美人でしょう? 失礼な事を言ってはいけないわよ」


 沙久弥さんの鋭い指摘だった。西郷さん、顔が引きつっていた。


 


 そんな訳で、僕は今日、西郷さんのご実家に来ている。立派なお邸で、力丸家と変わらないくらい格式高い家だ。


 しかも予想外の事が起こっていた。


 僕は居間に通されたのだが、何故かそこには四人の女性。


 しかも全員大人な雰囲気。


 しかも全員美人。


 更に全員微笑んで向かいのソファに座り、ジッと僕を見ている。


 僕は恥ずかしくなって俯いた。


「あらあ、可愛いわねえ、憲ちゃんの婚約者の美鈴さんの弟さんなんでしょ?」


 そう言ったのは、長女のめぐみさん。西郷さんから聞いた話では、三十五歳。


 でももっと若く見える。しかも二人の子持ちだそうだ。


 今日は僕が来ると聞いて、わざわざいらしてくださったのだとか。


 何だか、怖い。


「はい」


 僕は何とか顔を上げて応じた。すると恵さんの隣に座っている女性が、


「そうねえ。やっぱり男の子の方がいいわ、可愛くて。女はいかん」


と言った。その人の名前は、翔子しょうこさん。次女だ。三十三歳。やはり二人の子持ち。


 見えない。二十代だと言われても誰も疑わない気がする。


 彼女は子供二人を保育園に送ってから来たようだ。


 家が近所なので、よく実家に来るらしい。


「嫌だ嫌だ、三十代の女のショタコンは」


 そう言って肩を竦めてみせたのは、三女の依里えりさん。三十一歳。


 この人が外務省勤務のキャリア官僚だ。もうどんな存在なのか、僕には想像もつかない。


「何よ、依里? ショタコンじゃないでしょ? 武彦君は大学生なんだから」


 恵さんがムッとして言った。まあ、確かにそうなんだけど、ショタコンて……。


「そうよ。武彦君に失礼よ、依里。それにあんたもしっかり三十路でしょ?」


 翔子さんも依里さんをたしなめる。依里さんはそんな二人の姉に呆れ顔になり、


「ごめんね、武彦君、変な姉で」


と言って、何故かウィンクした。え? どういう事?


 まあ、変な姉はウチにも一人いますから、ご心配なく。


「武彦君、気をつけてね。依里姉は結婚を焦っているから、男と見れば、誰でも……」


 そう言って、


「何て事言うのよ!?」


と依里さんに睨まれたのが、四女の詠美えいみさん。二十九歳。この人も法務省に勤務しているらしい。凄いなあ。


 それより、普段はお姉さんは一人しかいないんじゃなかったんですか、西郷さん?


 それにしても、どのお姉さんも我が姉に負けないくらいキャラが濃そうだ。


 西郷さん、これほどの姉ーズに囲まれて育ったのか。凄いな。


「私は独身だから、十分武彦君の恋人候補よね?」


 依里さんが更に困ってしまうような事を訊いて来た。


「残念でした、依里ちゃん。武彦君には、依里ちゃんも太刀打ちできないくらいの可愛い恋人がいるよ」


 そこへ、西郷さんが人数分のアイスコーヒーが入ったグラスをトレイに載せて現れた。


「あら、そうなの、武彦君?」


 依里さんは本当に残念そうに言ったので、僕は思わず、


「す、すみません」


と頭を下げてしまった。すると詠美さんが嬉しそうに、


「わーい、また振られた!」


と囃し立てる。


「フンだ!」


 依里さんはプイと顔を背けた。わわ、僕のせいで揉めないでください。


 焦って西郷さんを見ると、西郷さんは笑っている。


「いつもの事だから気にしないで、武彦君」


 そう耳打ちしてくれた。


「依里ちゃんは、アメリカにいい人がいたんじゃなかったっけ?」


 西郷さんがグラスをテーブルに置きながら尋ねた。すると依里さんは、


「そいつとは一週間前に別れたわ。だから、日本に帰って来たのよ」


「ええ? アメリカ勤務はどうなったのよ、依里?」


 恵さんも初耳らしく、驚いている。依里さんは溜息を吐いて、


「外務省でバリバリ働いていれば、世界中の男が選り取りみどりかと思った私が浅はかだったわ」


「そうなんだあ」


 アイスコーヒーをストローで啜りながら、何故か楽しそうに頷く翔子さん。全然哀れんでいる様子がない。


「もうこのまま、仕事辞めて花嫁修業でもしようかなあ」


 依里さんがまた突然妙な事を言い出した。


「依里は結婚しない方がいいわよ。相手の男の人が不幸になるの、目に見えてるもの」


 恵さんが酷い事を言い出す。


「何でよお、メグ姉!?」


 どうやら依里さんは、姉妹の中で「いじられキャラ」のようだ。


 何だか親近感が湧くな。


 


 とにかく、皆さん美人で個性的で、素敵なお姉さん達だった。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました」


 僕は全員に見送られて、西郷家をお暇した。


「ちなみに私も独身よ、武彦君」


 最後の最後で、詠美さんにアピールされ、僕はドキッとした。


 今日の出来事は、姉もそうだけど、亜希ちゃんにもとても話せない。


 また誤解されそうだし。


 しかも、依里さんには「恋人候補になれる」とか言われるし、詠美さんにもアピールされるしで。


 僕には、女難の相ならぬ「姉難」の相が出ているのではないだろうか?

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