その百十五
僕は磐神武彦。大学一年。
初めての事ばかりの大学生活も一区切りし、夏休みに入った。
僕達より早く夏休みになっていた中学の時の同級生の須佐昇君と櫛名田姫乃さんは、沖縄に泊りがけで二人きりの旅行をして来たらしい。
彼女の都坂亜希ちゃんからその話を聞いて、驚いてしまった。
その上、お土産を渡したいとの事で、ドコスでランチをしたが、その時、亜希ちゃんに、
「私達も、どこかに旅行したいね」
と言われて、とんでもなくテンパってしまった。その上、
「温泉にしようか?」
とも言われたので、もう僕は正常な状態でいられなくなりそうだった。
「あはは、磐神君、亜希との混浴でも妄想してるんじゃないの?」
櫛名田さんに図星を突かれ、更に焦った。ごめん、亜希ちゃん。
邪な事を考えた僕を許して……。
亜希ちゃんは、櫛名田さんに、
「バカな事言わないでよ、姫ちゃん」
と抗議していたが、帰りがけに、
「武君と二人きりなら、混浴でもいいかな」
と恥ずかしそうに打ち明けてくれた。僕は理性が崩壊しそうだった。
よく鼻血を出さなかったと思う。
亜希ちゃんとは、プールデートをしたから、水着姿は見た事あるけど、裸は……。
小学生の時とは違うんだよね。ふう……。まずい、本当に鼻血が出そうだ。
僕は妄想を追い払うつもりで早起きをし、階下に降りた。
火照った身体をクールダウンしようと思い、シャワーを浴びるため、浴室に行く。
そして、洗面所兼脱衣所に入る。
「あれ、早いな、武」
そこには姉がいた。しかも、上半身はバスタオルのみを首にかけた状態、下半身は、その、パンツだけ……。
「ご、ごめん、姉ちゃん」
僕は慌てて飛び出し、ドアを閉じた。
「鍵かけて入ってよ、姉ちゃん!」
僕はさっきの妄想も手伝って、危うく鼻血を出しそうだ。
「どうして? 別にいいじゃん、減るもんじゃないし」
「……」
姉は羞恥心のレベルが、一般女性に比べて格段に低い。
酔っ払うと、上半身裸で家を歩き回るほどだ。
「僕が良くないんだよ!」
また火照って来た顔を扇ぎながら、ドアの向こうに叫んだ。
「武君たら、純情なのね」
また似ていない亜希ちゃんの真似をしている。
亜希ちゃんに抗議してもらおうかな。
「ほい、終わったぞ。シャワー浴びるんだろ?」
姉はバスローブ姿で登場した。あんまり変わらない気がする。
「たまには一緒に風呂入ろうか、武」
「や、やだよ!」
僕は仰天して、ないとは思ったが、脱衣所のドアの鍵をかけた。
「あーん、武君、亜希も中に入れてよお」
また似てない物真似をする姉。脱力してしまう。
「亜希ちゃんの物真似、似てないからしないでよ!」
僕は憤然として言った。すると姉はケラケラ笑って、
「わかったよ」
やっと美鈴台風が去った。僕はホッとしてTシャツと短パンを脱いだ。
シャワーを浴びて人心地ついた僕は、部屋に戻って亜希ちゃんに電話した。
「おはよう、武君。珍しく早いね」
亜希ちゃんにまでそんな事を言われてしまった。
僕って、朝寝坊のイメージが強いんだろうな。
「昨日はドキドキして、あまり眠れなかったんだ」
僕は真実を述べた。すると亜希ちゃんは、
「私もよ、武君。混浴してもいいかな、なんて言ったから、武君に呆れられたんじゃないかと思ったの」
「そんな訳ないよ。僕も、亜希ちゃんと二人きりなら、混浴したいな」
僕はそう言ってしまってから、とんでもない事を言ってしまったと後悔した。
「武君のエッチ」
亜希ちゃんはクスクス笑いながら言ってくれた。少しホッとした。
「でも、しばらくはお預けよ、武君。まだ、その、恥ずかしいから」
「う、うん」
照れ臭そうに言う亜希ちゃんの声を聞いて、僕はとうとう鼻血を出してしまった。
でも、亜希ちゃんには言えない。
「そうだ。武君は、忍ちゃん、覚えてる?」
亜希ちゃんが話題をいきなり変えて来た。
「え? 忍ちゃん?」
「そう。私の従兄で、十五年くらい前に引っ越しちゃったから、覚えていないかも知れないけど」
十五年前か。それは無理だ。全然記憶にない。
「その忍ちゃんが、お父さんが病気で亡くなったので、お祖父ちゃんの家に叔母さんと住む事になったらしいの」
「ふーん、そうなんだ」
僕はその時、忍ちゃんという人が実は男の人で、亜希ちゃんと結構仲が良かったなんて思いもしなかった。
ちょっと波乱?




