その十
僕は磐神武彦。高校二年だ。
幼馴染みの都坂亜希ちゃんと付き合い始めて何日かが過ぎた。
心なしか、それからというもの、姉の機嫌が悪いような気がする。
「そんな事ないでしょ」
母はそう言うが、やっぱり確実に機嫌が悪い。
もの凄く怖いオーラが出ている。
まるで北○の拳のラ○ウだ。触れたら死んでしまいそうな気がする。
そんな事ないだろうけど。
そんなある日。
僕と亜希ちゃんは、久しぶりに映画を見に行く事になった。
前回は亜希ちゃんを怒らせてしまい、酷い目に遭った。
今回はそんな事がないように、いろいろと事前調査をし、出かけた。
そして何事もなく、映画を見終わり、僕達は帰りにオープンテラスのカフェに立ち寄った。
まだちょっと寒い気がしたけど、亜希ちゃんと一緒だとそんな事は忘れられる。
「ちょっとごめん」
亜希ちゃんは席を立ち、カフェの建物の中に入って行った。
以前の僕なら、
「トイレ?」
とか無神経に聞いてしまっただろうけど、今日はそんなヘマはしない。
大人は、気がついても訊かないという気遣いが必要なのだ。
ちょっぴり自分が成長した気がして、嬉しくなった。
「あ」
ふと歩道に目を向けると、危険なほどのミニスカートを履いて歩いている女性の後ろ姿が目に入った。
「うわあ……」
脚も綺麗だし、スタイルも抜群だ。ブーツが脹ら脛と釣り合いが取れていて、カッコいい。革のジャケットに大きなファーが着いているので髪型はわからないけど、凄い美人のような気がする。
ついつい、見とれてしまった。
「武君」
亜希ちゃんの声にギクッとして振り返る。
「何見てたの?」
亜希ちゃんは仁王立ちだ。やばい。非常にやばい。
「うん、いや、何となくその、風景を……」
「フーン」
亜希ちゃんの眼差しが痛い。完全に軽蔑されている。
「武君て、脚フェチだったんだ」
「えっ?」
そこまで気づかれていたのか……。
「だってさ、ミニスカートの子が通ると、チラチラ見てるんだもん」
「え、いや、その」
すると亜希ちゃんはニッとして、
「私もミニスカート履こうかな」
「そ、それは嫌だよ……」
僕はつい本音を言ってしまった。
「どうしてよ? 私にはミニスカートが似合わないから? 私の脚が太いから?」
そんな事は全然思っていない。亜希ちゃんの脚なら、さっきの女性に勝てるさ。
そう言いたかったけど、恥ずかしくて言えない。
「どうせ私は大根脚ですよーだ」
亜希ちゃんは拗ねてしまった。ああ。
「そうじゃないよ」
僕は慌てて言った。
「亜希ちゃんがみんなにジロジロ見られるのが嫌なんだ……」
そう言ってしまってから、僕は自分の顔がドンドン熱くなって行くのを感じた。
「嬉しい、武君」
亜希ちゃんは椅子に座り、僕の手を握った。
「ありがとう、武君」
亜希ちゃんの笑顔に僕はまた顔が火照るのを感じた。
いい感じに終わったデート。
僕は亜希ちゃんを家まで送り、自分の家に向かって歩き出した。
「あ」
すると、さっきカフェで見たミニスカートの女性が前を歩いている。
近所の人なのだろうか?
あれ? 方向が一緒だ。まさか……。
やっぱりその人は僕の家に入って行った。
ああ。
「あら、お帰り、武。もう帰って来たの? 早いわね」
姉が、ミニスカートなのに全く気にせず玄関に座り込み、プーツを脱いでいた。
僕からは「丸見え」だ。
「いやん、覗かないでよ、武君」
そう言いながら、全く隠すつもりがない姉。
羞恥心というものがないのだろうか?
「覗かないよ」
僕はまた顔を赤くしてサッサと玄関から二階に行った。
さっき見かけたのは姉だった。
その姉の脚に僕は見とれてしまった。
確かに綺麗だったけど。
玄関であんな格好でブーツを脱いでいるのを見たら、恋人の力丸憲太郎さんもがっかりするだろうな。
うう。今夜夢に見そうだ。
亜希ちゃんと姉が一緒に出て来たら、本当に怖い。