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【第五話】 故郷


 俺の、いや俺達の故郷は国境近くの片田舎にひっそりと存在したクリント村という農村だった。

 当時の人口は五十人弱。

 基本的には農業で生計を立てつつも周辺に大きな山や森があるため一部は狩猟なども行ってはいたが規模は小さく、ヘンデルゲン伯爵領の中では最も辺境に位置していたこともあって資産的価値はほとんどない。

 税代わりの収穫物を接収していく以外にこれといった関りもなく、言い方を変えれば見向きもされないような寂れた地だといえた。

 幼少時に母を亡くした俺は村長である父に育てられ、共に牛馬の世話をしたり山に入ったり数少ない同世代の連中と遊びまわったりして過ごした記憶ばかりが頭の片隅に残っている。

 公明正大で誠実な頼れる人物。

 住人達が父を評する時、誰もがそんなことを口にしていた。

 誰にでも優しく、誰からも頼られ、狩りの腕も良く、それでいてどんな種族どんな人種であっても助けを求めている者には手を差し伸べる。

 そんな姿をずっと傍で見て来たのも事実。

 それゆえか、村にはエルフや獣人の子供もいたし、時には怪我をしたドラゴンの子供を介抱してしばらく保護してやったこともあった。

 まあ……そういう場合には大抵俺が『面倒見てやれ』とか言って押し付けられるのだがそれはさておき。

 朝早くに起きて農作業や狩りを手伝い、昼になれば同世代のガキが集まって日が暮れるまで遊び惚けて、飯を食って眠って次の日を迎えて。

 いつまでも続くものだとさえ思っていた当たり前で代り映えがないながらも楽しい日々が終わりを迎えたのはちょうど五年前のことだ。

 ここ最近と同じく晴天が続くある日、村は焼き討ちにあった。

 パラメア帝国の半ば脅しみたいな要求を王国及びヘンデルゲン伯が飲んだことが原因だと知ったのは当日のことだだった。

 異人が潜伏しているという密告があったという理由で、何の宣告や予告もなく大軍が押し寄せ村を火の海に変えて行った。

 調査ではなく問答無用の焼き討ちは村を瞬く間に焼け野原へと変え、父を含む全ての大人が為すすべなく殺された。

 生き残ったのは直前に山へと通じる緊急時用に作られた隠し通路から逃がされた俺と幼馴染たち七人。

 すなわち村にいた全ての子供だけだ。

 家屋や田畑が火に包まれ、家族同然の大人達が次々と死んでいく様を眺めながら、俺達はただ涙することしか出来なかった。

 心は憎しみと復讐心で埋め尽くされ、あの光景を決して忘れるなといつかの復讐を誓って成人もしていないガキ七人は残党狩りから逃れるべくバラバラの道を歩むことを決める。

 あれから今日で五年。

 俺は毎年この日にかつては村であった地に出向いて墓代わりの十字架に手を合わせている。

 そして再会を誓ったのも五年後の今日。

 あの頃の俺はきっと誰よりも心に炎を灯していたのだろう。

 必ず復讐してやると、子供心に恨みと憎しみに支配されていた日々を過ごしたことを否定はしない。

 この腐った王国や帝国に報いをと。

 いつかこの手で滅ぼしてやると。

 そのために生き延びたのだと。

 信じて疑わず、皆で誓い合った。

 しかし五年もたてば皆も大人だ。

 一国を相手に、それも領土や兵力で世界一と言われる帝国相手に弔い合戦?

 無茶苦茶言うなっての。

 俺も成人してかれこれ三年だ、この歳にもなれば嫌でも身の程を知る。

 のちにクリント村出身者という繋がりを知られるのを避けるべく一切の接触をしないと約束したため連絡を取り合うこともなく、この五年間再会したのは仕事で出向いた先で偶然会ったクロエぐらいのものだ。

 他の皆がどんな生活を送ってきたのかを俺はほとんど知らないし、噂では別の国で随分な立場になっている奴もいると聞く。

 そんな中で俺はというと所詮その日暮らしの底辺冒険者。

 憎しみが消えることはない、これは間違いない。

 親と家と古郷を焼き払われたのだから当たり前だろう。

 でも今となってはそれだけのこと。

 今までも、これからも、もう各々が自分の人生を生きていくだけなのだから。



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