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【第四話】 平々凡々



「ただいま~」

 町が夕焼けに染ま始める頃、ようやく帰宅しカロンを愛でたのちに玄関を潜った。

 ようやくとは言っても俺は操縦、実質休憩、操縦しかやっていないので疲労なんてほぼないのだが、移動時間や待機時間がそれなりなので帰りが遅くなるのも致し方あるまい。

 グラン・ノーツの人達は組合に戻って依頼完了の手続きやら素材の買い取りやらミーティングやらがあるためまだ集会所にいる。

 そんな中で俺はパーティーのメンバーではないので一足先に上がらせてもらい帰宅を許されたというわけだ。

 ハゲとクズは毎度毎度『その日暮らしの奴は残業免除で羨ましいなオイ』みたいな嫌味を言って来るので例によってキ〇タマ叩き潰したくなる程の殺意に見舞われたわけだが、この後バレットさんが晩飯を奢ってくれるとのことなのでグッと堪えて返り討ちに遭う未来を回避したのだった。

 事後処理に多少の時間が掛かるから一度家に帰ってカロンの世話やら着替えやらしておいでとジェニーさんに言われ、一人集会所を後にして今に至る。

 任務の後に仲間と打ち上げ。

 そういうのも冒険者っぽくていいじゃないか。ろくに冒険してないからそんな気分ぐらい味わいたいじゃん?

 そうでなくとも一日仕事になった甲斐もあったというもので、報酬に色を付けて貰えたのだから万々歳である。

 パーティーが得る成功報酬は調査と魔物の討伐分を合わせて一万四千ディール。

 一部不満を漏らす輩がいるので皆には取り決め通り俺の取り分を千五百と言いつつもリーダーとジェニーさんはこっそり二千ディールを渡してくれた。

 おかげで数日は金の心配もしなくて済む。

 しかも二日後には例の商人からの依頼もあるときたもんだ。確か報酬は千六百って言ってたっけか。

 二日でそれだけ稼げるってのもいつぶりのことか。

 そっちの仕事が終わった暁には久しぶりにちゃんとした店で酒でも飲みたいもんだね。

「お疲れ~っス」

 カロンに水や飯をやり、着替えたついでに洗濯などをしてから集会所に戻ると、二人は既にカウンター席で一杯やりながらマスターことギルド長と談笑していた。

 どうやら今日はエイミーさんはご一緒じゃないようだ。

「よ、レオン。先に一杯やってるぞ」

「マスター、レオンの分もお願い」

 失礼しまっす。

 と一言告げて二人の隣に座ると、すぐにジェニーさんが俺のエールを注文してくれた。

 ちょっと遅くなったかなと思っていたのに、二人は酒しか注文しておらず飯を食うのを待ってくれていたらしい。

 相変わらずのグッドガイっぷりである。

「はいレオン、お待たせ~」

 間もなくしてマスターのハンドシグナルで呼ばれた組合長の娘ことケリーが俺の前にエールを持ってきた。

 歳は俺の一つ下で、職員ではあるものの主に厨房での仕事を担当している明るく元気な看板娘だ。

 続けて他の料理が並んだところでいつもの面子に毎度ながら仕事の落ち着いたマスターを加えた飲み会なのか打ち上げなのかよく分からん飯の時間が始まった。

 基本的には他愛のない話で盛り上がったり、酒で気分が上がって来ると馬鹿話で笑い合ったり、あとはまあ二人にとっては余念の無い情報収集がてらな最近の国や冒険者界隈の話だったりと話題に事欠くことはない。

「レオン、二日後のこと忘れちゃ駄目よ?」

 そろそろ並んだ皿の料理も片付き始めた頃、ワインをグッと飲み干したジェニーさんが思い出したようにこちらを見た。

 この人は酒にめっぽう強いので酔ってフラフラになったり呂律が回らなくなったりしているところを見たことがない。

 ちなみにバレットさんは全然強くないのでとっくにテーブルに突っ伏して寝息を立てている。

「勿論っす。普段と同じぐらいの時間でいいんでしたよね」

「ええ、直接商店に行ってくれたらいいから」

「色々とありがとうございまっす」

「いつになく殊勝な態度じゃないの、似合わないわよ」

「タダ飯のためなら靴をも舐めれる男ですよ俺は」

「ドヤ顔で何言ってんだか」

 呆れた様に笑って、ジェニーさんは残りのワインを飲み干した。

 知り合い絡みとはえわざわざ俺に仕事を振ってくれただけでも感謝なのに、紹介料的な中抜きとか一切しないからねこの人達。

 俺にゃぜってー無理だわ。

「よおレオ坊」

 もはや俺達より飲んでんじゃねえかぐらい酒臭いマスターが頼んでもない追加のエールを俺とジェニーさんの前に並べつつ、こちらも思い出した風に俺の名を呼ぶ。

 このオッサンも大概酒耐性が強く、いつだったか『樽で飲んでも素面でいるぜ俺ぁ』とか何とか意味不明なことを言っていた。

 あと俺も別に酒は強くないのでおかわりいらねぇんだけど……。

「お? どうしたよおやっさん」

「仕事の話で思い出したんだが、明日暇ならちょいと付き合わねえか? 近所の老夫婦が倅の家に引っ越すってんで手伝いに行くんだが、もうちっと男手が欲しくてな」

「ああ悪い、明日はちょっと用事が……」

「なんだ、予定があるなんざお前らしくもない。ひょっとしてデートか?」

「んなわけないだろ、どこにデートしてくれる相手がいるんすか。ケリー貸してくれんの?」

「手ぇ出したらぶっ殺すぞ」

 恫喝の度合いが冗談の範疇を超えている。

 顔が近いっつーの。

「ったく、女に飢えてんなら娼館にでも行って男になってこい。お前ももう十八だろ」

「いや、別に飢えてないし」

 何なら少し前に男になったばかりだし。

「何を馬鹿な話をしてんのよ。そんなことより、レオンの用事って?」

 ジェニーさんに白けた目を向けられていることに気付き、慌てて二人でエールを口にすることで繕う馬鹿二人だった。

「あ、はい……えーっと、じいちゃんの命日でして」

「ああ、そういえば……」

「もうそんな時期、か」

 毎年同じ言い訳をしているせいか、二人も何となく覚えているようだ。

「というかだなレオ坊、お前の両親は何をしてんだ? 田舎の村から来たんだったよな?」

「さあ? 今日も元気に畑仕事でもしてんじゃないっすか?」

「適当な……」

「ま、そんなわけだから仕事はまた他の日に頼むよおやっさん」

 深く突っ込まれたい話ではない。

 その意思表示というわけではないが、明日も早いしということで最後のエールを一気に飲み干して席を立つと、姉さんに一言お礼を述べて背中に二つの視線を感じながらもそのまま冒険者組合を後にした。


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