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【第三十一話】 聖女様のお通りです


 飛び飛びのテーブルに陣取っているそう多くはない冒険者たちが突如として施設内に騒音を作り出した。

 誰もが開いた扉の方に視線を集め『おいあれ見ろよ』だとか『本物か?』だとかと似たような台詞を次々に口にしている。

 それもそのはず、出入口の傍に立ち辺りを見渡しているのは知った顔、それすなわちフィオ姉だ。

 すぐ後ろにはアルも控えているのだが、二人の格好がこの混乱を招いていることは明らかだった。

 何故そうなったのか、私服ではなく聖女の格好……名前は何だっけか、聖衣? とかいうのを着ているし、アルはアルでタキシード姿である。

 着替えに帰ったってネルは言ってたけど、何でその服装を選んだのか。

 完全に注目の的になっていて声掛け辛いんだけど。

 全員揃うまでは下手に目立たないようにって俺言ったよね?

 と、ドン引きしながら周りと同じように口をあんぐり開けたまま固まっていると、しばらく彷徨っていた視線が俺に向けられた。

 すぐに二人はこちらに向かって歩いてくる。

 後ろにに続くアルがにこりと俺に微笑み掛けているが、その様はまるでどこかのご令嬢と付き人の如しだ。

 ……ああなるほど、敢えて目立とうとしているわけね。大聖女を演出する役回りってわけだ。

 はっきりとこっちに近付いてくる世界的有名人の姿にマスターも、当然ながらバレットさんやジェニーさんも愕然としたまま固まっている。

「おいおいおい、何が起きてるんだ一体……」

「え? ちょっとあの人……」

「だ、大聖女アリステラ?」

「…………」

 俺と顔見知りだなんて把握しているはずもないので当然の反応だろう。

 正直そんな演出は予想していなかったが、どのみち冒険者登録する際には明かすつもりでいたのも事実。

 もうこうなったら乗っかるしかねえ。

 俺がやるべきことは一緒になって驚くのではなく、何食わぬ顔で出迎えることだ。

 そう、それこそ『俺のツレですけど何か?』ぐらいの態度を貫く。それが最善の選択なはず。

 派手な衣服、そして代名詞である赤く輝く大きなロザリオを首からぶら下げた我らが長女は、自分の存在が周囲をザワつかせていることにご満悦なのかすんごいドヤ顔をしている。

 それに関しては人の気も知らずに暢気なもんだと普通にイラっとしたが、見ての通りその行動によって得られる結果がもたらす戦略的な価値を理解しているからこそアルも従っているのであろうことを考えると俺も大人にならねばなるまい。

 冒険者という粗野な人種に理解出来るかどうかは分からんが、真っ赤な十字架は誰もが知る大聖女の象徴たる存在だ。

 無論、そこに隠された意味を知る者は俺達以外にはいない。

 といっても俺たちもつい最近知ったばかりの話ではあるが、それが意味するのは復讐の炎。

 そんなことを知る由もない皆さんは幽霊でも見たかのようなリアクションを未だに続けている。

 またいい具合にアルが従者みたいな振る舞いに徹しているのがフィオ姉の威厳を増長させていて憎いね!

 ……言ってる場合か。


「店主、蜂蜜酒を二つ」


 フィオ姉は目の前に並ぶポカンとした顔を気にも留めず、俺とネルの間に割り込み普通に腰を下ろした。

 第一声で酒を注文する意味はよく分からないけど、すかさずネルは『フィー姉~♪』とか言いながら背中に抱き付いている。

 俺たちは他人同士が集まって冒険者パーティを組もうとしている間柄だという設定は早くも台無しだった。

 ま、俺が大聖女様を引き入れたという事実が公になろうとしている今、そんな台本もあんま意味無いっぽいからどうでもいいけどさ。

 俺の中ではもうちょっと時間を掛けてパーティーの結成から実績を作る前に知名度と話題性を得ることで立ち回りやすいようにする予定だったんだが……思い通りにゃいかないもんだなぁ。

 はっはっは、分かっていたさ。俺にこの濃い面子を制御出来るわけなんてないってね!

 ……言ってる場合じゃねえ(二回目)。

「んな洒落たもん置いてるわけないだろ。ここ冒険者組合だぞ、そしてこの人はギルドマスターだ。今後は世話になるんだから失礼の無いように」

 そんなわけでもう俺もなるようになる作戦を遂行するぜ。

 もう演技する気も失せた。

 ちなみにマスターは『お、おいエレンお前なんて口の利き方を……』とか言ってるけどもう無視!

「あらそうですの? こういった場所に来るのは初めてなものですから勝手が分かりませんわね」

「この時間じゃ頼めるのは軽食ぐらいだよ。日が暮れる前には料理人が来るけど、それでもお酒なんてエールと果実酒ぐらいさ」

「ふむ、でしたらレオンのおすすめで構いませんわ」

「おやっさん、レモンバーム二つ」

「お、おう?」

「ほら、アルも座れよ」

「では失礼して」

 アルもフィオ姉の向こうに腰を下ろした。

 ネルが今度は俺の背中に負ぶさってじゃれているために空いた席にしれっと座るあたりちゃっかりしているね。

「ほら、ご注文の品だ」

「ご苦労様、ありがたくいただきますわ」

「僕もいただいてよろしいのですか?」

「構いませんわよ、お仕事中でもあるまいし」

 なんだろう、この見知らぬ土地で見知らぬ人間に囲まれている状況でも堂々としている感じ。

 この辺はさすが大聖女様と言わざるを得ないわ。

「お、おいレオン。こりゃ一体どうなってんだ」

「そうよちゃんと説明しなさい」

「俺も同感だ。なんだって大聖女様がこんなところにいる、そしてどういう理由でお前と知り合いなんだ。これは只事じゃないんだぞ、全部説明しろレオン」

「分かってるっスよ、説明しますから」

「何だってお前がやる気を出したかと思えばこう次から次へと……」

 何でと言うならフィオ姉が来ただけで俺が責められる理由の方が何でって話なんですが……。

 おやっさんも本当ならバカヤロウとかいつもみたいに言いたいんだろうけど、完全にフィオ姉が見ている手前言葉を飲み込んでるし。

「えー、こちらフィオーネ・アリステラ。ご存知の通り前大聖女(プリエステス)で、今は何者でもないので俺のパーティーに引き入れました」

「「はああああ!?」」

「皆様お初にお目に掛かります。ご紹介の通りアリステラと申します、この度この国で冒険者として活動しようと参った次第ですわ。レオンと、こっちの兄妹ともどもよろしくお願いしますわね」

 人当たりの良い笑顔がまた三人を黙らせた。

 昔っからではあったけど、ほんと上品な振る舞いが様になるね。

 これ演技じゃないんだぜ? だってガキの頃からずっとこんなんだもん。

 再会した時に醸し出していた憎しみの度合いからいって笑顔自体は営業スマイルなんだろうけど。

「そりゃ本当ですかい大聖女様」

 責任者としての性なのかマスターだけはどうにかフィオ姉と会話している。

 二人の先輩方はむしろ俺にドン引きしている風ではあったがものすんごい話の続きを待っている顔をしていた。

「事実ですわよ。大聖女なのは元、ですけれど」

「何だってまた冒険者に……」

「数年に及ぶお役目を無事に終えることが出来ましたので、外の世界をこの目で見て回り見識を広め、また立場は変われど何らかの形で社会貢献をと思いまして」

「それは御立派でございますな。しかし何故にレオン坊と?」

「残念ながら皆様に楽しんでいただけるほどの深い事情はありませんの。どこかで偶然出会いまして、彼に冒険者のことを教えてもらったのですけれど、わたくしとっても興味深いと感じまして。それでパーティーを作ろうとしているとの話を聞き、ならばわたくしにも役に立てることがあるかもしれないと是非一員に加えていただきたく自ら申し出た次第ですのよ確か」

「「へ~」」

「…………」

 いや、へ~じゃないだろ。

 それっぽく振舞っているから説得力ある感じになってるけど、だいぶボロが出てるぞ。

 どこかで偶然出会ってってとこからして滅茶苦茶だし、最後に確かとか言っちゃってるし!

「それでですねお三方、こっちのイケメンがアルことアルフレッドです。ネル……じゃねえ、エレンの実の兄で、つまりは俺の親戚の一人で弟分っス」

 どうにか誤魔化さねばと無理矢理矛先を変える。

 するとアルは立ち上がり、こちらもまたお行儀よく一礼をした。

「初めまして、ご紹介の通りアルフレッド・クランドールと申します。兄がお世話になっているとのことで僕からも深く感謝を。若輩の身ゆえ先達に教えを乞うこともあるかと思いますのでどうぞ以後お見知りおきを」

「「お~」」

 ずっと声を揃えてんなこのカップル。

 エレンがはちゃめちゃな振る舞いだっただけに三人とも『出来た兄だなぁ』みたいな顔してるし。

「で、エレンよ。これがお前のパーティーってわけか」

「あと三人いるけどな。いつ王都にやってくるのかは分からん。たぶん明日明後日の話だとは思うけど」

「言っておくが、これもお偉いさんに報告しとかにゃならん事案だぞ。俺の方からしておくか?」

「それはそれで後からこっちに呼び出しが掛かったりするんじゃねえの?」

「かもしれんな。それだけの大事件だ、嫌ならもっかい城に報告に行くんだな。ちょうど副団長殿と繋がりも出来たんだろ?」

「そっちの方が早そうだ。あの人ならことを荒立てずに収めてくれそうだしな」

「とはいえ、俺にぐらいは先に報告しとけってんだ。大聖女様なんて加えちまったら一躍注目の的だぞ今から作ろうってパーティーだってのに」

「それも俺の戦略みたいなもんさ。宣伝費タダだぜ?」

「はっ、ちゃっかりしてら。ならそっちのお嬢ちゃんと同じく今日は冒険者登録ってことでいいんだな?」

「ああ、頼む」

「はいよ。ったく、大聖女様のランク設定なんぞどうすりゃいいのやら」

 やれやれと、呆れたように首を振りながらもようやくこのトンデモシチュエーションにも慣れてしまったらしいマスターは登録用紙を取りに行く。

 機能していない背景設定の擦り合わせを今一度やっておかないとなぁ。

 フィオ姉よりも更に事前の打ち合わせのことなんて覚えてなさそうな問題児が三人もこの後に控えてるってのに。


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