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【第二十七話】 帰還と報告


 不死鳥の少女ミアとの出会いどころか飯まで一緒に食った俺は小型のドラゴンぐらいあるサイズの馬鹿デカい鳥に変身した彼女に送られて山を後にした。

 その様を見た時には普通にビビったが、もう諸々の非現実感といい加減驚くのに疲れたせいでリアクションを取る気力もない。

 誰かに姿を見られでもしたら大騒ぎになるって理由と、ミア自体がある領分を超えて山脈の外側に出てはいけないと言われているらしく麓付近まで送ってもらったところで俺達は分かれることに。


『絶対遊びに行くからねー!!』


 と、最後に改めての感謝と別れの言葉を述べる俺に笑顔で返された台詞は何とも不安が残るものであるけど、恩がある手前拒否も出来ないし、かといって伝説の生物に遊びに来られても色々問題が起きそうだし、こうなったら例の親父さんが厳格な人であることを祈っておくしかない。

 そんなわけでまたぼっちになった俺はその足で国境基地へと向かい、調査書を提出して完了証明を貰った。

 勿論ミア達にあったことは伝えていないし、調査書に記してもいない。

 報告したのはゴミが散らばってたので人が入った形跡あり、ということと足場が崩れていて危ない、ということだけだ。

 そもそも俺が転がり落ちた先にあった不死鳥一家の住処は立ち入り禁止区域だし、依頼は周辺の調査であって奥に行って不死鳥に会ったかどうかは内容に含まれていない。

 そんなことをバラそうもんなら絶対面倒なことになるのが分かっているのだから敢えて残業する理由を作ることもないだろう。

 言わずもがなこれといって怪しまれることもなく、若干ボロボロになっている衣服について聞かれたりはしたものの『足場が崩れて落ち掛けたんだよ』と何なら不満げに突き付けてやったりしつつも手続きは終わり、解放された俺は真っすぐに王都への道を辿った。

 到着した頃には日も暮れつつあって、腹も減ってるし眠たいしもうクタクタだ。

「はあ……」

 治療に使ったという血の効果かは知らんが、肉体的な疲労は全然ない。

 それでいてドッと疲れているのは精神的なものというか、未知なる体験だらけで気を張っている時間が長すぎたのかもしれない。

 つーか何なんだよあれ。

 俺と同じ年ぐらいのミアですらでっかい鳥に変身したんだけど。

 しかも存在を確認しちゃっただけでも大事件なのにママとかパパとかもいたんだけど。

 何なのこれ、不死鳥一家?

 冷静に考えなくても普通に歴史的大発見なんじゃねーのマジで。

 不死鳥・母?

 不死鳥・父?

 人類にそんな言葉存在しねえだろ。

 事実がどうあれもう考えんの面倒くせえわ、取り敢えず帰って飯にしたい。あと風呂入りたい。

 そのためにはまずマスターのとこに顔を出さなきゃならねえんだよな。

 ったく、事務処理ばかりで世知辛い世の中だぜ。

「ういーっす」

 というわけで集会所こと冒険者組合に帰還。

 それなりに人で賑わう中でまだ職員がいる時間なため例によってカウンターの向こうで在庫の集計でもしているのか視線を上下左右に行き来させながら用紙にあれこれ書き込んでいるマスターの所に向かった。

 これまた例によってその向かいには仕事終わりっぽいバレットさんとジェニーさんが一杯やっている。

 三人が揃って俺の声に反応し、こちらを向いた。

「ようレオン、遅かったな。ちゃんと仕事は終わったのか? つーか随分とボロボロじゃねえか」

「怪我してるのレオン?」

「まあひとまず座れよ」

「あざっす。怪我とかは大丈夫っす、散々な目に遭いましたけど」

 俺も俺でいつもの光景、いつもの雰囲気にホッと一息。

 言われるまま二人の隣に腰を下ろしつつ基地で貰った完了証明書をオヤジに手渡した。

「ご苦労だったな。これで晴れてランクアップだ」

「ああ……ありがとさん」

「どうしたよ、やけにテンション低いじゃん」

「レオンはお疲れなのよ、山歩きした後なんだから」

 どうやら二人は俺の仕事内容まで把握しているらしい。

 とはいえテンションの低さと疲労度はあんま関係無いんだけど。

「お二人と、おやっさんにも聞いて欲しいんですけど……」

「どした? いつになく神妙な顔しやがって」

「俺……不死鳥に会った」

「……は?」

「え?」

「ああ? どういうこったレオン」

 揃って面食らうという当然の反応。

 とはいえ一人で抱え込む器量はないし、そもそも予告無く襲来されちゃ国家を巻き込みかねないぐらいに不味い事態になりそうなので事前に相談ぐらいはしておかなければなるまい。

 そんなわけで周囲に聞かれないように警戒しつつ、俺は何とか山脈での出来事を順に説明していった。

 足場が脆くなっており、それを知らないし知らされてもいなかった俺は事故で崩落に巻き込まれ崖を転がり落ちたこと。

 その際に意識を失い、目が覚めた時に不死鳥の子である少女に介抱してもらっていたこと。

 何故かそのまま家に案内されて飯まで食わせてもらったこと。

 そこには母親がおり、話には父親も出て来たこと。

 その辺りだ。

「マジで言ってんのか……」

「お前それすごいことだぞ」

「ていうか、存在自体眉唾物だって言われてるのに家族で生活してるんだ」

「レオン、そいつも報告したのか?」

「いんや、絶対面倒なことになりそうだったからしてない。依頼は周辺の調査だけだろ? 事故とはいえ立ち入り禁止エリアに行って、そこには本当に不死鳥がいました、なんて関係ない話だし」

「ま、そりゃそうだがよ……だからって俺に振られても困るぜオイ」

「で、こっからが相談なんだけどさ……その不死鳥の女の子が俺んところに遊びに来るって言ってるんだけど、それって許されるの?」

「また偉いことを言いやがる……どういう経緯でそうなるんだ」

「いやあ、人間界に行ってみたいって本人が言うからさぁ。こっちも助けて貰った手前拒否も出来んだろ?」

「言いたいことは分からんでもないが、大騒ぎになるぞ」

「いや、そうは言っても変身しなければ見た目は人間と変わんないっすよ」

「「マジ?」」

「俺もびっくりでしたけど、ママさんも含め聞いてなけりゃ人間にしか見えないっすもん。帰りに送ってもらう時に綺麗な鳥に変身して、その時初めて『ああ本物なんだ』って思い知らされた感じで」

 興味深そうに聞き入っているバレットさん達とは対照的に、マスターは大きな溜息を吐いた。

 そんな重大な事案を持ち込むなと言いたいんだろうけど、他にアテが無いんだもの。ごめんよおやっさん。

「はぁ~……どう考えても俺の手には負えんな。城に相談しにいってくれ、フィリップ大臣か騎士団長、副団長のいずれかに相談すれば何らかの沙汰が下るはずだ。大事になりそうなら陛下やお偉方にも話が通るだろう。ここまでの話じゃねえが、俺だけじゃ判断出来ない事案を持ち込むことは過去にも何度かはあった。聞いた話が事実なら襲撃のために来るわけじゃなさそうだし、国としても何事も無く済んでくれれば御の字だって具合で大騒ぎにはしたくないだろうよ」

「面倒くせえけど、明日にでも行ってくるか……つーかおやっさんが報告してくれりゃいいじゃん」

「意図して報告書に書かなかったんだ、そのぐらいは受け入れるんだな。どのみちこの国、この町に遊びに来るんだとしても目当てはお前さんなんだ。俺が代わりに行ったところでその後お前も呼び出されるだろうから結果は変わらん」

「そりゃそうか……」

「俺達ですら半信半疑のままこんな反応なんだ、まともに取り合ってもらえるとも思えんがな。だからお前に一つだけアドバイスをしておいてやる、面倒を避けたいなら極力話を持っていく相手は大臣にしろ」

「……なんで?」

「そういう要件じゃ中々団長殿には取り次いでもらえない。フィリップ大臣なら一応ではあるが、冒険者組合も管轄に含まれる。それが国益に適うなら穿った見方をせずに検討、対応してくれるはずだ。例えそうでなくても副団長だけは絶対にやめておけ」

「副団長? ってのはそんなに不味いの?」

 団長、副団長といえばこの国の騎士団、通称|聖護穣軍《聖護穣軍エスペランサー》のトップとナンバー2だ。

 そのフィリップ大臣とかいうのも含め勿論俺は会ったこともないし、何なら多分見たことすらないので『絶対に』とまで言い切る理由なんて当然分からない。

 その理由を説明してくれたのは隣で葡萄酒を口に含んでいたジェニーさんだ。

「知らないのレオン? あのオークウッド副団長は冒険者を毛嫌いしているのよ。何があっても冒険者への協力はしないって有名なんだから」

「ああ、A級パーティーであろうとS級の冒険者であろうと取り付く島もなく門前払いされるって話はよく聞くよ。親の仇だとでも言わんばかりの軽蔑や侮蔑の眼差しと悪態だけを貰って帰って来るんだ、誰もがな」

 どうやらバレットさんも噂程度には知っているらしい。

 それどころかジェニーさんに至っては実体験が混じっていそうだ。

「私も何度か会った事があるけど、ほんっと嫌な女よ。ゴミを見るような目ってこういうのを言うんだって思ったもん。嫌味と皮肉ばっかり言ってこっちの話聞く気ないんだから」

「まあ、お前らの立場じゃそう思うのも無理はねえやな。人伝に聞いた話だが、国に仕える兵士と違って仕事を選べる上にヤバくなったら逃げることだって許される冒険者が幅を利かせたり英雄扱いされるのが気に入らんのだとよ」

「なるほど……ねえ」

 マスターの話は双方の言い分を聞けるだけ何だか説得力があるようにも思えるが、要するに嫌な奴ってことには変わらないわけね。

 その副団長とやらか何とか大臣か。

 相手を選んで取り次いで貰えりゃ話は早いが、そうでない場合に確率は二分の一。

 何で俺がそんな面倒なギャンブルをする羽目に……。

「とはいえ、どうなるかも分かんないうちに来られたら確実に不味いことになるもんなぁ……」

「そういうこった。それからこの話はこれ以上誰にも漏らすなよ、お前が裏社会の連中に攫われるぞ」

「マジかよ」

「バレットもジェニーも他言無用だ。余計な混乱を招くだけだろうし、国内外で良からぬことを考える馬鹿が確実に増える」

「分かってるって」

「そもそもそんな話を人にしたところで信じられないわよ」

 ほんと、ただの夢であったらどれだけよかったことやら。

 いや命を救ってもらったことには感謝だし二人とも良い人だったけどさ。

 こんな俺がCランクに上がった人生のハイライトみたいな日だってのに、何でげんなりしなきゃならんのか。


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