【第二十一話】 ソロ任務
「さて、レオンの門出を祝うのは正式に届け出が受理されてからでいいだろう。そろそろそのために必要な話をしてもいいか?」
話が一段落したタイミングで、組合長が咳払いによって話題を引き戻した。
そうだ、俺ぁそのために来たんだった。
うっかりティーパーティーを楽しんで帰るところだったわ。
「その言い方だとちゃんと都合してくれたと思っていいのかおやっさん?」
「ああ、余計な残業の甲斐あってな」
「そう嫌味を言ってくれんなって。この借りはいつか働きで返すから、たぶん……きっと、そうなるといいなぁ」
「どんだけ自信がねぇんだ働くだけのことで。んなもんは期待してねぇからお前は無事に帰ることだけ考えてろ」
「へいへい。で、俺は何をすりゃいいんで?」
「ジェニスが仲立ちした荷運びの依頼はダクス町まで、それも往復じゃなく片道だろう?」
「ああ、そう聞いてるけど」
「ならそっちで一個仕事をこなしてこい。それでよしとしてやる」
「ちなみに……どういう仕事? 出来れば楽で苦労もなくて何もしなくても大金が貰えるやつがいいんだけど」
「んな仕事があるか、冒険者ナメんな。ダクスからすぐの所に国境警備の基地があるだろ。その先に何があるか、知ってっか?」
「何がって、あの立ち入り禁止のでっけえ山?」
「そうだ。グルートス山脈、通称不死鳥の住処ってやつよ」
「名前ぐらいは知ってっけど……」
不死鳥。
むしろ名前を知らない奴なんていないだろう。
ウン百年前に存在したらしいという噂以外の話を聞いたことがある奴もそうはいないだろうけど。
所謂都市伝説の類で、実際に存在したかどうかも分からん伝説の一つだ。
その中でもそれにちなんで名付けられた武器や装備品があることからもまだ名を耳にする頻度だけは一番高くはあるのだろうが、俗に言う五大頂上生物として共通認識を得る最強最悪の化け物と広く知られている怪物である。
不死鳥=フェニックス
白銀龍=エンペラー・ドラゴン
魔王=ダーク・ロード
混沌の魔女=カオス・ウィッチー
そして死神=グリム・リーパー
人間を除外すればこの世で、世界の歴史で最も名の知れた危険な生物……とのことだが、ぶっちゃけ魔王以外の姿など過去百年に遡っても目撃証言の一つもない。
ゆえに実際存在するかどうかも分からない空想の生物とまえで言われているわけだ。
他にも支配する者などと揶揄されるどこぞの女帝や、侵略者として賞金を懸けられているホーリーIだのクロスKだのナイトレオだのブルーノ、ミス・オードリー、DJなどなど悪党も含めれば化け物みたいに強い人間の噂も色々と聞こえてくるが、とにかく種族問わずで言えばダントツでやべぇ奴等だということだ。
しかし、ナイトレオって格好良い名前だなぁ。
同じレオの字を持つ俺とは雲泥の差だ。全然関係無いけど。
とにかく、だ、
その一角である不死鳥。
言うまでもなく俺はどんな姿形をしているのかは知らないし、自分には関りもないことだと特に気にしたこともいなかったけど、確かにそれはこの国の国境を跨ぐように連なる山に存在すると言われてはいる。
言われているだけで事実がどうかは誰もしらないらし、過去にいたとして今もそうなのかも一切不明なのだが……おやっさんの言う通りそういうもんが存在することだけは間違いない。
「その山の見回り調査だ。何か異変があれば報告する。対処するんじゃなく報告するだけだから楽なもんだろ」
「えぇぇ……何のためにそんなことすんのさ~」
「お前が知っているかどうかは分からんが、不死鳥と呼ばれる何者かは百年以上前に国家連合との協定を結んだ。住処であるグルートス山脈に立ち入らず、干渉しない。代わりに不死鳥は国家、組織、種族の争いには関与しない。そういう協定だ」
「んなもん都市伝説じゃねえの? ほんとに実在すんのかよ、誰が見たことあんの?」
「するからこそ成立してるんだろうよ。他の頂上生物にだって大昔でこそがるがはっきりと目撃された例があるんだ」
「ほんとかよ」
「お前にとっちゃ作り話と大差ないかもしれんがな、国にとっちゃ重要な仕事だ。いい加減な仕事はしてくれるなよ」
「そんな大事なことなら普通騎士団の連中がやるもんじゃね? 何で冒険者に……」
「ま、言ってしまえばその通りなんだがな。昔から二か月に一度の見回りを徹底しているんだが、理由は言わずもがなこの国の誰かが馬鹿をやって人類が滅亡の危機に、なんてことになりゃ洒落にもならんからだ。とはいえ十中八九何が起きることもない。ゆえに国境に派遣されてる連中もやりたがらねえ。だから国から冒険者への依頼に加えたのさ。当時から冒険者を路頭に迷わせないために国からの依頼を増やす政策はあって、その一環でもあったらしい。冒険者も立派な国の財産だからな、今の副団長は少々アレだが……」
「副団長? 騎士団の? それが何かあんの?」
「知らないのレオン? 今の副団長って冒険者嫌いで有名なのよ」
と、補足してくれたのはジェニーさんだ。
知らないのと言われても騎士団の連中と関わることなんてない俺は勿論知らない。
何なら名前も顔も知らない。
「へぇ……まあ会ったこともないし会うこともないだろうからどうでもいいですけど」
「それはともかくとして、だ。国境基地にこの書状を持って行けば立ち入りの許可が得られる。山に入って麓付近をぐるっと一周するだけだ、奥にまでは入らなくてもいい。ルートなんかを記した地図もそこでもらえるはずだ。んで、その際に見た物を報告書として文面にまとめて提出するだけの簡単なお仕事さ」
「つまり危険性はないってわけだな」
「基本的にはな。魔物もいねえが、稀に人が出入りした痕跡が見つかることもある。大概は盗賊やら汚れ仕事専門の連中だがな」
「盗賊が何するんだよ、そんな場所で」
「それこそ都市伝説だが、不死鳥の血を飲めば不老不死になれるだとか、エリクサー同様にどんな怪我や病も治すだとかって話があるらしくてな。金に糸目をつけない貴族なんかが裏ルートで手に入れようとしたりするんだとよ。闇市じゃたまに出回るらしいが、どう考えても偽物だろってブツでも数十万ディールで売られてる。いくら認可もされてない犯罪者共の巣窟だとはいえ、何でもアリにも程があるだろうとは思うがな」
「数十万って……一生遊んで暮らせる額じゃねえか」
「一生は無理でしょどう考えても……どういう生活してんのよあんた」