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【第十八話】 Dランク



 明日以降、何日かに分けて合流するという段取りを最後に確認し俺達は散り散りに今現在はただの廃村と化している故郷を離れた。

 事前の決定通り、アルとネルの兄妹は俺と共に王都への帰還である。

 ネルは俺と共にカロンに跨り、国外から来たアルは馬を持ち込んでいないためネルが乗って来た馬に乗って来た道を辿っていく。

 やがて王都に戻った頃にはすっかり日も暮れていて、町中の人通りも少なくなりつつある時間帯だった。

 冒険者証を提示して城門を潜り、身内という説明で通したものの二人分の通行税を俺が支払ったため懐が大ダメージです。

 そのまま我が家に直行し、二頭の馬を繋いで水と野菜をやると半日ぶりにオンボロ屋敷へと帰還する。

 暴風で飛びそうなボロ屋と質素な屋内を見ても二人に特に不満や幻滅を抱いている様子はない。

「すまんな、こんな家で。一人暮らしにゃ十分だったから特に拘りも無かったもんでよ」

 一階には個室なんてないので荷物を置くのは俺の寝室である。

 階段を上りつつ、気を遣わせちゃ面目もクソもねえと一応謝っておく。

「謝られる理由なんてないですよ。むしろ贅沢を目的としていないことが分かるだけ好感が増したぐらいです」

「そうそう。他所の女を連れ込んだりもしてなさそうだし、あたしも一安心だもん」

「連れ込む女なんざいねえっての」

 そして贅沢する金もねえっつの。

 二人揃って贔屓目が過ぎるというか、何でも肯定的というか。

 ちょっとぐらい叱責の一つでもあった方が俺も目が覚めるだろうに。


『見損ないましたよ兄さん』


 とか言われたら本気でへこむけんだろうけど……結局はそれも自業自得だしなぁ。

 間違っても胸を張れる要素が何一つ見当たらない自覚があるだけに。

「ここが兄さんが暮らしていた部屋ですか」

「大して物も無いし、面白味も無いだろ? ほとんど寝るだけの部屋だしな」

 寝室に入ると、荷物を脇に並べるアルはどこか感慨深げに狭い室内を見渡している。

 対してネルは迷わずベッドにダイブしていた。

 布団干したばっかでよかったわ~。

「レオ兄~、さっそく子作りする?」

「するか、こんな日が沈みもしない内から。いや時間関係ねえけど……スカートを捲るんじゃない」

「ぶー、あたしだってもう成人してるんだからね? 生まれついてのレオ兄のお嫁さ……性奴隷なんだしさ」

「……なんで悪い方に言い直したの?」

 馬鹿なの?

「それでは僕は夕食の買い物にでも行ってきましょうか?」

「待て待て、空気を読まんでいい。しないから」

「そうですか……」

「お前まで残念そうにするんじゃないよ。誰かが歯止めを掛けないと延々こんなテンションのまま過ごす羽目になるんだぞ」

「僕としてはエレンやあの二人以外とくっつかれる方がショックなのでまあいいかなぁと」

「仮にそうだとして、色々と先走り過ぎだって話だよ。まだ王都の立地も分からんだろうし今日の買い物は俺が行ってくるから二人はゆっくりしてな。長旅だったろうしさ」

「あ、じゃああたし掃除とかしてよっか? 花嫁修業と思って使用人やってたおかげで家事スキルめちゃくちゃ上がったし」

「そりゃ助かるが……どうせすぐ引っ越すんだろ?」

「数日だけでもレオ兄に褒めて欲しいじゃん?」

「どのみち当面は色々準備する時間になるだろうし、明日以降で気が向いたら頼むよ。そんなに気を遣わんでいいから二人は適当に過ごしていてくれ」

「僕も行きましょうか?」

「いや、冒険者組合にも顔出さなきゃならんし一人でいいよ。パーティーの件もあるし……」

 ……あれ?

 そういえば、パーティー申請ってCランクからじゃないと駄目じゃね?

 俺ってDランクじゃね?

 これってヤバイんじゃなーい?

「兄さん?」

「あ、ああいや、あまり遅くなると組合長が帰っちまうなーと思ってさ。っつーわけでちょいと行ってくるわ」

 冷や汗ダラダラで取り繕う俺。

 パーティーを組む提案をして、その上リーダーまで拝命しておいてランクが足りないから駄目でした、代わりにやってくださいってのはダサ過ぎる。

 そんなことになればいよいよあの頃のままだと信じている皆の俺を見る目も下落を始めてしまうのではなかろうか。

 別にそんな見栄にもなっていない虚像を守りたいとは思わないが、せめて少しずつバレて欲しい。

 百からゼロに落ちるのは誇りもプライドもない俺だってキツイ。

 化けの皮が剥がれるのとガル兄やアイシス達の頼りになるっぷりが健在であることが露呈していくのが同時進行してくれれば皆の落胆やどうすんのこれ感も薄れるじゃん?

 そんなわけで家を出た俺は真っすぐに集会所に向かう。

 買い物なんて後だ後。

「おやじいいいい!!!」

 お疲れであろうカロンを使うのを躊躇い、こうなりゃヤケだと猛ダッシュで冒険者組合本部へとやってきた。

 外は暗くなっていることもあって散らばるテーブルにも冒険者の姿は多くない。

 何かしらの依頼について打ち合わせでもしているのだと思われるパーティーや集会所にありがちな安酒を煽っている中級以下の冒険者がちらほらいる程度だ。

 こんな時間にもなれば職員も少なくなり、親父ことギルマスも一息吐けるタイミングとして大体一杯おっぱじめる頃合いである。

 案の定カウンターの向こうでエールを片手に片付けをしている親父を見付けると、俺は一直線に詰め寄った。

「誰が親父だバカヤロウ。というかいつ帰ったんだレオン、今日は墓参りに行くっつってたろ」

「帰ったのはついさっきだ。んなことよりマスター、今すぐ俺をCランクに上げてくれ!」

「どうした急に。色々と話をすっ飛ばし過ぎだ、まず落ち着け」

 ほらよと、マスターは水が入ったコップを出してくれた。

 走って来て息も切れ切れだったのでマジ助かる。

 ひとまず一気に飲み干し、大きく息を吐いたところで本題の再開。

「パーティー作ろうと思ってるんだけど、よく考えたら俺Dランクだから申請資格ねえってことに気付いてさ」

「お前らしくもないことを言うじゃねえの。今まで一切そんな素振りなかったろ? ランクだの功績だのには見向きもせず、細々と依頼をこなしていくってのがお前のスタンスだったはずだぜ?」

「それを否定はしないけどな、俺ももう十八だ。そろそろ一本立ちしたいってのもあるし、今のまま冒険者続けたって先も見えてるてのも理由の一つなんだけど……それよりも悠長にしていられない理由が出来ちまったもんでさ……」

「ほう?」

 不思議そうにしているマスターは続きを待っている。

 時間ならくれてやるからちゃんと説明してみ? という優しさが目に見えるナイスガイ……いや、ナイス親父っぷりだ。

 そんなマスターに素知らぬ顔で嘘を吐くのは少々心苦しいのだが、かといって故郷の村のことから説明するわけにはいかないので致し方あるまい。

 というわけで事前の計画通り、アルとネルという二人の親戚の面倒を見なければならなくなったこと、そのためにその日暮らしをやめて生活基盤を構築したいという旨を話して聞かせた。

 墓参りに行くと伝えてあっただけに、いきなり親族の問題が降りかかったことへの信憑性も増してくれたのかマスターに疑う様子はない。

「なるほどなぁ……お前の何だかんだ苦労が絶えない男だな」

「言わずもがな俺一人じゃ高ランクの依頼もこなせないし、魔物と戦う術もないからな。その辺を補うにゃ個人で続けるには無理があるって話でさ」

「それはそうだろうが、バレットの所にでも入れてもらった方が話は早いんじゃねえのか?」

「ただでさえ特に必要の無い仕事を貰ったりしてんだ、これ以上迷惑は掛けれないだろ。俺に加え従弟二人の面倒見てください、なんてさ」

 あとゴミみたいな先輩が約二名いるストレスに耐えられません。

「うーむ……」

 顎鬚をじゃりじゃりと撫でるマスターは難色を示しているというよりは純粋に心配してくれているのだろう。

 俺に戦闘能力が無いことなど当然知っているのだ、より大きな危険に自ら首を突っ込む意味を理解出来ないはずがない。

「何もバリバリ魔物や山賊を狩ってやろうだなんて思っちゃいないさ。俺はどちらかというと運営だとか依頼人とのやり取りだとか、そういう裏方であったり纏め役に回る。そのために俺が立ち上げ人になる必要があるってだけだ。ちゃんと戦闘には戦闘向きの人員を勧誘してあるし、無駄に危ない目に遭うような真似はしないって」

「それならいいが……ちなみに勧誘ってのは誰を誘ったんだ?」

「それはおいおい王都にやって来るだろうからその時に紹介するよ。んで? 今すぐ俺をCランクにしてくれるってことでいいか?」

「いいわけねえだろ、法律と規約をナメんな。ポスティリオンとはいえ何年も冒険者やってんだ、こなした依頼数自体は足りてる。あとは上のランクの依頼を一つ達成すれば昇格の条件は満たせるはずだ。個人、或いは三人以下ならCランクの依頼を一つ、パーティーとしてなら三つ。問題なく達成出来ればそれでオーケーだがどうする」

 個人から二人組、三人組での活動の場合、自分のランクの一つ上の依頼まで受けることが出来て、パーティーの場合は基本的に個人ではなくパーティーのランクまで、組合長の許可が出るか緊急性であったり重要性が高く国からの要請があった場合などには一つ上のランクのまでは受諾することが出来る。そういうシステムだ。

 勿論俺はCランクの依頼なんて受けたことない。

「……ササっと明日一日で終わるようなのって、ない?」

「中身によるだろうが、そもそも明日はジェニスの紹介で仕事があるんじゃなかったか?」

「あ……そうだった」

 完全に忘れてたわ~。

「ったくお前は……どのみち今日はじき店じまいだ。その辺も含めて明日までにゃ見繕っといてやるから朝また顔出せ」

「おっす、苦労かけて済まねえなオヤジ」

「誰が親父だバカヤロウ」

 ひとまずどうにかなるのかならないのか。

 まあこの人がそう言った以上悪いことにはならないだろう。

 取り敢えず明日の仕事も頑張って、どうにか全員が集まるまでにランクアップせねば。




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