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【第十七話】 そして現実へ


 墓標を離れて数分もすると徐々に麓が近付いて来た。

 俺の話が終わるとやはり一同は思い出話に花を咲かせ、完全にピクニック気分である。

 誰も彼もが命を捨ててでも本懐を遂げると息巻いていたというのに、ものの数分で笑い合えるって切り替えはええなぁ。

 うん、そうだよな。

 どうなるかも分からない未来のことで悩んでたって仕方ないよな?

 俺一人で頭を抱えてたってどうにもならんさ、きっとそうだ。

「それはそうと、ジョズやはっちゃんって今どうしてんの? 連絡を取らないようにしてたってのは理解したけど、どこにいるかとか誰か知ってる?」

 そんなわけで俺も談笑に加わる意味で話を振ってみる。

 ジョズ、そしてはっちゃん。

 この二人もこの場に居る七人以外でいえば一応は村の子供に数えていいのではないかという存在である。

 一人はジョズことジョゼス。

 俺達が離散することになった事件が起きる二か月程前に家族ごと引っ越していった一つ年上の男の子だ。

 あまり社交的な性格ではなかったが、みんなが強引に誘うもんだから結局はいつも俺達に加わって遊び回っていたし、内向的というわけはなかったので本人も最後にゃ泥だらけになって笑っていたので無理矢理に付き合わせていたというわけでもなかったと思う。

 父親が元騎士だという話で、負傷退役の療養のために一年ぐらいこの村にいて、親父にしごかれながら毎日剣を振っていたっけな。

 始まりは半ば無理矢理この輪に引っ張り込まれていた感はあれど、やっぱり友達であることに違いはない。

 のだが。

 話を振ったその一瞬、微かながら空気が変わった気がした。

 いきなり会話が止んだというか、ピリっとしたというか……いや、見た目に特に変化はないんだけど。

 はっきりしてるのはガル兄がなんか気まずそうにしているってことだけだ。

「あれ? なんか俺おかしなこといった?」

「ジョズに関しては僕も行方を追ってはいたのですが、念のため人を頼らずに一人で調べていたのでまだ確証的なことは。分かり次第改めて僕からご報告させていただきますよ」

「あ、ああ。別にどうしてんのかなーって思っただけでどうにかして探し出そうぜって話でもないから深く考えんなよ?」

「承知しました」

 大人になったアル。

 服装も相俟って口調や態度が落ち着き過ぎだろ。

 もはや第三者が見たらあっちが年上に見えてもおかしくないレベル。

 いやそんなことはどうでもいいとして、続けた疑問でガル兄が気まずそうに目を逸らした理由が明らかになった。

「で、はっちゃんは?」

「今は……俺が借りた宿に」

「え? 連れて来てんの?」

「兄さん、はっちゃんさんとガルさんは去年結婚なされたんですよ」


「「「マジで!?」」」


 クロ、ネルと声が被る。

 ついでにフィオ姉やアイシスも同じく口をあんぐりしていた。

 当のガル兄は照れくさそうに頬を掻いてやがる。

「まあ、そういうことだ」

「人の事散々茶化しておいてあんたが先に結婚しちゃうのかよ!?」

「なはは、バレたらやり返されると分かっていたから先にからかってやったまでよ」

「ざけんな! 俺のノーコメントを返せ!」

「何を言ってもノーコメントだった奴に何を返せと。いや、年に数度手紙をやり取りしていたアルにしか報告する相手がいなかってだけで隠そうとしていたわけじゃないんだぜ? せっかくなら今日会って直接言おうと思ってな」

「じゃああたしとレオ兄の結婚と一緒にお祝いしなきゃね」

「いや私とレオンの式が先だ」

「どう考えても最初に既成事実を作ったウチが正妻だろうが、弁えろ側室軍団」

「誰が側室軍団だ!」

「ええい、いちいち喧嘩すんじゃねえ。俺のサプライズ報告が台無しじゃねえか、なあレオン」

「……ノーコメントで」

「結局それかい。まあいい、そこで報告ついでに相談なんだが新居を探してみんなで暮らすなら連れてっていいだろ?」

「そりゃはっちゃんなら構わないけど、俺達がここに集まった理由とか経緯を知ってんの?」

 はっちゃん。

 本名はハンナ・コニーズ

 言ってしまえばガル兄の従妹である。

 歳はガル兄の一個上。

 父親がこの村の出身で、俺達が物心付く頃には商人として他の町に移住していた。

 それでいてこの村のために月に一度は商品を届けてくれていて、その度に二、三日は泊っていたためここにいるみんなとも当然仲良し。

「結婚前にちゃんと話したよ。ついていくって、復讐のために生きたのだとしても、この先もそうあるつもりだとしても、最後まで傍に居るって。ちなみに腹にゃ俺のガキもいる」

「良い子だなぁ……ガル兄には勿体ない」

「ええ、本当に。あの子の気立てなら相手も選べたでしょうに」

 フィオ姉もうんうんと頷いている。

 勿論そんなほのぼのした感想だけでは終わらないのがこの面子である。

「商人ってのは目利きが全てだってのに、敢えてゴリラを選ぶかね」

「商人の娘だからこそ喋るゴリラに目を付けたんだよきっと」

「やかましいぞ後ろ二人。あいつは俺の話を真剣に聞いてくれて、お前達の境遇を聞いて泣いてくれてたよ。だからこそ俺もあいつを受け入れた、束の間の幸せであったとしてもな。住む場所も決まっていない現状を考えると今日明日にってわけにはいかんだろうが、反対がなければこっちでの暮らしが落ち着いたら呼ぶつもりだった。どうなるか分かんねえってんでまだはっきりとそれを伝えてはいないんだが、みんなもいいか?」

 勿論反対意見などない。

 とはいえ、俺がそうさせないつもりでいるにせよ俺達と共にあるというのは危険が伴うことも事実。

 そこの線引きだけはしっかりとしておかねば。

「はっちゃんと子供を巻き込むわけにはいかないから冒険者パーティーには組み込まない方向でいいか? 一緒に暮らすのは構わないから」

「ああ、助かる。あいつも早く皆に会いたがってたからさ」

 へへっと。

 また照れたように笑いながら頬を掻くガル兄は世間で言われるような孤高のゴリラ……じゃなく野蛮人なんて評判とは程遠い温もりと人間らしさに溢れている。

 しかしまあ、これから始まろうとしている新しい生活は、思っている以上に賑やかになりそうだ。



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