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【第十五話】 方針


「冒険者をやる意味は理解しましたけど、具体的な方針というか、まず取り掛かるべきはどういう活動になるんですの?」

 ひとまず冒険者パーティーを組む、という方針には納得してくれた一同。

 みんなとはきっと方向性が違っているんだろうけど俺だって何もかもを忘れたわけじゃないし、そうでなくとも俺達をここに集めた復讐心や憎しみ、そして誓いの光景を無下にする勇気は俺にはない。

 軽蔑されたくない気持ちが半分。

 諦めろと、もう忘れろと、言ってしまえる自分になりたくない気持ちが半分といったところか。

 ゆえに戦闘で役に立つことも出来ない俺は陰でこのチームを支えつつ上手く操縦し、最終目標としてこの領地を奪い、故郷を取り戻すという目標を実現させるべく心血を注ぐ。

 それが唯一俺に担える役目であり、無謀な討ち死になんてさせないことが曲がりなりにも家族と呼んでくれるみんなに報いる唯一の方法だ。

 暴走させず、それでいて復讐心を満たせる道はこれしかない。

 どれだけ途方もなく困難な道であっても、散々堕落した生活を送ってきた俺のけじめだと覚悟を決めよう。

 そんな決意の下、フィオ姉の疑問に少し考えながら必要事項を頭で纏めてみた。

「全員が王都に来るのならまずは拠点を用意しなきゃいけない。といっても個々で生活するのか皆で暮らすのかにもよるんだけど……」

「みんなで暮らすに一票!!」

「僕もエレンに同意です」

「勿論そうするべきですわね。せっかく集まったのですから」

「今更ってもんだぜレオン。離れ離れになっても俺達は死ぬまで家族だと誓い合ったじゃねえか」

「うむ、ガルバの言う通りだな」

「ま、ウチはレオンさえいれば最悪他はどっちでもいいが」

「「「おい」」」

 最後のはともかく、満場一致ということらしい。

「ならその方向で家を探すとして、あとは最初にパーティーの申請をすることからかな。俺とガル兄以外はそもそも冒険者ですらないわけだし、数日のうちにそっちも済ませていかなきゃ話が進まない。申請はリーダーのガル兄にしてもらうとして……」

「おい、ちょっと待てレオン」

「お? どした?」

「リーダーは俺じゃないだろう。お前がやるべきだ」

「は? 俺?」

 なんで?

 俺ただのDランクだぞ?

 ネルより弱い上に一人じゃゴブリン一匹倒せないよ?

「さっきお前が言ったことだろう。俺達が成り上がり、本懐を遂げるために最も必要なのは情報と戦略だと。俺ぁ考えるよりも先に体が動くタイプだ、お前みたく先を見通したり難しいことを計算して人を動かすなんて真似はどう頑張ったって出来る気がしねえ。こん中で一番頭が良くて、俺達の誰よりも勝負ごとに強くて、知略謀略で相手を上回る才能があって、命を預けるに足るのはみんなを導けるお前しかいねえ」

「いや、さすがに持ち上げすぎだろ……」

 思い出補正も甚だしい。

 勝負ごとに強いったってガキの遊びにおいてはって話でしかないし、知略謀略で負けなしだったのなんてかくれんぼとかチェスだけだしよ。

「そうでもねえさ、昔からみんなが思ってたことだ。そうだろ?」

 ガル兄の言葉に、皆が異議無しとばかりに頷いている。

 そりゃあ本能のまま体が動くってのは昔もそうだったし、間違ってもガル兄が頭脳派になることはないと思ってはいるけども。

「俺にそういうのを考える役割を求めるのならそうするけど、別にリーダーである必要はないだろ? ガル兄は最年長で冒険者としての格も上なわけだから、率いていく身としては最適じゃないか」

「一利あると言いたいところだがな、正直そんな面倒くせえのは性に合わん。人に指示を出すとか、代表として誰かと話をするとか、考えただけで頭が爆発しそうになるぜ。だからそういうのはお前に任せる、俺はお前の指示に従い先陣切って敵をぶっ潰す特攻隊長ぐらいで丁度良い。気が楽だしな、何ならもう一回多数決でもするか?」

「いや……なんかもう結果が見えたからいいわ。みんなに異論がないならそれでいい」

 だいぶ思ってたのとは違う展開だけど、まあ俺がやろうとしていることを実現させたいと考えるならやりやすいといえばやりやすい……か。

 どうせ俺に特攻隊長は無理だしな。

 結局次々に同意の言葉が飛び交い、俺がこの一家のリーダになってしまった。

 今朝までの暮らしを振り返ると大した出世である。いや、まだ何もしてないけど。

「なら今日のところは段取りの確認だけしておくぞ。まずは全員王都に来るにしても二、三日の間で、タイミングはずらして集まってくれ」

「どうしてですの?」

「各地から同じ日に集まった連中がパーティー作るとどうしても目立つし、背景を気にする奴が出てくるかもしれないからだよ。すぐにはそうならなくても、ガル兄やフィオ姉がいるってだけで注目されるだろうし、いずれある程度の知名度や地位を手にした後なんかに探ろうとする奴が現れないとも限らないからな。俺達がこの村の出身であることは絶対に誰にも明かしちゃならない。それがバレればまた帝国に命を狙われる可能性もある、そうなった時にこの国が守ってくれたりはしないと痛い程知っているだろ? だから今日この日以前の関係性は隠し通すこと、それが最初の方針だ。ガル兄、フィオ姉、クロ、アイシスはどこかしらでたまたま出会って、その時に各々が勧誘を受けたということにでもしておけばいい。アルとネルは戦闘職じゃない分その理屈じゃ不自然だろうから俺の親戚ということにでもしておこう」

「「おお~」」

「「おお~」」

「……え? 何?」

「いやあ、何つーか俺達のレオンが戻ってきたんだなぁって感心と感慨深さが胸にきたぜ」

「ガルさんの仰る通りです。この一瞬でそこまで考えていたなんて、さすがは兄さんと言う他ありません」

「さすがはウチの旦那だぜ」

「あたしのダーリンだし」

「いや私の夫だ」

「貴女達……」

「だから……そんなに無条件で持ち上げられるとやり辛いっつーのに」

 女子三人に呆れるフィオ姉はともかく、みんなして『やれば出来る子だって信じてたぜ』みたいな顔してんじゃねえ。

 アルに至っては目ぇ輝かせてるしよ。

 こんなん一瞬で考えたわけないだろ。冒険者パーティーを組むって決まった時から必死に頭回転させてたんだよこっちは。

 あの頃のイメージで止まってしまっているのは仕方がないけど、今でも活発で皆の中心なガキ大将のままだと思われても困るっつーの。

 プレッシャーが増すからほんと勘弁して。

「はぁ……言っても虚しさが増すから今はもういいや。で、次は家探しの件だけど、それは皆が集まってからでいいか」

「ちなみにだが、どういう条件の物件がいいんだ?」

「王都の中で探すにしても都市部からは少し離れていて、地下に貯蔵庫があって、馬がいるから庭付き、が最低条件だな」

「立地や庭は分かるが、地下の貯蔵庫ってのは必要条件なのか?」

「隠したいもん隠せる場所が欲しいってだけだけどな。やろうとしていることを考えると見つかったら不味いもんも多々出て来るだろうし」

「なーるほど」

「そんなわけで二、三日の間に王都に集合ってことで。俺はそれまでにパーティー登録の申請をしておくから」

「わたくしは明日には着くようにしますけれど、問題はありませんわよね? 馬車いっぱいの荷物持って行ったり来たりするのも面倒ですし」

「フィー姉、そんなに大荷物って何を持ってきたの?」

「着替えですとか? お気に入りの鏡台やソファーですとか? あとは役に立ちそうな物を詰めるだけ」

「そんなもん持って国を跨ぐなよ……」

「僕達はこのまま兄さんについていきます。元々兄さんの家でお世話になるつもりでしたので」

「あたしもー」

「お前等は荷物は?」

「レオ兄の家に泊まる気満々で来たからバッグ二つぐらいだよ?」

「僕も同じく」

「じゃあ二人はうちでいいか。設定上違和感もないだろうし、つっても狭いから大したもてなしも出来んけど」

「全く問題ないですね。兄さんと一緒なら僕はそれで」

「なら俺とクロ、アイシスは二日後に合流するってことにするか。明日フィオが着いたら新居探しをしておいてもらえばいいだろう、皆で過ごすならどのみち広い家が必要だし先行して行動するぐらいが丁度いい」

「ちぇ、ウチもレオンの家に行く気満々だったのによ」

「これもレオンの戦略というやつだ。私も我慢するからここは堪えておけクロエ」

「わーってんよエロフ、ウチだってそこまで馬鹿じゃねえ。我慢に我慢を重ねてこの日を迎えたんだ、ヘマして足引っ張るようなボケナスになるつもりはねえよ」

「だ・か・ら……エロフと呼ぶなというに」

「落ち着けアイシス。口で計画を並べるだけなら簡単だんだが、ここで一つ大問題がある」

「問題? なんですか兄さん?」

「家を買おうにも……そんな金がどこにあるのかって話だ」

 言うまでも無く俺に貯蓄などない。

 皆は数年間働いていたみたいだけど、それでも大きな屋敷を買えるだけの蓄えになるかといえば……中々難しい。

 クロやアイシスも里や村で暮らしていたなら生活のために金銭を得る必要もないだろうし、希望があるとすれば高ランク冒険者のガル兄ぐらいだ。

 と思ったのだが、そこで口を挟んだのはフィオ姉だった。

「それなら問題ありませんわよ?」

「え? なんで?」

「わたくしの荷物には宝石も山ほど含まれていますもの。当面はそれを売ったお金でやりくりすればいいでしょう」

「マジで? つーか山ほどの宝石って、それどうしたんだよ」

「信徒の中でも貴族や商人として成功した方々が勝手に送ってくるのよ。下心ありきでしょうけど、貰う物だけ貰ってしまえばあとは知ったことではありませんわね」

「さっすがあたし達のフィー姉!」

「もっと褒めたたえなさい」

「それが本当なら助かるどころの話じゃないけど……いいのかフィオ姉?」

「構いませんわよ、使い道はレオンに任せますわ。どうせ何の思い入れもありませんし、二十近い数があれば家を買っても余るでしょうから当面は生活の心配も要らないですわね」

「分かった、ありがたく使わせてもらうよ。ってことでフィオ姉の金で家を手に入れて、その後は冒険者としての活動で生活費を稼ぐって方針でいこう。余ったからって使い切る必要は無いし、いざって時のために取っておくのが賢い」

「了解だ、ひとまずはフィオが体を張って稼いでくれた金に頼るとしよう」

「そうですね、フィオさんが体を売って稼いでくれたお金で」

「フィー姉が体で稼いだお金で」

「言い方!」



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