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【第十四話】 集結


 とうとうアイシスまでやってきて、七人全員が揃ってしまった。

 それによって喜びも割増しになっているのか、みんな和気藹々と談笑に興じている。

「さっきも言ったが、随分と色っぽくはなってもアイシスはあの頃とほとんど変わってないな」

「寿命が長い分、心身の成長速度も人族よりもゆるやかなのでな。秘めたる気持ちはお前達と変わらないつもりだし、いつだってあの頃と同じくお前達と共にあったぞ」

「おおう、騎士様さながらの男前っぷりは相変わらずだな」

「私はレオンの騎士だからな。そしてこの五年の間に精霊王様より正式に精霊騎士の称号を与えられた、つまりは本物の騎士になったのだ」

「ドヤ顔で言われてもよく分からんのだが、何だその精霊騎士ってのは?」

「エルフの里における最強の戦士に与えられる称号だ。この右肩の紋章がその証となっている、勇ましく威風堂々としたデザインだろう?」

「いや、確かに格好良いけども」

「それってつまりアイち~がエルフの中で最強になったってこと?」

「限りなく近しいと言えることに違いはないのだが、一概にそうとは言えないのが難しいところだエレン。知っての通りエルフの里は大小様々、世界各地にいくつもある。自分が会ったこともない連中よりも強いと断言する程に愚かではないさ、例え揺るぎない自信があろうともな」

 山の中にある墓前には緊張感の無い穏やかな空気に満ちている。

 どこまでも予想外は重なり、薄っすらとした予感に変わりつつあった光景は現実となった。

 まさかあの頃のガキんちょ集団が勢揃いするとは……今後どうなるんだこれ。

 居ないのってあの日以前に他所に移り住むことになったジョズとガル兄の従妹のハンちゃん、あとは一時的に保護していた異人の女の子ぐらいだ。

 あの悲劇を免れたのならそれに勝ることはないが、そもそも彼等は故郷の村が滅びた現実を知っているのだろうか。

 まさに俺達がそうであるように、憎しみや恨みを終生抱えたまま生きるぐらいなら知らない方がいいと思うし、出来ることならそうであってくれと願うばかりである。

 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 ネルやクロはどうだか分からんけど、それ以外は漏れなく目的が一致してそうなんだけど。

 今すぐにでも弔い合戦に出向かんばかりなんだけど。

 気持ちは分かる、勿論俺だって国王も女帝もこんな腐った国も全部死ね、消えちまえって思いながら何年か前までは生きてきたさ。

 とはいえ国や世のお歴々を恨む奴なんざ腐るほど存在するだろう。

 権力に、金に、暴力に大切な何かを奪われ失った者など数えきれないほどに溢れかえっているだろう。

 果たして歴史上、その中の誰が国や権力者を相手に復讐だの敵討ちを成し遂げたというのか。

 そりゃ何人かはいたかもしれないけど、そんなのは運よく、或いは奇跡的に何百倍何千倍もの屍の一部にならずに済んだ単なる偶然の産物に過ぎない。

 その産物とてほぼ間違いなくその後首が飛んでるだろうしな。

 まあなんでもいいがとにかく、残された最後の家族にそんな結末を迎えさせるわけにはいかない。

 なまじ憎しみと同等に戦闘能力であったり誇りや仲間意識……というよりは家族愛が強いだけに、そんなことはやめようと説得したところで引き下がってはくれないはず。

 というのは半分言い訳なんだろうな。

 きっと、俺はただ失望されたくないだけだ。

 腑抜けた俺が、そんな奴だとは思っていなかったと言われたくないだけの、言わせたくないだけの哀れで惨めで、その上薄っぺらい見栄でしかない。

 とはいえ黙ってこの流れに身を任せ、討ち死になんてさせられない。絶対にだ。

 だからといってただ反対したところで受け入れられるはずもない。

 ではどうするか。

 代わりの、比較的現実的で生産的な目標や目的を用意するのが最適解であり今出来る唯一の手段。

 人生の成功例……例えば冒険者として成功し名声を得て晴れやかな毎日を送る?

 そんなもんを欲している奴はこの中にはいない。

 商売でもして金持ちになる?

 そりゃあ大層魅力的だが、俺以外にとっては名声と大差ないだろうよ。

 では貴族にでもなって悠々自適な生活か?

 権力や肩書きだって変わんねえって話だ……いや、待てよ?

 貴族になることに価値が無くとも、別の目的のための手段と置き換えればどうだ?

 そうだ、この辺りの領地を治める腐れ伯爵をその座から引き摺り落とし、俺達がこの見捨てられた土地を手に入れるってのはどうだ?

 村の再建と復興。

 これだよ! 

 簡単じゃなくとも恨みを晴らすべき相手であり、手に入れられる物も間違いなく誰もが欲していると言える。

 まさに口に出すだけならパーフェクト・プランってやつだ! 

 やっぱ俺ってば頭良いじゃん、やれば出来る子だと思ってたよ。

「おい、どうしたレオン?」

 一人沈黙しながら必死に思考回路を巡らせていたのを変に思ったのか、ガル兄とついでにアルやネルもが俺の顔を覗き込んだ。

 釣られて他の面々もこちらを見ている。

「ああ、すまん。ちっとばかり今後のことを考えてた」

「おっと、そうだった。うっかり再会の喜びにテンションが上がっちまってたぜ。まずそこからだったな」

「つーか飯食いに行くって話はどうなったんだ? ウチ腹ペコなんだけど」

「なら予定通り飯屋に行くか? 話の続きはそこでってことで」

「いや、それは一旦無しだ」

「え~、なんでだよレオン~。何もこんな所で会議しなくてもいいだろ~?」

「まあまあクロエ、兄さんにはちゃんと考えがあるんだよ」

「そうだぞクロちん。レオ兄の言うこと聞いてれば間違いないんだから。ね、レオ兄?」

「まあ、考えあってのことだと言えばその通りなんだけど……あんまり無条件に信用されると心苦しくなるんだが」

「で? その理由というのは何ですのレオン?」

「難しい話じゃない、単にこれからのことを考えると今は目立ちたくないってだけだよフィオ姉」

「これからってことは……ウチ等が今日ここに集まった目的ってことだよな? さっそく城に乗り込むのか?」

「そんなわけがないでしょう、さすがに無理がありますよそれは」

「だったらどうするってんだよアル坊よぉ。具体的な案はあるのか? ウチは誰をブチ殺せばいい?」

「落ち着けクロ、まずは全員で冒険者パーティーを組む」

「ほう、なるほどな」

「一人で納得してんじゃねえゴリラ。ウチ等にも分かるように説明してくれ、せっかく集まったってのに冒険者になんてなる意味あんのか?」

「ゴリラ言うな。説明してやってくれレオン、フィオやエレンも分かってなさそうだ」

「何故バレましたの!?」

「いや、そんだけきょとんとしてりゃ分かるだろ……」

 溜息と共に、ガル兄に肩を叩かれる。

 アイシスやアルをも含む全員が俺に視線を集めていた。

 皆に無茶をさせない方向に誘導するためにはありがたいことだけど、俺をリーダーみたいに扱われても困るんだが。

「今この瞬間から革命組織なり反乱軍を名乗って、この国や帝国を相手取って抗争を掛けたとして勝てると思うか?」

「そりゃあ……微妙、だな?」

「何で疑問文? 微妙どころか二億パーセント無理がある、一国を相手にするだけでもな。これを復讐の戦いだと位置づけるなら勝つためには何が必要か。戦力であり金であり、何よりも必要なのは情報、そして戦略だ。これはいわばそれらを用意するための活動拠点と建前なんだよ」

「「「建前?」」」

 クロ、ネル、フィオ姉が揃って首を傾げている。

「例えば貴族なり種族なりと取引きが出来る関係を築けりゃいずれ必ず役に立つ。武器や金、情報を手に入れようと動くことにも大義名分をいくらでもでっち上げられる。それなりに名前が売れりゃ全部を自力でやらなくても協力的になる奴も現れるだろう。それなりに名が売れた冒険者ってのは人に知られたくない諸々の準備を整えようと思ったなら一番手頃な立ち位置なのさ」

「なるほど~、だからゴリ兄だけ分かった風だったわけね。つまりは皆でパーティーを組んで有名にすればいいってことだよね?」

「程々に、だけどな。国内で三番手から五番手ぐらいに収まるぐらいがベストかな」

「何故だ? やるからには一番を目指した方がいいのではないか?」

「そう単純な話でもないんだアイシス。一番手ってのはこの国唯一のSランクパーティーであったり今話題の勇者パーティーなわけだが、そこまでいくと目立ち過ぎて周囲の目を引き過ぎるし、英雄視されて国に抱き込まれりゃやりたくもないこの国の民や王家のための活動を半ば強いられる。そんなのはクソ食らえだろ?」

「なるほど~、でも知らない貴族だの種族だのを仲間にするのヤだな」

「俺もエレンと同じ意見だ。これは俺達が俺達のためだけに始める戦いで、お前の言う民衆だ貴族だのは敵の一部だったはずだろう?」

「勿論そうさ。だけど仲間にする必要なんかないんだよ」

「というと?」

「敵の一部だからこそ利用価値があるってことさ。例えばアイシスのおかげでエルフの里は俺達と敵対することはないだろう。クロの仲間達もそうだ。それはやりようによっちゃ名声や評判ってもんに変えられる。名が売れれば味方になろうとする奴、支持する奴が増えていくのを利用することも出来る。いざ事を起こした時に迷いを抱かせられたなら儲けものってな具合でな。どっちにつくべきか、どちらが悪なのか、迷いと不信感は不和を呼び混乱を招く。一国全てが敵ではなくなる可能性が出てくる。単なる理想形で言えばその時に勝手に各地で反乱でも起こればどれだけ事を進めやすくなるか、ってところだな。ようは見極めなんだよ」

「「「見極め?」」」

「……仲良いね君たち。いやそれはさておき、例えば俺は貴族だなんて連中は今この瞬間全員が死んでもいいと思ってる」

「ふむ」

「だけどその中に俺達に都合の良い奴がいる可能性はゼロじゃない」

「具体的には?」

「極端な例えになるが、俺達が国外から武器やら人員を持ち込みたいとする。そこに金さえ払えば何をやっても目を瞑ってくれる馬鹿な権力者がいたとしたら? そいつは死んでるより生きてる方が俺達の役に立つってことだ。貴族に限らず冒険者でも商人でも国のお偉いさんでも何でもいい。冒険者として活動の拠点と建前、コネクションを手に入れるというのはそういう使えるものと使えないものを見極める作業でもあるのさ。正攻法で戦争の準備なんかしたって十年二十年掛かりましたじゃ意味ないからな」

「それがレオンのいう戦略ってやつか。いやはや恐れ入るぜ、俺の頭じゃそんなこと一生考えつかねえわ。やっぱレオンにゃ敵わんな」

「さっすがレオ兄♪」

「そこまでのことでもないけど、そういう意味じゃフィオ姉の元聖女って肩書は最強のカードだしな。実際これはとんでもない切り札だよ」

「ふっふっふ、偉大で勇敢なわたくしを崇め称えなさい」

「さすが八歳まで夜一人でトイレにいけなかったフィー姉♪」

「そうですね。さすがは十二歳の時に山で蛇に遭遇しただけで大泣きして歩けなくなったフィオさんです」

「どうして上げるのと落とすのが同時なんですの!? というか人の恥ずかしい過去を公然と暴露しないでくださる!?」

「大丈夫だって姉御、みんな知ってることだから」

「わたくしのメンタルが大惨事ですけど!?」

「そんな話はおいといて、兄さん」

「ん?」

「先程色々と今の僕達に必要な物を挙げていましたけどその中での最重要というか、今一番必要な物は何かと問われたならどう答えますか?」

 一番欲しい物? 平穏な日常かな。

 と言える空気では勿論なかった。

 戦争をしないにしても、貴族を引きずり下ろしてそこに割り込もうとするなら金は欲しい。

 あればあるだけ力に変わる物に違いはない。が、かといって一番かと問われればそうではない。

 頭数や戦力だって得られるなら願ってもないが、信用出来る奴なんてそうは見つかることもないだろう。

 それらを踏まえて最も必要な物、一番欲しい物は……。

「城で働いていて、それなりに顔が利いて権限を持っている内通者……かな」

「僕も全くの同意見です、さすが兄さんですね!」

 アルはすっげえ嬉しそうに目を輝かせている。

 まあ、アルは実際に他所の国のお偉いさんだったんだもんなぁ。

「口で言うだけなら簡単なんだけどな。俺は、少なくとも冒険者としてって意味ならガル兄と違って特に何を成し遂げたわけでもないし」

「兄さんは目立たずに息を潜めて来る時に備えていたわけですね!」

「……え?」

「だったらゴリ兄はやり過ぎってことじゃん? まったくもう、レオ兄を見習ってもう少し考えて行動してよね。今日を迎える前に有名になってどうすんのよ」

「ううむ……俺にそこまで先を見通す脳ミソはねえからなぁ、素直に反省だこりゃ。いや、それを言うならフィオなんて世界的に有名人になってっけど」

「いや、ちが……」

 そんな計算してねえから!

 誰が計算尽くで五年もその日暮らしなんかするんだよ、馬鹿だろそいつ。



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