【プロローグ】 誓いの紅き情景
目の前が真っ赤に染まっていく。
産まれてからほんの数十分前まで自分達が暮らしていた村が。
寝て、起きて、食べて、働いて、遊んで、夜が更けるとまた眠る、そんな当たり前の毎日を過ごし、疑う余地のない居場所であり帰る場所であるはずの自分の家が。
毎日を共に過ごしてきた牛や羊達が。
すぐそばにある小さな山の上から見下ろす景色が、ただただ全てを焼き尽くす炎に飲み込まれていく。
第三者が見れば地獄その物で、当事者にとっては全てを終わらせ、生き残った俺達にとっては全ての始まりを告げる光景。
そのはずなのに。
倒壊していく家屋を目にしながら、消し炭になっていく畑を見ながら、何よりも先に子供を逃がさなければと緊急時用の隠し通路に俺達を押し込んだ父でありこのクリント村の村長が火矢に撃たれて動かなくなり真っ黒になっていく姿を眺めながら、どこか頭がふわふわした感覚のまま無感情で立ち尽くすことしか出来ない。
だけどそれでも。
目に映る全ての惨状と悲劇を。
俺の腰にしがみ付き、幼いながらに喚いたり叫んだりしてはならない時と場合なのだと理解して声を殺しながら大泣きしている弟分達の嗚咽を。
歯を食いしばり唇から血を流しながら、それでもこの光景を終生忘れてなるかとばかりに怒りと憎しみの籠った目でジッと見つめているやんちゃ仲間達の涙を。
そして悔しさと己の無力を呪わんばかりの無念さを滲ませながら怒りに震える兄貴分達の表情を。
俺は生涯忘れることはないだろう。