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反乱・2

扉には特殊な仕掛けがされていて、魔力を流し込むと鍵が閉まる。そして、二度と開くことはない。 魔力を流し込んだ()()()()()()()()

もう、逃げ場は無くなった。


寝室の扉を閉め、続きの間に戻ってきた私に気付き、近衛兵達が慌てる。

「ヴィオラ様!?」

「私が逃げたら、魔方陣の効果が無くなるもの」

微笑んだつもりだが、上手く笑えていただろうか。

そして完全防御、『完璧なる盾(テリオアスピダ)』の魔方陣を敷いた。


再度、爆発音が鳴り響き、床が揺れ壁が崩れ落ち、砂煙が上がった。

砂塵の向こうにラウルの姿が確認できた。

(ここから先へは、行かせない)


「ヴィオラ、やっと見つけた。 早くこっちに来いよ」

ラウルは、私に向かって両手を広げてくる。何を考えているのだろうか。

「もう、いいんだぜ。俺が()()()を倒してやるから、もう、ライリーの所に行く必要はないんだ」


何を言っているのだろうか。私がライリーと婚姻する事と、陛下とは何の関係もないのだが。


「俺に任せろ。ユニコーンの乙女だからって国の命令を守らなくてもいいように、俺が、お前を救ってやる」

「命令って何? 私は誰にも命令されていないわ」

ラウルの物言いに気圧(けお)されそうになる。


「ハッ、わかってないな。 ユニコーンの乙女の保護は()でもできるだろ? なぜ、わざわざ()に行く必要がある? フェリクスが()寄りだからだろう? だから、お前が蒼に戻れるように、ヤツを倒してやるよ。俺のものになれよ」


そう言いながらも、私の盾に攻撃を仕掛けてくる。 言っている事と、行動がちぐはぐだ。


「なぁ、笑っているうちに、この魔方陣を畳みなよ。 俺に勝てると思っているの?」

激しい火花が飛び散る。 私の『完璧なる盾(テリオアスピダ)』は、かろうじて耐えているような状態だった。


「ヴィオラ。魔法攻撃と物理攻撃と、どちからが防御魔法に強いか覚えているか?」

ニヤリと笑うラウルは、剣を抜いた。

(まずい!)

と思った瞬間、()を壊された。 すかさず、近衛兵が立ち塞がった。


※※※


「ヴィオラ!ヴィオラ!」

フレイヤは、声の限り叫び、扉を叩いていた。 ヴィオラの魔力によって鍵をされた扉は、びくともしない。


「フレイヤ……、悪いが先を急ごう。 私はこの剣を奴らに渡す訳にはいかない」

フェリクスは、絞り出す様にフレイヤに告げると、宝剣を握りしめた。

「ごめんなさい……フレイヤ……」

ジョセフィーヌがフレイヤの肩に、そっと手を置いた。


扉の向こうを凝視しながら、フレイヤは告げた。

「ラウル様、一人みたいですね。 他が来る前に行きましょう。火の勢いは弱まったみたいですね……。あぁ、アジュール様の気配があります」


フレイヤは、涙をぬぐい立ち上がる。


()の前で火を扱うなんて、バカにしてるわよね」

ジョセフィーヌは、そう言いながら両手を掲げ、ニコリと笑った。

「何をしているんだ?」

フェリクスが不思議そうに、ジョセフィーヌに尋ねると、彼女は、()()()()にメッセージを送った。と答える。

「王宮の上に紅飛竜を()で作った」と。


※※※


―――魔法で作り出した灯りを頼りに、薄暗い地下道を三人は進んでいた。 数十分も歩けば、柘榴石(ガーネット)宮の近くに出られるはずなのだが、気が急いているせいか、数時間にも感じていた。


フレイヤの透視で、王宮は蒼の一族、正しくはサフィルス公爵一派に取り囲まれている事はわかっていた。

さすがに、紅と全面的に争うつもりはないだろうから、無事に柘榴石(ガーネット)宮に逃げ込むのが先決だった。


宝剣を取られ、ルイ王子の婚約者マーガライト侯爵令嬢、いや、蒼の一族に渡ってしまえば、ルイの思惑とは関係無く、彼が()()となってしまう。


それまで、ヴィオラが持てばいいのだが……。


三人共、その事は感じている。重苦しい雰囲気が漂っていた。

自分達の命は、このプロテア大国の平穏はヴィオラ一人の命にかかっていた。


「ライリー様とジョシュア様が来ます!」

フレイヤの明るい声が、通路に響いた。


これで、助かる。ジョセフィーヌの紅飛竜のメッセージが伝わったのだ。 紅の一族が王宮に集まるだろう。

フレイヤは、胸を撫で下ろす。


カツカツカツ……

早い靴音が近づいてきた。 燃えるような紅髪が暗い通路に浮か上がってくる。 その隣には鈍く光る大柄なシルバーの髪。 ライリーとジョシュアだった。


「陛下! ご無事で」

急いで駆け寄る二人だった。 その後ろには紅の騎士が(ひし)めいてきた。


フェリクス国王を含め三人を確認したライリーは、辺りを見渡しながらフレイヤに尋ねた。

「ヴィオラは?」

ピーンと空気が張り詰める。


「何かあったのか? ヴィオラはどこだ?」


三人共、ライリーと視線を合わさずひたすら床を見つめている。 誰も答える勇気がないのだ。

不思議そうに尋ねていたライリーの様子が、だんだんと焦りに変わっていくのが、手に取るようにわかる。


「―――陛下」

ライリーは、フェリクスに近付き(ひざまず)く。 フェリクスは、ライリーの呼気からアルコールを感じ取っていた。

フェリクスは、ギュッと拳を握りライリーの不安に揺れるルビーを見つめ、ボソリと(つぶや)く。


「―――隠し戸を守っている。すまない」






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